第14話

 ようやく加奈子も症状は落ち着き家族全員またいつもの日常に戻った。ホッとしたことは加奈子が仕事に行けなかった分の給料は謙太が生活費増量して補えた。

 来月以降も加奈子の稼ぎに変わらず増やすことも決めてくれた。それは加奈子だけ病床にいた時に子どもたちのあまりの食欲旺盛さに謙太はびっくりし、用意する際も一から作るのに苦労したため冷凍や惣菜を頼らざるえなくなってそれらを考慮したゆえだったらしい。


「にしてもよかった、加奈子も調子良くなって」

「謙太さんのおかげよ。子どもたちも見てくれて」

「当たり前だろ、俺たちの子供だからな」

 と謙太は加奈子の尻を触るが彼女は手を払った。ぎろりと睨みを利かせると謙太は舌打ちをした。加奈子たちはまだ体の関係は復帰していないし彼女の中ではもうしたくない、気持ちはある。

 子供の面倒を見てくれた、食費を上げただけは昔のような2人の熱愛していた頃のようには加奈子は簡単に戻らなかった。

 それだけで体を許せるものだろうか、この10年近くの耐えていた重みはそう簡単に軽くはならない。


「コーヒー淹れておくれよ」

 台所にある転がった水筒、毎朝ドリップコーヒーマシンで淹れるのだが加奈子は心底自分はバリスタじゃないと思いながらもにこやかにセットして謙太の水筒に入れる。

「納豆かいてないじゃないか」


 ネクタイを結びながら加奈子に指図する。結婚当初、納豆は妻がかき回すものと言われた時は流石にもうダメだと実家に帰った。しかもかき回す前に辛子とか入れるなとかなんやらかき回す回数が少ないから粘り気がないとかなんだか言うから。


 いまだに納豆は妻がかくものか、子供の目の前で身支度全部をさせてる姿を見せるのもと加奈子はため息をつく。

「自分でやったら」

 大我がそう言うと謙太は

「そうだな、そのほうが早いよな」

 と困りながら自分で掻き回した。辛子入れて掻き回してたのを見てその後大我と目を合わせて笑った。


 なんとかなりそう、加奈子は思った。



 一ヶ月ぶりの職場。特に変わりもなく。にこやかに坂本が待っていてくれた。加奈子は頭を下げてお菓子を持っていく、ちゃっかり謙太にいいお菓子屋さんで用意させようと思ったが地味で安めのものを買ってきたのでそれは食器棚に隠して色鮮やかな包装紙のお菓子を買って持って行ったら目を輝かせて坂本は受け取ってくれた。

 地味そうに見えて派手なものが好き、それを知っていた加奈子はホッとした。


「利用者の皆さんが加奈子さんが戻ってきてくれるの喜んで待っていますよ。で、今日来るって言ったらね……」

 いつもの常連さんたちが待ってた。中には掃除道具を持っているものも。加奈子が掃除をしている様子を見て自分もと昔清掃会社で働いていたという独居の女性が遊びがてら来るようになった。

 阿澄さんが工藤さんと共に来ていた。加奈子は就職してから工藤さんに会うのは久しぶりである。

「はなえから聞いたよ、いい働きっぷりって聞いたわよ。私の見る目あったわね」

「ありがとうございます、工藤さんに声をかけていただいたおかげです」

「何ってことないよ、頑張ってよ。はなえさんに継ぐニューセンター長!」

「えっ……」

 工藤さんにそう囃し立てられてセンター内は盛り上がる。加奈子は苦笑い。


「いやぁ、センター長って……」

 だが囃し立てられているうちが花、かしらと思っているとセンターに中年男性がやってきた。すごく血相を変えている。


「た、大変だ! そこで近所トラブルで揉めとる! 警察呼んでくれー」

「警察? ってまさか隅橋さんのところかしら」

 坂本さんは冷静にそういう。加奈子は思い出した。初日に地図の前でここの人はクレーマー、ここの人はうるさい人、丁寧に教えてもらったのだが確か隅橋という苗字があったことを思い出した。

 窪田さんがまに受けて電話をしようとするが坂本さんが止めに入った。

「そうだ、俺が入っても聞きっこない! とり会えずきてくれ。そこの若いお嬢さん」

 と加奈子は指さされる。お嬢さん? と首を傾げるともう一度指さされるから自分のことだとわかった。38にもなってお嬢さんだなんて初めて言われた。


「私もいくよ!」

 工藤さんと坂本さん、加奈子も行くことにした。警察沙汰の近所トラブル……そんなことまで。加奈子は復帰早々とんでもない事になったと思ったのであった。


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