22話 雫とフィオ

「勇者よ、セレスティスへようこそ。まずは召喚時の事故についての謝罪を。

 そして、召喚の目的について聞いて欲しい」



 あの後、部屋まで迎えに来てくれた王女様に改めて記憶がないこと、唯一思い出した名前について話しました。

 すると王女様は、記憶を失ってしまったのは召喚時の事故である可能性が高いという説明と、それに対する謝罪をしてくれました。勇者召喚を決めたのは国王ですが、主導したのは王女様だったそうです。国で1番魔力が高いということで選ばれた、と。


 そしてその国王がわたしに会いたいと言うことだったので、謁見室に来て欲しいと、そう言われました。

 特に断る理由もありません。

 すぐに了承しました。




 ということで、初めに戻ります。


 勇者相手であろうと国王が簡単に頭を下げてはならないということで言葉だけの謝罪になるとのことは先に聞いていました。そんなものなのでしょう。

 特になんとも思いません。


 召喚の目的も、魔王を倒して欲しいということ。きっとありふれた召喚理由なのでしょう。

 セオリー通りだ、とどこからか聴こえてくるような感覚がありました。




 謁見が終わり、部屋に戻ってきました。ひとりのほうが気を使わなくていいし、色々考えることが出来て楽だなと思っていると。

 部屋の扉が叩かれました。


「雫さん、今よろしいでしょうか?」

 来訪者は王女様でした。


「これからの事なのですが少し相談したいことがありまして」

 そんなことを切り出してきました。


「突然になってしまうのですが、会って頂きたい人がいるのです。その、向こうの都合もあって即日来てもらうことは出来なかったのですが、雫さんと同じ、異世界から召喚された勇者様です」

 わたしと同じ、勇者。


「わたし以外にも勇者がいるんですか」

「はい。隣国の……友好国で呼ばれた勇者様です。妹が留学中の国で、会えるように手配してくれました。

 もしかしたら、記憶の手がかりにもなるかもしれないと思ってなんですが……」


 記憶の手がかり、と言われて断れるわけがありません。

 異世界から来たということなら、わたしと同郷で、もしかしたらわたしの知り合いだったりと楽観的に考えてしまいました。そうだったらいいのに。


「会うのは、かまいません。いつ頃になるのでしょう」

「ありがとうございます。……現在魔物討伐で国を離れてるとかで、すぐには日程を出せないからわかり次第連絡を貰えることになっています」


 魔物……がいるのですね。やっぱり戦闘は避けられないのでしょう。

 まあ魔王を倒せと言われているのだから当然といえば当然でした。

「魔物討伐、ですか。わたしもそういうことをしなければならないのですね」

「……はい。お願いすることになると思います……。ですが!私もサポートとしてついて行きますので!」

「王女様も、戦場に出るんですか?」

 王族なんてものはずっと後方にいるものだと勝手に思っていました。

「王族たるもの、有事の際は前線で指揮を執る事も仕事のうちです。それもあって、ある程度の戦闘訓練も受けていますから多少は戦えます」


 多少と言いつつ、きっととても強いのでしょう。少なくとも何もできる気がしない今の私よりはずっと。

 ついてきて貰えるのは少しだけ安心します。


 そんなことを考えている私を、王女様は何か言いたげにこちらを見ていました。

「あの、雫さん。私のことは王女様ではなくフィオと呼んでくれませんか?その……仲良くなりたいのです」

 キリッとした表情から恥ずかしそうに言うその姿が可愛、……確かに王女様呼びは他人行儀が過ぎますね、きっと長い付き合いになるのですから。


 そういえば王族を愛称で呼んでもいいのでしょうか。本人がそう呼んで欲しいというのだからいいのでしょう。

「わかりました、フィオさん。至らないことは多いとは思いますけど、よろしくお願いします」


 そう言ったわたしの言葉をきいた王女様、いえ、フィオさんの笑顔はとても可愛いもので。それは頼もしさと同時に庇護欲をかき立てるような感情を抱かせました。

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