第209話 みんなで仲良く。泡々で幸せなクマちゃんたち。
微かなホコリも許さない赤ちゃんクマちゃんのお願いにより、最初に作った露天風呂へとやって来た彼ら。
ボサボサだったリオの心も、癒しの湯でやや滑らかになったようだ。
「花、光ってる……」
繊細な彼はいつも通りに優しい光を放つお花のシャワーを見上げ、失った何かを回復しているらしい。
子猫のようなクマちゃんはルークに泡々もこもこ洗われながら考えていた。
うむ。とても気持ちがいい。
クマちゃんの体を大きな手が包み込んでいる。
いつもよりも大きい気がするが、気のせいだろう。
お仕事のあとは良い香りの石鹼で汗を流すのが一番である。
悪の組織の企みを阻止してしまったかもしれない偉大なクマちゃんは、泡を流されほっそりとしつつ、もう一度うむ、と頷いた。
癒しのシャワーで体を洗い、温泉につかる四人と一匹とお兄さん。
ゴリラちゃんは何故かまだ帰ってきていない。
「リーダーあれってどうすんの?」
滑らかになった心の扉をスッと開いたリオが、ルークに尋ねた。
魔王の腕の中のほっそりクマちゃんが、口を開けたままこちらを見ている。
仕事的な『あれ』の詳細は言わないほうがいいだろう。
「さぁな」
雫が落ちる銀髪を邪魔そうに払った男が、雑な返事をする。
ルークはリオの質問が『森の奥を調べる仕事はどうなったのか』というものだと解っていた。
〝もや〟関連の仕事は増えたが、冒険者は数が多い。
マスターが『両方やれ』というなら森の奥へはルーク達が行くことになるだろう。
彼はここから見えない別荘の方へ視線を流した。
そろそろクマちゃんニュース再放送の時間だ。
「やべー、耳の奥ぼわーってなってる」
先程お花のシャワーを見上げていたリオは、耳の中に入った癒しの湯が抜けないようだ。
手の平で耳を押さえ、問題を解決しようとしている。
南国の鳥が露天風呂から上がり、
「ねぇお兄さん。あの魔道具のことだけれど――」
会議室のブツについて話し始めた。
水音も立てずスルリと温泉から出たお兄さんが、
「クマの魔道具は――」
頭に響く不思議な声でゆるりとお告げのように答えている。
魔王がもこもこを抱えたまま湯から上がり、暖かな魔力でクマちゃんを包んでいる。
もこもこは彼を見上げ「クマちゃ、クマちゃ……」と愛らしい声で甘えるように『最新クマちゃん情報』を伝えた。
『再放送ちゃ、すぐちゃ……』
早く戻らないとクマちゃんニュースの再放送が始まってしまいますね、と。
もこもこが出るのを待っていたらしい氷の紳士が、静かに頷き彼らの後を追う。
「なに? クマちゃん今何か言った? めっちゃ耳ぼわってんだけど」
『最新クマちゃん情報』を聞き逃し、時代と風呂に取り残された耳ぼわ。
――ぼわー――。
という音が響くなか、耳の奥を癒したり塞いだりしている『癒しの水』を除去したリオは、
「普通に置いて行かれたんだけど……」ひとり寂しそうに呟いた。
◇
鮮やかな音の世界を楽しみつつ別荘へ戻った彼は、
「何でまた観てんの?! まさかまた『全森の街』じゃないよね?!」
楽しく再放送を観ている彼らに目を剝いて叫んだ。
「リオ、少しうるさいよ」
ウィルは優し気な声で、再度金髪の毛羽だった心の毛をむしった。
男は再び心の扉を固く閉め、むしられたそれを癒した。
ソファで彼らに背を向けあばら家のような心に引き籠っている彼に、心優しいクマちゃんの声が「クマちゃ、クマちゃ……」と愛らしく掛けられた。
『リオちゃ、一緒ちゃ……』
絶対に観たくないあばら家と毎日新築のようなクマちゃんが数分揉め、
「えぇ……それはずるいと思うんだけど……」愛らしさに負けたリオは静かに彼らの輪に加わり、いつも通り仲良く素敵な時間を過ごしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます