第3話
「まじか、そんなこと」
寝室。息子二人は謙太と加奈子の間で寝ている。さっきまで騒いで喧嘩していた二人なのだが寝てしまえば静かになる。
「掃除当番一人抜かしたとかそんなことでさわーわー言ってるの、暇人だな。工藤……さんだっけ? その人みたいに気にせずそのまま回せばいいわけだよ」
謙太は鼻で笑った。加奈子は内心、家事も育児も町内会も全部妻である彼女に投げてるくせに何その口はと思っている。
「あとさ、やっぱあそこの百均ダメだった」
「あ、え? なんのこと」
やっぱ忘れてる、と加奈子は呆れる。
「ほら昨日言ったじゃない、あそこの百均で九時半から十三時までの時間帯募集ってあったから……平日で。そしたら平日以外も入れますかって」
「で、断ったら不採用ってか、また電話で」
せっかくの平日、子供たちが学校や幼稚園に行っている間の時間帯、短時間だが働けると思ったがやはり小売業。
土日も入れないとダメだったのだ。加奈子は司書資格をもっており、近くの図書館で司書の募集が役所から出ていたのだが毎年ため息をついてその募集を見ている。
そこももちろん土日勤務必須だったのだ。謙太も
「土日どうするんだよ、子供は誰が見るんだよ」
と言う始末。
「それにその司書の仕事は所詮パートだから土日くらい休めるだろ」
とも。
そんなことを言われたこともあって土日の仕事は完全に除外だ。土日は子供たちと遊んでくれるものの外食よりも加奈子の手作りの料理が一番だろといい結局は土日も加奈子は台所に気づけばずっといる。
「うちのおふくろも言ってたけどあせんなくていい、相馬が中学行くまでは働かずに家で待ってなさいって」
「でも……」
謙太の母親を思い出す。結婚してすぐ同じく専業主婦だった謙太の母、香純。家事を完璧にきようにこなせる加奈子には憧れであったが彼女を超えることはできないとおもっている。
趣味は家庭な香純、なぜそこまで従順でいられるのだろうか。
そして一度香純に言われた。
「うちの謙太、給料少ないっていうの? 稼いだ金をうまく回すのが主婦っていうものよ。うちの息子はt大にでて優秀な子なのよ、サポートしてあげてちょうだい。そして女は出しゃばらず後ろについて歩いていくのよ」
その言葉がとても重かった。
こんなことを言う人がいるものだと。加奈子の周りではそんなことを言う人はいなかった。
結婚前まで加奈子は新卒の大手デパートに勤めていたものの、寿退社して専業主婦になると言ったら周りから祝福よりも反対の声が多かった。
「やめなさい、そんな結婚」
とお世話になっていたお客さんにそう言われたり
「趣味が家族っていうのは危険よ」
って言われたり。加奈子は戸惑った。
「パートとして残ってもいいのよ」
と人事や先輩に説得されても謙太や謙太の両親がそれを反対し、結婚したら家に入れそうじゃないと結婚はしないということ言われ当時結婚ブームの第二波でこれで乗り遅れたら次はいつ結婚できるのだろう、という焦りもあった。
それに早めの結婚をして子供を産まないと20代で出産した友人でさえも体力がもたないと言っていた。
だから退職をした。
「今どき専業主婦だなんて」
専業主婦になって地元のスーパーで買い物をしていたら同級生の母親にそう冷たい声を掛けられたり
「子供がいないのに働いてないなんて」
と失笑する近所の人。
「それはただの僻みだ」
と謙太はそう言ったから加奈子はそうか……と思ったのだが次第におかしいと思い始めたのだ、だがその時には大我がお腹の中にできてこれでただの専業主婦でなくなる、とほっとしたものだった。
そしてすぐ3年後には相馬も生まれ二人の子を育ててきた加奈子だったが、ママ友サークルで異変を感じたのだ。
相馬が一歳になったころにメンバーが減っていたのだ。残ったメンバーも話す内容は仕事のことや保育園の話。
「相馬くんママは働かないの?」
「ええ、相馬が中学になるまでは……」
と言うとそこにいたママたちが声を合わせて
「中学ぅ???」
「それありえない……それまで専業主婦でいるつもり?」
と次々と。加奈子はもうそれ以降そのままともグループに行くのをやめた。
もともと行くのも億劫でただ喋るだけ、上っ面なつながりが苦痛だった、そんな時間あったら子供を連れて出かけていた方がマシって思っていた。
そして食費高騰したのに生活費は上がらない。毎月謙太からもらう生活費では賄えない、けどそれでやりくりをするのが主婦だと言われてなんとかしてきたがもう限界だった。
「なぁ、ひさしぶりにさぁ」
と謙太がいやらしいめで加奈子を見る。だが加奈子は相馬出産後から拒み続けている。
育児も家事も全て押し付ける、妻の自分よりも親を優先する謙太に嫌気を前から感じていた。
そして近づく顔が謙太の両親それぞれの特徴を合わせた顔が年を重ねて浮かび上がってくる。あんなに好きで結婚した謙太なのに結婚してからの彼の態度の転換にもう嫌気がさしてきた。
「疲れたから寝る」
そう言って加奈子は寝ると謙太は舌打ちをして部屋の照明は消された。
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