27話 記憶干渉魔法

 さて、そろそろ戻ろうか。戦利品が増えたとはいえ目的は果たした訳だし。

 そう思い召喚部屋を出た。


 ところで、

「だれだ!そこで何をしている!」

 巡回の兵士に見つかった。ちょっとだけ気を抜いていた。

「あ、やば……くもないか」

 一目でその兵士の練度を見抜いてたいして動じることなく、その武器に手をかけた兵士に近づいた。

「はーい、ちょっと忘れてね」

 そう言いながらすれ違いざまに兵士の額に手をかざす。


「あ……?」

 兵士は数秒、うつろな視線を彷徨わせ、

「おっと、何立ち止まってんだ俺」

 と、首を傾げながら巡回に戻り、通り過ぎた。

 すぐ後ろで見ているユナには全く気づく様子もなく。


「久々に使ったけれど案外なまっていないものだね」

 去って行く兵士を見ながらそう呟いた。ちゃんと気配隠蔽張り直したから気付かれないのをいいことに、ひらひらと手を振りながら。



 使ったのは短時間、直前の記憶を曖昧にする魔法。魔法抵抗が弱いあの程度ならたいして魔力を使うこともない。もしかしたら少しくらい違和感があるかもしれないけれど、すぐにたいしたことないと忘れるだろう。


 記憶に干渉できる闇属性魔法は便利だと改めて思う。

 あまり使いたくないものであるという認識を昔は持っていたけれど、正直後処理するのにはめちゃくちゃ楽だから使ってしまう。

 仲のいい人や身内にはあまり使いたくはないけれど、本人の同意がある場合や頼まれたときに失敗しないように練度は落とさないようにしたい。


 前に雫に使った時に失敗したことは、今でも少し未練がある。加護の反発でダメだったことを考えると、今回はできるんじゃないかって思う。本人が望むならだけれど、後で訊いてみるのもいいかもしれない。

 そう、今回の召喚は巻き込まれだから、召喚の加護をあまり受けていないんだ。前回の加護は帰還の時にほとんど返却してあるし、今回のはそもそも対象ではなかった。

 多分ウィスタリアに行けば加護の再付与くらい出来るだろうけれど、今は必要ない。


 ……必要にならないといいなって思う。



 それからはさっきの失敗を反省し、警戒していたこともあり何事もなく城を出ることに成功した。

 せっかくここまで来たのだから、情報収集でもしていこうかと思ったけれど、なんとなくここは居心地が良くないと感じるから、さっさと戻ろう。



 後になって思うと、この時もう少し頑張っていれば、この後起こるトラブルを防げたのだろう。

 あれは本当に面倒だった。




――――――――――――

 ユナが城を出て行った頃。


 王城の一室で、2人の男が会話をしていた。

 王と大臣だ。大臣は最初の夜に侵入していたひとり、肥えたオッサンだ。


「勇者の、その後の動向は?」

「現在地はオブシディアン、まだリースベルトは出ていないようです」

 王の質問に、大臣は手にした用紙を見ながら答える。


「そうか。ところで連れの女はどうした?残して遊ぶ予定ではなかったか?」

「それが、何らかの不具合で共に旅立ってしまいました」

「不具合?原因は」

 王はイライラした様子を隠すつもりもない。

「申し訳ありません、不明であります」

「もったいないことをしたな。あそこまでの美形揃い、遊ぶにしても売り飛ばすにしても母体にしても優秀だったろうに。損害は大きいぞ」

「申し訳ありません。……連れ戻しますか?まだそこまでの距離離れているわけではないので、近付けば奴隷印の発動もできるかと」


 そう、あの時ユーナとサリーに奴隷印をつけたつもりでいるのだ。実際は何も出来ていないのに。

 そんなことにも気付いていない2人はさらに会話を続ける。

「そうだな、逃すのは惜しい。勇者には働いて貰わなきゃならんが女がいたら邪魔だろう。こちらで引き取ってやれ。

 そうそう、セレナータを連れて行っても構わない」

「仰せの通りに」


 2人の男たちはニヤニヤとしたゲスい笑みを浮かべていた。

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