26話 潜入

「とりあえずここまで来たけど……」

 予定通り短時間でリースベルト王都まで戻ってきた。

 王城周辺は、当たり前だけれどしっかりと警備がされている。


「甘いなー」


 遠目に1周王城を回ってみたけれど、巡回する兵士は少なく、出入りされる扉周辺はほとんど警備がない。塀は高いとはいえ、簡単に越えられる高さだった。

 けれども塀の上には魔力障壁が張ってあり真上を飛び超えれば侵入は筒抜けになってしまう。見たところ上空に行けば障壁はなさそうだれど、壁には適用されていない。

 障壁維持のコストをケチったのか、壁抜けされることを想定していないのかはわからないけれど都合がいい。


「ブリンク」

 軽く唱え、次の瞬間には王城敷地内への侵入に成功していた。

 その周辺に警備がいないのは外からの索敵でわかっている。

 外側の警備は力を入れているようだが、内側はガラガラだ。さすがに城の内部は巡回も含めそこそこ人は多いようだが。


 とりあえずは謁見室に向かうことにするかな。そこからなら召喚陣の場所も覚えてるし、人の量で大体の位置はわかった。

 固めすぎだろう、なにを恐れているのか。それなのにすぐ傍には少ない。


 この感じだと気配隠蔽だけでいいかな、ここの兵士そこまでの練度じゃなかった。

 そして外壁はブリンクで通り抜け、あとは人にぶつからないように進むだけの簡単なお仕事。

 呆気なく謁見室前の通路まで辿り着いた。扉の前には前と同様、兵士が立っている。


 さーて、召喚された部屋になにか手がかりがあるといいのだけれど。

 そう思いながらその場を離れた。




「ん?」

 扉の兵士がユナが消えた場所を見た。

「どうした?」

 もう1人が声をかける。

「いや、な。さっきそこを誰か通ったような気がしてな」

「気のせいじゃないか?でもまあ、気になるんなら離れてもいいぞ、そういう勘は大事にすべきだしな。もうすぐ交代も来る時間だし、適当に言っといてやるよ」

「そう言ってくれるならちょっと見てくるよ。多分気の所為だけどな」

 兵士のひとりはユナを追う方向へ向かった。




 ひとり、こっちに来てる?気づかれた?

 召喚部屋の前まで来た時、気づいた。さっき扉の前にいた1人がこちらへ動き出した事に。舐め過ぎていたかと少し気を引き締める。

 さっさと入ろう、と、またブリンクで入ろうと考えたが、部屋の内部を思い出した。

 確か、外側からの魔力阻害があったっけ。

 そう、それでは魔法で入ることは出来ないし、出来たとしてもバレる可能性が上がる。


 なら、普通に扉から入るかな。時間かけてたらあの兵士がこっちに来そうだし。


 扉に手をかけるとあっさりと開いた。

 鍵すらかけてないってやばいでしょうよ。まあ恐らくこの部屋は重要視されていないのだろう。なにせよそ者嫌いな国だ。異世界に繋がる召喚陣なんて普通に考えればかなり価値のあるものだけれど。



 ユナが扉に入ったあと、外を兵士が通り過ぎた。やっぱり気の所為だったか、という独り言がきこえた。



 さーて、何かあるかなーっと。

 部屋の結界には内部の魔力や音などを外に漏らさない効果もあることを確認したユナは魔法で軽く探った。しかしなんの反応もない。目視で探しても何もなかった。


 魔力に反応したりとかしないかな。出掛け前にリョウに使った魔石があったのを思い出し、それを取り出した。その魔力を解放させ、召喚陣へと投げる。


「これは当たりだったなー……。外に漏れてないよね?」

 召喚陣は激しく光を放ち、バチバチと放電した。

 結界のおかげで漏れていないことを祈るしかない。なにせその効果で外の様子を中から探ることは出来ないからだ。


 光がおさまると召喚陣の中心に箱が出現した。


 召喚陣の魔力が完全におさまったのを確認し、箱に近付いた。

 箱の中には使い込まれた装備一式と、1冊のノート、そしてメモが入っていた。


 メモには日本語で、

『来栖燎原へ

 はじめのうちはこの装備を使うように。制御特化の装備だから動きやすくなるはずだ。

 この手記もこれからの行動に役立てて欲しい。他の人には読めないようにしている』

 と書かれていた。


 ノートをめくると、白紙だった。他の人には読めないようにしているとのことだったからきっと本人なら書いてある内容がわかるのだろう。

 まだリョウから奪った魔力を閉じ込めた魔石は残っている。それを使えば恐らく見れるのだろうけど、それをするつもりはない。そこまで干渉する義理もない。


「これは本人に渡さないとかな。マントが見つかれば良かったのにまさかのフルセットって」

 呟いてメモとノートを箱に戻し、箱ごと収納した。

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