第3話 おっさん最初の街に降り立つ

俺が転送された場所はどうやらゲームでいうところの始まりの街みたいだ。

この街の名前はクェルーというらしい。

今いるところは、マップで確認すると、街の中央の広場という事が分かった。

そのままマップを片手に伊藤が指定した場所に早歩きで向かう。

そこは、広場から体感で5分程度歩いたところにあった。

そこは小さな公園の様な場所であった。

おかしい、伊藤は先にログインしてここで待っているはずだ…

そう考えながら、公園の中央に向かう為に足を一歩踏み出、せなかった。

何故なら、俺の体が何者かに持ち上げられていたからだ。

「あの、ちょ、ちょっと離してください!」

俺のレベルが1というのもあるかもしれないが、それでも成人男性を持ち上げるのは、一体どんな化け物だ…首を限界まで首を捻ってその姿を確認しようとする。

「はぇ」

自分でも情けない声が出てしまった。けど仕方ないと思う。

だってそこにいたのは、ゴリラでも化け物でもなんでもない、華奢な森人エルフだったからだ。

その森人は、俺に、にっこりと微笑みながらこう言った。

「犬助遅いよ〜」


状況を整理しよう。

俺は伊藤との待ち合わせ場所に行ったら、何者かに持ち上げられていた。

そいつは、俺のリアルの名前を知っている。

また、女性である。

このことからこいつが誰なのかは直ぐに理解できた。

「お前、伊藤か」

「そうだよ〜」

やはり俺の予想は当たっていたらしい。

まぁ、そんなことよりも大切なことは…

「なぁ、いい加減降ろしてくれないか」

「遅れて来たのが悪い」

「許して」

本心からそう言う。しかし、

「許さない」

許してもらえなかった。

「周りの視線が痛いのですが」

さっきから、公園に居るプレイヤー達からの視線が自分に集中していて、とても恥ずかしい。

プレイヤーの方々もこんなおっさんを見るんじゃなくてもっと可愛いとか、かっこいいキャラ周りに居るじゃん…

そう思っていると、ようやく許してくれたのかようやく俺の足が地面についた。

はぁ、どっと疲れた…

「じゃあ気を取り直して自己紹介から、私の名前はセト、よろしくね」

人の気を知らずに伊藤改めセトは笑顔でそう言ってきた。

「はぁ…俺の名前はベルスケ、よろしく」

とりあえず俺たちは自己紹介を済ませて、街の外のフィールドに向かいながら話をした。

「ベルスケ、リアルと容姿あんまり変わってないよね」

「自分じゃ顔見れないから分からんわ」

「じゃあこれ、あげる」

そう言って、手鏡をストレージから出して、手渡してきた。

手鏡で自分の顔を見てみると、ほとんど俺のリアルの顔だ。

違う所があるとすれば、顔にところどころ鱗のようなものがあり、短い白髪と髭が生えているというところだけだ。

「たしかにあんま、変わってないな」

そう言いながら、手鏡をストレージにしまう。

「種族も竜人ドラゴニュートだしさ」

「そういうお前は森人じゃん」

手を前にクロスさせながら、

「ブッブー、セトちゃんは森人なんかじゃありません〜セトちゃんは王森人ハイエルフです〜」

「その一人称やめろ、気色悪い」

「は〜い」

そんなことを話しているうちに街の門の所まで来ていたらしい。

あと二、三歩歩けばフィールドに出られるようだ。

幾つものゲームを遊んできた俺でさえ、これからどの様なことがあるのか全く分からない。

これじゃあまるでゲームを生まれて初めてやった子どもみたいだなと思っていると、

「緊張してる?」

とセトが尋ねてきた。

「まぁな」

そうぶっきらぼうに返事を返すと、

「これは、ゲームの中なんだからリラックス、リラックス」

どうやらセトなりの気遣いだったらしい。

「お気遣いどうも、おかげで緊張がほぐれたよ」

「それなら、良かった」

セトのおかげで緊張がほぐれたところで、

「それじゃ、行こうか」

俺はそう告げるとフィールドへ歩みを進めた。

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