(n+)2周目

第8話 既視感

 俺は飛び起きた。嫌な夢を見た気がする。とても生々しい、絶望的な夢。そして周囲を見渡した俺は、目の前に広がる見覚えのある白い部屋に一瞬思考停止した。


「夢じゃなかった」


 しかし、夢の最後で俺は木戸に撃たれたはずだ。


「生きてる?」


 しかし、俺は頭を撃ち抜かれて即死だったはずだ。


「やっぱり夢か?」


 いったいどこまでが現実でどこからが夢なのか分からない。目の前の現実に理解が追いついていなかった。壁に掛けられたアナログ時計を見ると、針は3時を指している。


「デジャヴ……」


 部屋を調べると、初日と全く同じになっていた。机の裏には拳銃が貼り付けてあって、ベッドの下の引き出しの着替えも、俺が着ている服も元通りだ。唯一違うのは、机の上にあったはずのメモ帳が無くなっていた。


(時間でも巻き戻ったのか?)


 俺が不思議な現象に困惑していると、扉の外から微かな銃声が聞こえた。


 俺が中央の部屋に向かうと、そこには拳銃を手にした男が立っていた。


「創賀……」


「よう、灯也とうや、久しぶりだな」


「樋口? お前はそいつと知り合いなのか?」


 木戸が創賀に拳銃を向けている構図まで全く同じだ。


「は? 木戸!? お前もここに?」


 俺は記憶を辿り、前回の行動を真似た。そして、時間が経てば経つ程に確信に変わっていく。あれは夢じゃない。正夢だとしたら完璧すぎる。


(タイムリープってやつか?)


 それから七人が集まった。田城さんも夏目も生き返っていて、俺は安堵すると同時に未来を変えられるかもしれないと、希望を抱いた。上手く立ち回れば二人の死を回避できるかもしれない。ゲームマスターの説明と自己紹介を終えて、俺は前回と同じく、水紀を追ってキッチンに飲み物を取りに行った。


「灯也……君。久しぶり」


 水紀は俺に気がつくと、振り返ってはにかむような笑顔を見せた。


「おう、久しぶりだな」


 俺が言うと、水紀は少し不思議そうに首をかしげた。


「灯也君、顔色悪いけど、大丈夫?」


「え? ああ、大丈夫。いきなりこんな変なゲームに巻き込まれて混乱してるだけだから。でも、水紀に再会できたから悪い事だけじゃなかったな」


 俺は前回と展開が変化して、焦っていた。うまく誤魔化せたならいいが、あまり変わり過ぎて、予想外の方向に進んでも困る。俺の今の目的は、木戸が犯人である事の確認と田城さんと夏目の二人の死亡を回避する事だ。

 ふと、俺は水紀の反応が前とは少し違う事に気がついた。水紀は視線を逸らして、口を結んでいる。少しだけ顔が赤い気がするが、気のせいか? いずれにせよ前回はこんな反応では無かった。


「灯也、他の人の注文は何だった?」


 創賀の声に俺は安堵して喜んだ。なんとか軌道修正できたようだ。

 それから俺は飲み物を用意する間に隙を見て、棚の奥に鍵が八本置かれている事を確認した。その内の一本は番号シールがついていなかった。どうやら前回の創賀の推理は的中していたようだ。

 それから俺は、前回と同じように創賀から受け取った自分の分の紅茶と夏目の分のコーヒー、いくつかの菓子を手にしてみんなの待つテーブルに戻った。


「インスタントだけど良かったか?」


「うん、ありがとう」


 俺は前回と同じく右隣の夏目にコーヒーを渡してから、自分の紅茶に口をつけ、思い出した。


 ……微妙だ。


 紅茶のイマイチな味まで完全再現されている。もし次回なんて事があったら、その時は自分で紅茶を淹れよう、なんて冗談を考えた。


 




 

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