ロミナとジュリオッド ~ヴァルキュリア戦記~
たぬきねこ
第1話 プロローグ
資源衛星カリウス。
ジェイクスピア銀河の最果てにある、資源採掘用の岩石衛星である。
―――その居住区、とある定食屋。
「お待たせいたしました。。本日のランチセットで~す」
「お待たせしました。」
しがない町の定食屋に木霊する元気な声。
「ロミちゃん、今日もかわいいね」
「おじさん、煽ててもびた一文まけないわよ」
「アハハハハ、ばれたか」
「いらっしゃいませ。お二人様こちらの席へどうぞ」
「ロミちゃん、今日のランチセットは何?」
「今日はミックスフライ定食ですよ」
「‥‥じゃあ、それ二つ」
「ランチセット二つですね。かしこまりました」
どこにでもある常連客と店員の女の子の会話である。
「お待たせしました。ランチセットです」
「ローラちゃんは相変わらず塩対応だね。そんなんじゃ彼氏できないよ」
「結構です」
「今度おじさんとデートしようよ」
「結構です」
「か~冷たいねえ。まあ、そこがいいんだけどさ」
明るく元気な女の子ロミと、美人だが塩対応のローラの看板娘が働く定食屋は、リーズナブルな価格ながら旨い店として地域でも人気のお店である。
だが、それは表の顔であり裏の顔は······反帝国を掲げるレジスタンス[暁の桜旅団]の拠点の一つである。
看板娘のふたりはもちろん、店主も他のスタッフもレジスタンスの一員だった。
そして、常連客のほどんどもまた、その構成員もしくは協力者である。
表向きは普通の定食屋。その役割は構成員に情報を秘密裏に伝えること。
その手段とは日替わりランチである。
メインの料理と付け合わせの組み合わせが暗号になっており、本日のミックスフライ定食ではメイン(双頭海老フライ、スターフィッシュフライ、ボーンコロッケ)とキャベツ&スパゲッティ、味噌汁それぞれに意味がある。
双頭海老フライ:帝国巡洋艦
スターフィッシュフライ:戦闘機
ボーンコロッケ:強襲
――それらを要約すると····明日未明、帝国の巡洋艦を戦闘機により強襲、潜入部隊による巡洋艦の鹵獲作戦を実行するとある。
戦力に乏しいレジスタンスにとって巡洋艦とはいえ、母艦になり得る宇宙艦艇の奪取は今後の作戦を見据えたうえで重要になってくる。
◇
可愛らしいフリルのついたエプロン姿······ではなく、パイロットスーツに身を包んだふたりの美少女。
ひとりは、腰まで伸びた美しいホワイトブロンドにエメラルドのようなグリーンアイ、そして長く尖った耳、名をロミナイール・ファン・シルフィード・キャピュレットという。
もうひとりは、艶やかな黒髪のストレートロングに左右の虹彩の色が違う
彼女たちこそレジスタンス[暁の桜旅団]のエースパイロットであり、作戦参謀でもある。
「ロミナ、くれぐれもやり過ぎないでよね」
「わかってるって。できるだけ壊さないようにするから」
「····まあ、いいわ。そろそろ出撃よ」
「ええ。行きましょう」
今回の作戦は機動兵器による帝国宇宙艦隊への強襲、無力化したのち投降を呼びかける。巡洋艦には突入部隊による艦内への潜入、制圧する。
機動兵器部隊を指揮する彼女たちは敵機動兵器の排除後、速やかに敵艦の戦闘能力を無力化し突入部隊を支援することである。
コックピットに灯がともる。
ロミナたちの登場する機体は、とある事情により複座型になっており、ロミナが機体の操縦を担当、ロザラインが機体のオペレーターを務めレーダーや各種電子機器を使い味方部隊に指示を出す。
「ロミナ機サクラ、いっくよ~!」
ロミナの掛け声とともに桜色の機体が輸送船より発進する。
強襲部隊はロミナの駆る大型の機体以外に、宇宙空間での作業用ポッドを改修した機動ワーカーが5機。
パイロットを務めるのは昼間、定食屋でロミナたちを茶化していたおじさんたち。
だが、今この場にロミナたちを茶化す人はいない。
「敵艦隊を捉えた。オルトロス級巡洋艦 1、アルプ級駆逐艦 3、補給艦 1、今のところ敵機動部隊の姿はないわ」
「じゃあ、このまま突っ込むよ~」
小型の機動ワーカーとロミナの機体ではそもそも速度が違う。単機突出したロミナ機は有効射程距離に敵艦隊を捉えた。
「ミサイル発射!」
サクラと名付けられた機体に取り付けられたミサイルポッドから、ミサイルが次々と撃ちだされる。
「敵艦迎撃ミサイル掃射····うち1発は駆逐艦に命中。ロミナ気をつけて、敵機動兵器が出てきたわ。ホーネット型 20機、ガーゴイル型 5機、人型兵器の姿は今のところないわね」
「全部で25機かぁ。うふふふふ、腕が鳴るわ!」
「ロミナ······あなたねえ、戦場で気持ちが高鳴るのは仕方がないけど、くれぐれもやり過ぎないでよね」
「もう、すぐそういうこというの止めてよね。私だって好きで暴れてるんじゃないのだから」
「どうだか、それよりお客さん来たよ!」
「ハ~イ、いらっしゃいませ~!」
1:25の戦力差でも不敵に笑うロミナ。
サクラの照準が敵機動兵器を捉えロックオンする。
フォトンライフルの銃口から一条の光が放たれる。
「おいおいおい、あの嬢ちゃんホントに一人でおっぱじめやがった」
「楽できていいじゃねえか。俺たちも続くぞ!」
「ああ、嬢ちゃんたちにばかり戦果取られたくないしな」
「それに俺たちも、カッコつけたいしな」
「カッコつけても、お前にはなびかねえよ」
「うっせえ! オラいくぞ!」
レジスタンスのおじさんたちも加わり、戦局はレジスタンス有利に傾きつつある。
ロミナの駆るサクラが無双しているからである。
武装とスラスターを狙って打ち抜き行動不能にする神業的技術。
ロミナの射撃センスも高いのはもちろんだが、筆頭すべきはその機体である。
桜色にカラーリングされた機体は、レジスタンスの機動ワーカーとも帝国軍の量産型機動兵器とも一線を画している。
20m弱の全長からも大型の機体だとわかるが、小型機を上回る高い機動性を誇り、武装もミサイルポッドの他、一対の高出力ライフルを装備している。
「ロミナそろそろ」
「うん。巡洋艦だね」
ロザラインの声で戦況を理解したロミナは狙いを巡洋艦に向ける。
対空砲火を掻いくぐり、威力を搾ったフォトンビームを放つ。
次々と対空砲を潰し、巡洋艦の艦橋へとその銃口を向ける。
その機体は先ほどまでの飛行形態から人型形態へとその姿を変えていた。
「投降しなさい! 抵抗しなければ命は保証するわ」
帝国巡洋艦の艦長は驚愕していた。
レジスタンスだと侮っていた艦長も、たった一機の機体が戦場で無双し、為す術もなくやられ、今このとき銃口を向けられれば敗北を悟った。
降伏を意味する発光信号とともに戦闘が終結した。
「俺たちの出番は?」
「ないわね。いいじゃない、損害出なくて済んだし」
「いや····そうだけどさ····なんか釈然としねえ」
ぶつくさ文句を垂れる突入部隊を指揮する男を軽くあしらうロミナ。
だが、これで目的の巡洋艦と小破した駆逐艦、敵機動兵器の鹵獲に成功した。
「おつかれロミナ」
「これくらい大丈夫だよ。ローラこそ、これからが大変だよ」
「そうね。次は大部隊が派遣されてくると思うから気を引き締めないとね」
「うん。私たちの故郷を取り戻すため、お父様や家臣たちの仇を討つため、モンタギュー帝国を亡ぼすため、私たちの戦いは続くのだから········あの日、燃え盛る王城から脱出したときに誓った想いは、まだ果たされていないのだから······」
そう、私は誓ったの····帝国を打倒すると。
時は神聖銀河歴3066年。
ロミナイール17歳。
ロザライン19歳。
のちの世でヴァルキュリア戦役と記される戦いの序章である。
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