第12話 アニーの生活。(付け足し分です)


 レクターが出ていった後、アニーは仁那を店の奥へ連れて行く。

 店のカウンターの奥には薬を作る場所と思われる調剤場があった。調剤場も店と同じ様に所狭しと様々な荷物が積まれている。どうやらアニーは部屋の片付けが苦手なようだ。


 アニーは更にその奥へ進んでいく。


 調剤場の奥はアニーの生活空間になっているようだ。そのアニーの自室と調剤場の間に細く急な階段がある。

 レクターの姉というからどんな老婆かと思っていたが、アニーは背中もシャンと伸び、まだまだ元気に見える。階段もスイスイと上っていく。


「この部屋じゃ」


 階段を登り二階へ上がると、廊下があり、そこに扉が三つ並んでいた。廊下にもやはり荷物が積まれているため、狭い廊下が更に狭くアニーは体を横にして進んでいく。


 そして、一つの扉を開けると、仁那に入るように促す。


 仁那はどんな部屋だろうと、恐る恐る


 ――やっぱり……。


 ここまでの状態を見ながら部屋の状態を予想していたが、まさにそのとおりだった。一応は客間だったのだろう、ベッドが置いてあるが、その周りにも荷物がゴロゴロと転がっている。


「少し埃っぽいね」


 そう言いながら、アニーが部屋の窓を開け、そのまま後ろに下がってくる。


「ニナ、部屋から出なさい」

「は、はい」


 部屋の扉から廊下に出ると、アニーは入口付近で止まり手を窓の方に向ける。


 ――?


 アニーが何か集中するように一瞬その場で止まったと思うと、ゴォオオと強い風が吹き始める。仁那は初めて目にする魔法に驚く。


 ……しかし、魔法と言っても風を出しているだけのようだ。そして、どうやらアニーは埃っぽい空気を外に出して換気をしているようだ。


 やがて満足したのか、風を止めアニーが振り向く。


「少しは綺麗になったかのう」

「……え?」

「まあ、後は自分で暮らし良いように好きにしなさい」

「は、はい……」


 ただの換気だと思ったが、本人は完全に掃除のつもりだったのだろうか。仁那は困惑気味に苦笑いを浮かべる。アニーはそれを見て、仁那が満足したのだろうと感じ、夕飯まで時間があるから好きなように部屋を使いなさいと言って部屋から出ようとした。


 それを見て慌てて仁那が声をかける。


「アニーさん!」

「ん? さん、は要らないよ、アニーでいい。村の皆はそう呼んでるよ」

「は、はい。アニー」

「どうした?」

「あの……ふつつかものですが、よろしくおねがいします」


 仁那はそう言い頭を下げた。それをみたアニーは驚いた顔に成る。そしてすぐに破顔して答えた。


「はっはっは。そう気張らないで良いさ。アタシはずっと気ままな一人暮らしだったからね、これからも好きに勝手にやっていく。仁那も好きに過ごすといいさ」

「はい。ありがとうございます」

「うん。飯が出来たら声をかけるからな」


 そう言うとアニーは部屋から出ていった。


 ……。


 部屋に取り残された仁那は、周りを見回す。


「捨てちゃ……駄目なものばかりなのかな?」


 良くわからない本や道具のような物を見ながらとりあえず今日寝れるようにベッドの上を整理することにした。


 袖をまくり、早速掃除に取り掛かった。



 ……


「夕食じゃよっ!」


 必死に片付けをしていると階段の下から声が聞こえた。


「はい」


 仁那は掃除の手を止め、下に降りてく。

 階段を下りると、生活空間と思われる方からアニーがこっちだと声を掛けてきた。そのままそちらの方に行くと、そこも散らかりまくったリビングになっている。


 ――ここも……。


 リビングのテーブルの上も荷物がいっぱいだ。急遽場所を作ったかのように、二人がかろうじて食事を採れる空間が作られている。

 そこにはスープの様な物とパンが置かれていた。


「ちょうど昨日スープを作ったんじゃ。その残りだがな。まあええじゃろう」

「あ、ありがとうございます」


 目の前にはスープと言われる食べ物が置いてある。仁那はスプーンを手に取りそっと口にした……。


 ――うう……。


 それは、ただ水に肉と野菜を入れて塩で味付けしたような、何とも味気ないスープだった。


「口に合うかい?」

「は、はい……」


 仁那がスープを口にしたのを見てアニーが聞いてくるが、美味しくないとは言えない。必死に笑顔を作りながら仁那は応える。

 横にあるパンは少し硬くはなっていたが普通のパンだった。


 ――料理は私がやるのかな。


 もぐもぐと口を動かしながらそんなことを思っていた。



 食事が終わると食器を片付ける。食器はシンクの中にある水が張った桶に大量に入っている。


「つけておけばいいよ」

「あ、洗わないんですか?」

「ん~。まあ。食べるときにゆすいで使えば良い」

「えっと……でも、洗いますね」

「そうかい? じゃあ。頼むかな」


 水は、台所の脇に置いてある水瓶の水を使うようだ。中に柄杓が入っており、それで汲んで使う。洗剤は無いが、固形石鹸もある。何とかなりそうだと取り掛かる。

 桶の中には食器が積み重なり、下の方の物はしばらく使ってないのが分かる、こびりついた汚れをゴシゴシととりながらアニーに訊ねる。


「あの、食器を拭く布とかは……」

「ああ、これを使いな」


 アニーは取り込んだまま山に成っている洗濯物の山から一本の手ぬぐいを取り出し仁那に渡す。


 ――これは……色々忙しくなるかも。


 食事が終わり、レクターが持ってきた紙の束をめくりながら眺めているアニーを横目で見ながら、何処から手を付けようかと悩んでいた。

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