第33話 魔法陣

 ボーンラビットの草原にフォッシルが出たという話は瞬く間に村に広まる。

 これまでも、深部の魔物が人里の近くまで降りてくる事は無いわけではないが、なんらかしらの前兆であることも考えられる。

 今回はスネイクダケを狩りに来た冒険者が、少し山の奥で魔物の領域を荒らした可能性も無いわけでは無いが、それも不明だ。



 そんな中、今日も薬を作りながら、仁那はアニーと雑談をしていた。


「なんにしろ、何もなくてよかった」

「でもしばらくはボーンラビット狩りは禁止なんですよね」

「まあ、それは仕方ないじゃろう。一度の魔物の出現で領兵の警備の依頼を出してもなかなか動かないだろうしな」


 数人の冒険者が村の周囲を回っては居た。少しだけ出てくる魔物が違う感じもあるらしいが、通常では誤差の範囲らしい。フォッシル程の魔物は出てはいない。


「そういうのって、ゴブリンとかが集落を作ってるって事はあるんです?」


 仁那の中ではゴブリンの集落により、村が被害を受けたという話が大きい。良くない予兆も考えられると言われればまっさきに思いつくのがそれだった。


「ゴブリンに、フォッシルが追われることはあまり考えにくいな」

「オークとかでしょうか」

「オークならそうだな、あり得るが……この近辺であまりオークの話は聞かないからな」


 魔物にも生息域はある。気候なのかよく分かっていないがここら辺にオークが棲み着いた記録は過去にも無いようである。


「ま、今年は気候も安定しておらんし、餌が減ってたまたまボーンラビットを食いに降りてきただけというのがギルドの考えのようじゃ」

「そう言えば、スネイクダケも今年は遅かったと言ってましたもんね」

「そうじゃの。ま、しばらくは大人しくしてるのが良い」



 相変わらずワイバーンの素材は入荷しない。取引は三人の行商人がやってくるがダージリン王国の二人は首を横に振るだけだ。

 アニーのポーションはどうしても確保したいはずなので、出来る限りのツテを頼っているようだが旨く行ってないようだ。

 ニルギリ王国からやってくるダンテが頼みの綱のようだが、前回のように通常は竜の素材なんて更に手に入りにくくなる。月に一度ほどやってくるダンテを待つしか無いのだろう。


 テオはあえてワイバーンの入荷を聞いてこないが、手に入れば教えてもらえるはずだ。それが無いことに不安を感じているようだった。




 最近は、仁那も少しづつ魔法を教わっている。本人は分かっていないのだが自分の中に流れる竜の血の効果によって、変身をしていなくてもある程度の魔力は持っている。魔力は元々血液を介して体の隅々に巡る。魔力にも得意属性などがあるのだが、火竜の素材をふんだんに使った事で火属性に偏っているようだ。


 都合よく魔力量などを測れるような魔道具などは無いが、属性傾向に関しては簡単な調べ方もあり、アニーが仁那の魔力属性も確認してくれた。


「じゃあ、私じゃポーションは作れないのですか?」

「いや、それは問題ない。回復魔法が使えるアタシとは別のやり方に成るがな」

「別のやり方?」

「ああ、少し勉強をしてもらわないといかんがな。魔法陣を使うんじゃ」

「魔法陣……?」


 魔法を使うには通常は自分の魔力を魔法に変換して行う。そのために得意属性が合うものでないとなかなか難しいのだが、魔法陣を使うことで、不得な属性まで扱えるという。


「神が残した魔法言語というものがある。基本的には魔法陣はそれを組み合わせて使う」


 そう言えば、仁那が蘇生する時に使用していた水槽にもびっしりと何か魔法陣のようなものが刻まれていたのを思い出す。料理に使うコンロも、薪などを燃やすのではなく魔法陣に魔力を流すことで起動させている。


 それは仁那も既に出来るようになっていた。無属性の魔力を流しても火をがおこるのも魔法陣なのかと思い当たる。今まではそういう魔道具なのだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。


「コンロの所にある魔法陣を覚えているかい?」

「はい、三角形の中に火力を指定する文字などが――」

「ん? ……あの文字が読めるのかい?」

「え? はい」

「ふうむ……確かに召喚の儀で呼び出す魔法陣には、召喚者に言語を理解させる事まで書いてあるとは聞いたことがあったが……なるほど、魔法言語まで理解できるわけじゃな」

「言語理解って言うものでしょうか」

「まあ、端的に言えばそうじゃな。しかしそれが分かるなら話は早いな。案外早く覚えられそうじゃないか」

「本当ですか? 良かったです」


 中学三年の仁那にとっては、高校受験があったが、家の手伝いが忙しく勉強はあまりやってこなかった自覚もある。勉強は不得意と言うより慣れてないという感じだ。それだけに魔法言語という新しい言葉を覚えるという未知の領域に不安だった。それがクリアされることでホッとする。


「それで、そのコンロは三角じゃな?」

「はい」

「三角は火属性の魔法を組む時に使う。水、風、土、そういった属性ごとによって魔法陣の外形が違うんじゃ」

「面白いですね」

「まあ、面白いと言えば面白いのか。して、回復魔法は丸が基本となる」


 そう言いながら、紙に三つの丸を三角の感じで三つ描く。その三つの丸はお互い交わり、真ん中あたりですべてが重なっている。


「簡単に言うと、回復魔法にも様々な効果がある。アタシのは万能薬的な物を期待して身体を癒やす物、心を癒やすもの、そして毒素を排出するもの、その三つの効果を混ぜるんじゃ」

「む、難しそうですね」

「ま、最初からこれは難しいからな、まずは身体を癒す物だけで始めてみよう」

「はい!」


 そうして少しづつ仁那はアニーから魔法陣についての手ほどきを受けていった。


 魔法陣は使うインクなども特殊なものが必要だったりと、手間がかかるため魔法程戦闘などで使えるわけではないが、魔法言語がわからない者でも、罠の様な魔法陣の形だけを覚え、それを使って狩りをする冒険者も射るという。


 それでも魔法など無い日本からやってきた仁那にとっては、珍しくも面白く、ワクワクするものであったため必死に覚えていった。

 魔法言語が理解出来ても、魔法陣を描く方式などは複雑であり、学べば学ぶほどその奥の深さに熱中していった。



※もう少しで規定の十万字になります。この章が終わり次第、最強ランキングの方に戻る予定です。

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