世界の裏側のひとりあそび


 一人。


 お菓子だらけの可笑しな世界でその一人は鼻歌を歌っていた。


 青も赤も白も、空も太陽も雲も。

 あるのはあるが、光を発さないし遮らないし動かない。ここは虚像なのだ。元ある正しい肉体的な世界の虚像、模造品とも言えるある種の芸術的作品だ。


 事実ここに在るもの全てが模倣でしかない。


 虚像というのはあくまでも比喩、実際見聞きするものは虚像でも感覚や効能としては全くの別物なのだ。

 何もない、形だけ。


 ならば、何の為に在るのか。


 それは明白。

 世界の裏を閉じ込める為だ。


 要は檻、牢獄。



 いいなれば裏世界とも呼べる。



 表が肉体的な現実感を突出させ自由に指せるもので、裏が精神的な非現実を具現化し閉じ込めるもの。先の怪物もその一例だ。 


 精神的なものを具現化した怪物。


 だがそれはもう退治された。

 暴れこの世界が壊される前に、【アリス】によって。


「怪物はお菓子に成り謎世界は救われましたとさ。ちゃんちゃん!」


 なんてナレーションを勝手にしてみたものの世界が救われたところで何なのだ、と思ってしまった。


 結局世界の存在価値の根本はそこに居る人。


 人が命が、生命体がいなければ。

 世界の価値は無い。


 世界は何の為に存在しているのか、という疑問をせざる得ない。


 人っ子、ひとりさえいなさそうなこの世界が救われたところで、誰も喜ばないし恨まない。守るものが世界そのものでも、世界を愛する人だなんて片手で数えるほどもいないだろう。


 だが。


裏世界ここ表世界あっいと繋がってる」


 だから表裏一体なのだ。


 微笑みから物憂げに、物憂げから微笑みに。一人愉快げに指で虚空に描くものの形は曖昧だ。描くわけでも、空気を操るわけでもない。

 なんの意味のない行為、それなのにそれに世界は連動する。


 なぞった虚空部分は歪み淀み震える。


「会えたみたいで良かった。なかなかいい仕事をするじゃないか、あのねぼすけは」


 終止符にぱっとデコピンをする。

 虚空は弾け、歪み淀みは収まった。


 お菓子のオブジェが散々とある道路の真ん中を歩きながら何度も何度も繰り返す。すれば不思議なことにお菓子が可笑しな効果音とエフェクトで消えていく。それをぐるりと広いこの世界を周り行っていく。


 長いように思えるが、時間という概念がここには存在しない。

 心置きなく一人は作業を鼻歌交じりに続ける。


 そして思う。

 先程までいた二人のことを。




「早く救ってあげてくれよ」




 不幸でも幸福を諦めない可愛くて可哀想な少女達。


 そういう少女が好き一人は密かなエールを送る。


 一人は、幼い男児。

 名を奇練魔友人きねまゆうじんという。

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