43話 王城にて
護衛に案内され、王城へ入る。
出てきた正門からでなく、裏門からだった。
踏み入れながらサリーはユーナの袖を掴む。
あんな事を言ってはいたがやはり不安なのであろう。
「ひとまず、今晩はここで休息をとってください」
案内されたのは整えられた部屋。
そう、最初の時に案内され3人で寝た部屋だった。もちろんベッドの下にはあの魔法具が設置されている。
「前と同じ部屋だね」
ユーナがそう言うが、サリーは何か落ち着かない様子で室内を見回している。
「サリー?」
ユーナが訊くと、
「なんか、嫌な感じがする」
サリーが小声で返した。
そう言われてユーナは室内を魔力で探るが、例の魔法具以外は特に違和感は無い。それも前と同じで睡眠誘導のみの効果だ。
「作戦会議は止めておいた方がいいっぽい?かも」
魔力反応も視線も感じないが、それをかいくぐっての盗聴盗視の可能性もあるかもしれない。おおっぴらに話すのは良くないと判断した。
「それにしても、何の用なんだろうね」
現状当たり障りのない話題として選んだのはやはりこの内容くらいしかないだろう。
「勇者であるリョウならまだしも、私たちが呼び戻される用事ってことだものね。もしかして、戦いに行くのは勇者だけでいいから巻き込まれてやってきた私たちを保護する目的だったりして」
保護、という言葉を別の意味でとるのなら間違っていないのが残酷な事である。
「保護、ね」
ユーナは保護という言葉で思い当たる事があったが、さすがにそれはと思い直した。
“遊び相手”として呼び戻した可能性についてだった。
そうこう話していると、ふいに魔法具が起動した。それもかなりの威力で。
ユーナは耐えられるレベルだったが、サリーはそうはいかなかった。
突然襲ってきた急激な眠気に身体から力が抜けてしまう。水晶眼の耐性がなければ確実に眠ってしまっていただろう。
倒れそうになるサリーをユーナが抱き留めた。
「急に、眠く……?」
かろうじて意識を保ってはいるが、いつ寝落ちてもおかしくないような状態だった。
ユーナは役得だと思いながらも魔法具の効果を打ち消す。
それでもサリーは意識が朦朧としたままだった。
「これはこれは。まさか魔法具に抗っているとは」
ノックもなしに開けられた扉からは2人の男が。
当然のように王と大臣の2人だ。
「ピンク……真っ黒……」
サリーはユーナにそう伝えると、眠気に負けて眠ってしまった。
「真っ黒なピンク、ね」
さっきかき消した想像が当たっていたことを確信した。
「そっちの女は眠ったようだな。おい」
王が大臣に声をかける。
「承知しました」
大臣が焼印の押された杖を掲げる。
「眠った女を置いて、お前は服を脱いで跪け」
そう命令した。
「驚いた、まだ暗示の効果残ってたんだ」
ユーナはぽつりとそう呟いた。王都から離れたころには暗示の効果はなくなっていると思っていた。
「さっさと従わんか!」
王は命令に従わないことに苛立ち声を荒らげた。
「おめでたい頭だね」
ユーナは一言、煽る。
「おい!どういうことだ!」
王は大臣に向かって怒鳴る。
「ど、奴隷印が反応を示しません……」
大臣は冷や汗をかきながら返答した。
それもそのはずだ。そもそも奴隷印は押されていないのだから。
「ならば力ずくで押さえつけろ!所詮女だ!」
王の命令に、大臣は持っていた杖を思いっきり振り上げた。
そしてそれがユーナに向かって振り下ろされようとしたところで動きを止めた。
「なっ!?」
大臣が振り上げた杖を見ると、黒い鎖が巻きついていた。そして、杖ごと大臣を吊るし上げた。
「は?」
その状況を理解する前にもう一本現れた鎖が、王を床に縫いつけた。
「魔法具が効かなかったから物理に訴えるなんて、ほんとに単純な思考回路だ。それで、僕をどうするって?」
ユナは動くことすら出来なくなった2人を見据えてそう言った。
言うまでもなくその鎖はユナが出したものだった。
「なんだこれは!お前か!?お前がやったのか!?さっさと外せ!」
王が床に這いつくばったままそう喚く。
「外すわけないだろう?」
ユナはそう冷たく言い放つ。
「なんとなく予想はしていたけれど、ね。……一応訊くけど、僕たちを呼んだ目的は?」
そう訊きながら軽く鎖を絞める。
ギリッという音と共に呻き声が響く。
「はぁ、やだやだ。オッサンが絞められる絵面なんてなんの得にもならないし、見たくもないんだからさっさと答えて」
それでも答えようとしない2人に、心底嫌そうに言う。
「って、あれ?」
王と大臣は泡を吹いて失神していた。
「えぇ……?あっさり落ちるなんて弱すぎない?副次効果の方もそんなになかっただろうに」
黒鎖の副次効果はマイナス感情の増幅だった。こういった場合は主に恐怖心を増幅して自白剤のような効果を出す。とはいっても拘束目的で出したものだったのでそちらに魔力は割り振っていなかった。
「こいつらの目的はわかったけれど、全体的な悪意っていうのがわかってないんだよね。サリーも眠っちゃってるし、どうするかな」
ユナはサリーを抱き抱えた役得状態のまま思考に耽った。
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