浪人と妖刀
やざき わかば
浪人と妖刀の出会い
江戸八百八町。天下は泰平、なべてこの世は事もなし。
そんな平和な町で、仕官の道を志しながら傘張りをしている若い浪人がいた。
類稀なる武芸の腕を持つ彼でも、この平和な時代で仕官に取り立てられることは容易ではなかった。
傘張りでも食べていけるし、傘張りに飽きたら他の仕事に簡単に就けるこの江戸は、案外呑気なものであった。だが浪人は飽くまでも仕官一筋。清廉潔白とは言わないまでも、真面目に生きている。毎日の稽古も欠かさない。
さて、その日の傘張りを終え、灯りを消して寝ようとしていたところ、どこからか声がする。
はじめは外で誰かが話しているのかと思ったが、よく聞くと、低く不気味で、くぐもった声がこの部屋の中のどこからか聞こえるのだ。
「おい浪人、俺をここから出せ…」
浪人は驚いて部屋中を探した。どうやら自分の刀から聞こえているらしい。薄気味悪いながらも、このままではどうにもならないので思い切って刀を鞘から引き抜いた。
「おお、やっと出られた。いいか浪人、俺は妖刀の魂。代々お前の家系に取り憑いているものだ。俺は人間の血が好きでな、お前も腕は立つようだがそれ以上に俺が存分に働かせてやる。お前の戦の英雄という地位は約束されたぞ、喜べ。さぁ戦場はどこだ。今宵の俺は血に飢えておる」
機嫌よく語る自分の刀に呆然とする浪人。そしてため息交じりに言った。
「それ、竹光なんだけど」
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