24話 勇者の瞳

ーー視点 ユーナーー


「特別講師に来てもらったのです」


 朝、ルーから呼び出された私たちは町から少し離れた場所に来ていた。雫が目立たないようにという意味もあるが、リョウが暴走してしまった時に極力被害を抑えるためだ。

 ついでに昨夜、雫と話した後言った通り寝込みを襲いに行った。ある程度の魔力を吸収したことで、仮に暴走したとしても比較的小規模で収まる予定だ。


 雫を呼んだ件については、ルーが主導で話に行ったということになっている。


「はじめまして、私は雫。セレスティスの勇者よ」

 そう言って自己紹介した。


「わー、美人さん!

 はじめまして、私はサリー!で、こっちが勇者のリョウだよ!」

 普通は紹介逆じゃないかというツッコミを入れたくなったけど、サリーが続く。

「えっと、リョウだ……よろしく」

 リョウが分かりやすくたじろいでいる。さすがは雫。本人にそのつもりがあるかは知らないけれどその魅力を撒き散らしている。

「鼻の下伸ばすのはいいけどちゃんと真面目にやるのよ?失礼だからね?」

 というサリーの言葉が飛んでいた。というか伸ばすのはいいんだ。


「私が教えられるのは勇者専用の魔法、というか技術だけだから、2人はルーちゃんかギルドの方で教えてもらった方がいいと思うの」

 そう雫が言った。これは私が提案したもので、できるだけサリーを巻き込まないようにする策だ。私は別行動にはいる訳だし。


「じゃあ、ルーさん?」

「ボクの扱う魔法は闇属性がメインなので、光と風のサリーさんに教える自信はないのです」

 と、ルーはすぐに断った。

「じゃあギルドかー。もともとそっちで受ける予定だったものね。それだとリョウと雫さん2人きりってことになるのが心配ね?」

 じとっとした目でリョウを見るサリー。


「大丈夫よ、私に手を出そうだなんて考えたら無事じゃ済まさないから」

 笑顔でそんなことを言う雫。力でどうこうできる相手じゃないのは間違いない。

「え、なにそれこわい。絶対余計なことは考えません……」

 リョウは大人しくそう約束した。


「私は闇にも適正あったし、ルーに教わろうかな」

 もちろん別行動の口実だ。


「じゃあみんな別行動ね。びっくりするくらい魔法使えるようになってくるから期待してて!」

 サリーはそう言って町の方へ向かって走り出した。

「いくら町が近いと言ってもまだ1人で行くのは危ないのです!」

 ルーにアイコンタクトで追いかけるよ、と伝え2人でサリーを追った。




ーー視点 雫ーー


「さて、みんな行っちゃったけれど。基本的なものから教えましょうか」

 ユナ達が去っていくのを眺めた後、リョウに向かって言いました。

 こういう展開になるのはユナと打ち合わせていた通りだったからなんの問題もありません。最後バタバタしていたのは想定外でしたけれど。

 ……もう少しユナと話していたかった、というのは今は我慢します。戻ってきてから少し付き合ってもらうつもりですし。


「はい、よろしくお願いします」

 いきなり2人になったことで少し固くなっているみたいね。

「あまり構えなくていいのよ。ここに召喚された時点で持っているものを教えるだけなのだから」


「といっても与えられた力は勇者によっても違うみたいだし、教えるのはひとつだけなのだけれど」

「ひとつだけ?」

「そう。他の力については自分で探っていくしかないわね。

 私が教えるのは『勇者の瞳』と呼ばれる技術よ。わかりやすく言うと鑑定よ」

「鑑定……というと物の情報がわかるとかいうやつか?」

「使いこなせるようになると相手の戦闘能力や攻撃予測なんかもできるようになるわ」


 わたしはポケットからさっき町で購入したナイフを取り出します。

「これで試してみましょうか。眼に力を込めて情報を知りたいと念じてみて」


「眼に力を……うーん、こうか……?」

 リョウはそう呟きながらナイフを見つめて、


 数十秒ほど経った時。

「お!なんか見えた。ええと『オブシディアンで作られたナイフ。黒曜石製であり切れ味・品質は高級品。品質の割には安価な方であるが、解体だけでなくちょっとした戦闘にも耐えられる』」


「はい、ちゃんと見えたみたいね。それが勇者の瞳の効果よ。

 これは自分の知識と、召喚者の知識に基づいて効果を発揮するの。だから貴方の元の世界の知識と、ここの知識が合わさった情報が見えるわ。逆に言うと知らないことはわからないのだけれど、熟練度を上げれば分かる情報も増えるの」

 そう言って鞘入りのそのナイフをリョウにふわっと投げた。

 ナイフは狙った通りリョウの手の中に納まる。


「そのナイフは貴方にあげるわ。サブ武器としても十分使えるものだから」

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