【エレウシスの秘儀】
霧絵藤は、アイシェに向けて状況を述べる。
「……行っちまったねぇ、本当に強くなったね。技術的にも精神的にも。さて、私たちに出来ることをやろうかね、隊長さんや?
さて、エージェント“
それを聞くと、アイシェさんは厳しいマルコ班隊長の顔に戻って言う。
「アテナイ
「通信を使って現地のエージェントへ通達!──『“神話”が再現されます』と!」
そう言って霧絵藤さんとアイシェさんは私の背中を押した。言葉と裏腹にその手はとても優しかった。
「命令ですコードネーム“
「はいっ」
私は暗い機内からその身を蒼穹へと躍らせた。
太陽に照らされて見えたのは、あの時と比べれば少しは大きくなった身体。MM地区の学校の制服と、ベルトで固定された鬼切りの古太刀を佩いた私の姿だ。
凄い勢いで地面が近づく中、”姉弟達”に作られ、神話を模した六重のレネゲイド封印機構が解除されていく。
『
私の周囲の空間がゆったりと流れ、“海”が溢れ出す。……この力を使う時の妹のワーディングは植物のツタだったけど、私がしても海のままなのか。そのことに少しばかり驚きながらも、海はあっという間に周囲へと拡がっていく。
『
体の奥から暖かくなっていく。四肢に力を籠め、溢れた"海"を見渡す。
あの時MM地区に居た人が見ればきっと恐ろしく感じただろう。MM地区に遺産【エレウシスの秘儀】が再び顕現したのだから。
だけど、数年前のレネゲイド災害と違うのは、その海がどす黒い海では無く、美しく透き通った青色の海であること。
『
三つ目の解除の声と共に、行くべき場所を悟る。私の行くべき場所は、あそこ。そこに"あの人"はいるのだと、分かる。
【ディオニューシアの極光】と【パナテナイアの聖宴】の事件の後、姉弟達によって生きのびた私は、マルコ班で定期的に行った長くて厳しい訓練の末、私の遺産“エレウシスの秘儀”、そして姉弟の力をコントロールする術を身に着けた。
いや、"エレウシスの秘儀"という遺産の仮想人格の一つでしか無かった私が、今こそ“エレウシスの秘儀”になったと言うべきか。
『
私はそれを受け入れた。恐ろしかった。目を逸らしても良いと、普通の女の子になっても良いと言ってくれたこともあった。
……でも、“願い”があった。その為にこの事実と力を受け入れた。
『
恐ろしいものが深い海底から浮上してくる感覚。誰かが代わっても良いと耳元で囁いてくれたような気がした。
……でも違う、これは“私自身”なんだ!"私自身"でやるんだ!!
『
最後の封印機構が外されていく。私は必死で“エレウシスの秘儀”をコントロールする。無秩序に拡がりそうになる海を押し留める。そして彼等を呼び出す。
海中に現れたのは手足持つ馬面の鯨──では無かった。それは自然の美しさを持ったシロナガスクジラの様なそれ。
「行って!」
私がそう命じると、鯨達は海の圏内にいるFHエージェントへと踊りかかり、レネゲイドを奪って昏倒させていく。
奪ったレネゲイドはネモフィラの様な花の形となってUGNエージェントへと降り注いでいく。
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