浪人と妖刀とからかさ小僧

江戸八百八町。天下は泰平、なべてこの世は事もなし。

そんな平和な町で、今日も浪人は傘を張る。


「お前は傘職人か?もう少し戦いに身を置け。お前の夢は侍だろうが」

「うるっせぇな、食わなきゃなんにもできねぇだろうが」


相変わらず妖刀は浪人に説教をする。

ただ、今日は日常と違っていた。

今張っている傘に眼がある。足がある。


「おっ、なんだこの傘。なんか普通と違うぞ」

「浪人、これはあれだ。からかさ小僧という妖怪だ」

「なんだ妖怪か。おい傘野郎、喋れるか」


「うるせぇやい、妖怪妖怪って。傘が妖怪だったら駄目なのかよ」

「いや、そういうわけじゃ」


聞いてみると、長年使われているうちに、気付いたらこうなっていたそうだ。

「ふぅん、付喪神ってやつなのかねぇ。しかしこうなったら気合入れて修復してやらないと、申し訳が立たねぇな。よし、きっちり直してやるから俺に任せな」

「よろしく頼むよ。また俺はご主人の元へ戻りたいんだ」


浪人はいつもより丁寧に施工した。なんたって付喪神様の直接の頼みなのだ。


「どうでぇ。どこに出しても恥ずかしくねえように仕上げたぜ」

「素晴らしい。有り難いよ、ここまでやってもらって。是非お礼がしたい」

「いいよいいよ。お前がご主人に気に入られてくれりゃあそれで良いよ」

「ありがとう、からかさ小僧として凄く有り難い。本当にありがとう」

「おう!ご主人のところに行っても、元気にやれよ!」


それから数日後、依頼主が浪人の元にやってきた。


「眼があるし、ベロ出すし、持つところが足だ。こんな傘使えるか。金返せ」

金は返して、普通の傘を渡した。


「へへへ、ただいま」

「なんでお前らは傘になったら必ず戻ってくるんでぇ。いい加減にしろ」

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