第4話 この世界

 翌日。召喚された人々はミーシャからこの世界の細かな説明を受けていた。この世界に居世界の住人を召喚する理由などである。


 ミーシャはこの世界で聖女と呼ばれていた。聖女とは、生まれながらにして聖魔法に秀で、その性格、知識、容姿などから教会から認定される称号という事だった。教会での位はまだ若いこともあり司祭ではあったが、立場的にはもっと上の扱いをされているようだ。


 この世界には『神』と言われる存在が居た。

 居たというのは、かつては人間たちの前に姿も見せ、交流もあったようだが、ここ千年ほど神が世界に降臨した記録はないというのだ。

 最期の神の記録として、神は人々を守るために13の天柱を建て、これが人々を守るだろうと伝えたという。


 人間たちは信仰を続けて、いつの日か再び神が自分たちの前に降臨することを待ち望み、忠実にその天柱を守り続けていた。


 だが、長い年月の中でその天柱のうち、四つが壊され、今では九つの天柱が残っているという。


「それは……誰が天柱を壊しているのですか?」

「魔族です」

「魔族?」

「はい。魔族と私達は千年前から天柱を巡って戦い続けています。彼らが何のために天柱を壊そうとしているのかは今もってわかっておりませんが、私達を守る天柱を破壊することで人間を滅ぼそうとしているのではと考えております」


 召喚者達は七名。高校生の四人は来生琉、村山利信、西山瑞希、遠峰さくら。サラリーマンの男は水島大地。トラックの運転手は小林英人、そして主婦の女性は鈴木静江。みなそれぞれに一様に反応をしていた。


 高校生の四人は嬉しそうにミーシャの話を聞き。トラックの運転手、サラリーマンの二人は必死に現状を把握しようとし、一人中年の女性は今だに戸惑いを隠せずに居た。


「その天柱というのは、何か魔法の守護などをしてくれるのですか?」

「それも解っておりません。ただ、近年少しづつですが、戦力のバランスが崩れてきており、私達が劣勢になり始めているのは確かです。もうこれ以上天柱を壊されるわけにはいかないのです」


 魔族は、2百年ほど前に初めて一つの天柱を壊すことに成功した。その時にその天柱を守っていた国は今ではないという。その後、一つ、また一つと天柱が壊され、そのせいなのか最近はどんどんと力を持つ魔族が現れているという。


 天柱の効力についても、天柱には強い魔力があるということしか分からず、以前壊された天柱の一つから強い魔力を放つ石が取り出されたことがあったらしい。

 壊された天柱を守っていた国の騎士が、これは天柱のコアなのだろうと、命をかけてここ、大聖堂まで届けたという。


 その石は今ではいつか再び天柱を再建するときのためにと、大神殿の地下に厳重に保管されている。



 そして、そんな魔族に対抗するために行われているのがこの『召喚の儀』だった。召喚の義で呼び出された異世界人は皆、勇者と呼べるほどの強さを誇るのだという。


 召喚と言ってもそれはかなり運任せな儀式であった。先日も聞いたように、彼らが召喚対象の世界を選ぶことは出来ず、次元を旅するチャシャ猫の座標しか情報が無い。それゆえに、召喚陣の魔力が溜まり次第、チャシュ猫をこの世界へ連れ戻すという作業を繰り返すのみであった。

 その魔力のたまり方も数年単位の時間が必要であり、これだけちゃんとした召喚が成功したのは30年ぶりだという。


「あ、あのう……私はその……戦うとかは……」


 話を聞いていた中年の女性がおずおずと声を出す。ミーシャは中年の女性をジッと見つめると、女性は思わず目を伏せる。


「貴女のお名前は……?」

「静江です」

「シズエさん。私達も、自分たちの都合で貴女をこの世界へ召喚してしまった事は申し訳ないと思っております。しかし、これは私どもの世界を守るため。後悔もしておりませんし、今後も続けることであります」

「それはっ――」

「恨まれても仕方ないものだと思います。しかし、召喚者の皆様を元の世界へ返す手段は私どもにありません。私どもとしては、シズエさんに改めてこの国を第二の故郷として受け入れて頂き、この世界のために生きてほしいと願うのみです」

「そんな……」

「30年前にこの世界に召喚されたトシゾウ様は、今でも勇者として、そして将軍としてこの世界のために戦っておられます。シズエ様にも私は期待しております」

「でも、人を殺すなんて――」

「人ではありません。魔族です。魔神を信奉する汚れた生き物です。そこは間違えないでいただきたいのです」

「は、はい……」


 ミーシャは怒りを込めて魔族を汚れた生き物と言い切る。その勢いに静江は圧倒されていた。


「私どもには、戦いを放棄なさる召喚者の方にそこまで手厚く扱う余裕はありません。それでも一月ほど暮らせる金銭をお渡ししますが、後はご自分の力で生きていただきます。この知り合いも居なく、文化も違うこの世界で、貴女は一人で生きていける自信がありますか?」

「……私……一人で……」


 静江が周りを見回すも、他の皆は自分は関係ないという顔で静江を見つめていた。

 訳もわからない世界で、一人で生きていける自信など到底無い。絶望感に打ちのめされながらも、自分には選択肢が無いのだと悟った。


「わ、私も……がんばりますので……どうか……」

「ありがとうございます。七人もの勇者が召喚されたのです。私達の勝利は確約されたような物です。一緒に頑張っていきましょう」

「はい……」

 

 静江が覚悟を決めたのを見ると、ミーシャはにっこり笑い皆を鼓舞するように手を叩く。


「さあ、皆さん。まずは皆で魔物狩りに参りましょう。護衛の騎士も付けますので安心です。そして皆さんの適性が解ってきましたがそれぞれに合った騎士や魔法使いが個別に指導していく予定です」

「おお、俺は魔法が使いたいな」

「私も魔法使ってみーたい」

「ふふふ。その意気です。頑張りましょう!」


 静江と違い、若者たちはがぜんやる気を出している。

 ミーシャは満足そうに狩りの説明を始めた。

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