生涯現役、R.B.ブッコロー
@happy_Marco
第1話 生涯現役、R.B.ブッコロー
人類がYoutubeを見る時代は終わった。AIの台頭である。高性能AIは視覚的分野にて優れた功績を収め、PCを持つ者なら誰もがまるで本物のような動画を各々自由に作り上げるまでに至った。広いネットの網の中、半永久的に自動生成させた動画が所狭しと溢れ出すと、世の中の人々はYoutubeのみならず動画自体に興味を示さなくなった。それが本物なのかAIが作った精巧な偽物なのか、見分ける術もなくどうせ皆んな分からないからだ。それよりも、4Dや体感型の映像経験を謳うサイトが次々と普及し、画面の前に座って何の技術も変哲もないたかが動画の視聴を強要するYoutubeなど今日流行するわけがないのが現状である。
そんな、世界で見捨てられたかのようなYoutubeに細々と動画をアップするYoutubeチャンネルがあった。Youtube全盛期から続くそのチャンネルには、有隣堂という名の会社を筆頭としさまざまな企業の中の人が出演する10〜20分程度の動画が何百と上がっている。人よりも人らしい姿をAIで生成できるこの時代に、未だぬいぐるみの背後に人の気配を見せ、紹介する筆記用具で綺麗な字を手書きする謎の男の手があり、文房具王に成り損ねた女と一緒に映るチャンネルである。
それが有隣堂しか知らない世界である。
すでに世間の興味関心はより技術の高い方に流れているにも関わらず、有隣堂しか知らない世界はいまだに動画をYoutubeへとアップし続けている。平均視聴回数数は2億回。ただこれは生身の人間を使用した動画は実視聴回数よりも多く表示させる過剰なアルゴリズムの結果であり、本当の再生回数は誰も知らない。視聴回数10回かもしれないし、はたまた100万回かもしれない。誰も見ていないことも充分にありえた。
もちろん、Youtubeには有隣堂しか知らない世界を学習したAIによる質の高い動画はたくさんあり、美声のR.B.ブッコローがまるで生きているかのように動き、登場する有隣堂社員は皆有能でミスもなく、文房具王に成り損ねたことなんかないほどの立ち振る舞いを見せる。紹介する文具はもちろん店舗で取り扱っている。そんな完璧に近づいた動画はAI有志の手でさまざまな形で投稿されていた。Youtubeが動画のAI学習を許可して以来、ずっと。
しかし、有隣堂でしか知らない世界では未だR.B.ブッコローの背後に隠れている黒子がちらりと映り、文具が手渡されるのは画面の中のR.B.ブッコローではなく、左端にいる誰かだ。
今更世界は変わらず、ネットの田舎に細々と続くチャンネルが日の目を浴びることはもうない。けれども有隣堂が動画を上げ続けるたび、画面の中ではR.Bブッコローはボイチェンされた声で辛口なコメントを発信し続け、それを受けた有隣堂社員は苦笑するという変わらぬ構図がある。
今日もまた、動画が上がる。一生現役でいてくれやの声も聞こえないまま、R.B.ブッコローは一生現役で居続ける。有隣堂万歳。
生涯現役、R.B.ブッコロー @happy_Marco
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