生まれて初めての彼女が出会って五秒で出来ちゃったというお話
PeDaLu
かりそめの彼氏編
第1話 かりそめの彼氏
五秒だけ。
僕が人生で彼女がいた時間。
彼女には何気ない瞬間だったのかも知れないけど、僕はその時の事を鮮明に覚えている。
「あー、香織ー、例の彼氏ってどこのいるの?今日学校来てるんでしょ?紹介してよー」
「えっと。あー!こんなところに!この人‼私の彼氏!」
「えー、いがーい。香織がそんな人選ぶなんて。って、時間!次の講義に遅れちゃう!じゃ、また今度ね!」
「あ、えっと?」
「あ、もういいわよ」
「はい?」
一体なにが起きたのだ。今、僕のことを彼氏って言ったよな。いつ告られたっけ?そもそもこの人誰だっけ?認識すらないんだが……。
「あー、もう。さっきのこと!彼氏って言ったでしょ?そのこと!もういいから。今後関わることもないかと思うけど、私を見ても声かけたりしないでよね」
「は、はぁ……」
なんだったんださっきのは。シチュエーション的に彼氏がいないのにいるって友達に話しちゃってて、咄嗟に、って感じだよな。たまたま彼女の近くを通ったから。まあ、二十歳になっても彼女の一人も出来ない僕にあんな綺麗な人が彼女になるなんてあり得ないし。まぁ、もらい事故って事で。
「おーい。一樹ー。何ぼーっとしてんだよ。次の講義遅れるぞ?」
「お、おう。って次なんだっけ?」
僕は後ろからやってきた近藤を彼女に目を向けながら追いかけて行った。私の彼氏、か。
「……ってさー、そんなことがあった訳よ」
「なんだそれ。巻き込まれてんじゃねーよ。声をかけるなってそっちがかけるな、って話だよな」
そうなんだが。あの一瞬、僕は本当に彼女の彼氏になった気がしたんだよな。我ながら気持ちの悪い。近藤と別れてキャンパスを後にしようとして事務連棟のテラスから出ようとしたときだった。
「あー!例の彼氏君じゃん‼」
「あ、えっと……」
「ねぇねぇどこで知り合ったの?告白はどっちから?あーいや。香織からの告白はないか。キミ君からの告白?香織人気あるじゃん?よく成功したね。あ、なんか弱み握ってるとか?」
続けざまに話しかけられて圧倒されて思わず返事をしてしまった。
「あ、弱みとか……その……握って……」
「んー?怪しーなー。なんだろう香織の弱みって。想像がつかないなー。あ!かーおりー!」
「げ!」
「ん?どうしたん?彼氏君待っててくれたみたいじゃん。紹介してよー。彼氏君、なんて名前なの?どこで出会ったの?」
どうすれば?どうすればいい?僕は彼氏じゃないです、といって立ち去るのが一番なんだんろうけど、彼女に恥をかかせるのは……って、別に良いじゃない。知り合いでも何でも無いし。『僕は』
『鈴木君!そう、鈴木君。この前、痴漢から助けて貰って、それがきっかけで……』
「へー。じゃあ、告白は香織から?香織がねぇ。超いがーい。でさ、彼氏君は優しいの?面白いの?この前言ってたじゃん」
なんか目配せをしてくるけど、どんなアクションを求められてるんだ?優しさを出す?どうやって?じゃ、じゃあ、なんか面白いことを言えと?ハードルたけー!
「あ、いや。紳士のたしなみというか?痴漢から助けるのは当然というか?とにかく、自慢の彼女です!」
「やっだぁ、紳士のたしなみってなーにー、ホントにもう。面白い人だね彼氏君。ね、この後どうする?お腹減ったから駅前のモクドいこーよー。彼氏君も一緒にさ!」
「ど、どうする?」
僕は香織というらしい彼女の表情を伺う。すっごい不満そうな顔だ。今にも叩かれそうだ。
「いいんじゃない?一緒に行くんでしょ?お昼食べてないって言ってたじゃない」
これは乗っていけばいいのかな。適当に話を合わせて……。用事が済んだら解放されるだろ。それにしても記録更新だな。さっきは五秒だけとか思ったけども。もうちょっと彼女がいる時間が増えるぞ。なんてくだらないことを考えながら歩いていたら思いっきり腕を引っ張られた。
「ちょっと。分かってるわよね?余計なことは言わなくていいから。適当に相づちを打ってくれればいいから。ホント余計なことはしないでよね」
「え、あ、はい……」
「彼氏君は注文なににするの?お昼食べてないじゃお腹減ってるでしょー。この期間限定特盛りセットいっちゃう?」
「あ、ああ。じゃあそれで。香織……さんは?」
思いっきり睨まれた。香織さんって呼んだのが良くなかったのかな。
「……んでー、彼がいきなり家に来てー。ってちょっと聞いてる?」
「あ、はい!聞いてます!」
「じゃなくてさー。香織の方なんだけどぉ」
「あ、なんかすみません」
「やだー。謝らなくてもいいよー。ってねぇ香織聞いてるー?」
「聞いてる聞いてる。鈴木君でしょ?」
「んー?本当に聞いてたー?まあいいや。彼氏君のこともっと聞かせてよー」
「聞かせること……」
「というようなことはまだなにもないので!三日前から!なので!」
「えー?香織もうちょっと前から彼氏いるって言ってなかったー?」
思いっきり視線を感じる!余計なことだったよな。
「そ、それはね、私ってそれなりじゃない?だからその……」
「あ、絶対に落とせるって思って先に彼氏いるーとか言ったんでしょ?図星でしょ?香織そういうところあるからなぁ。自分はモテてるとか思ってたりして」
いや実際その容姿でモテないはず無いでしょ。
「そ、そうなんですよ。でもまだ三日なので話すこともないというかなんというか……お役に立てずにすみません!」
「いーよー。別に尋問したいわけじゃないし。って、あー。彼からだ。昨日はいきなり家に来たかと思ったら、今日は家に来いだってぇ。って事でお先に!」
「ちょっと。どういうことよ。三日前ってなに?なんで?私は一週間前から彼氏が居ることになってたの。それをなんで三日前に短縮するのよ」
えー……そこなの……。そんなの流石に分からないよ……。
「あ、なんか……、ごめんなさい」
「もう。もうちょっと機転を効かせなさいよね。あのときは一応私の彼氏役だったんだから。あと。涼花にはもう別れたってことにするから、本当に明日以降見かけても声をかけたりしてこないでよね」
「あ、はい」
「じゃ。私、帰るから」
「じゃ、じゃあ、僕も……」
「止めて。一緒に店を出るとかないし」
「はい……」
そう言って僕は山のようなポテトを食べ始めた。ホント。なんだったんだ。でもあんな美人が彼女だったらいいなぁ。香織さんだっけ?同じ学年なのかな?
「ったく。なんなのよマジで。なんで私がこんなことをしなきゃならないのよ!」
家に帰ってひとしきり暴言を吐きまくってちょっと落ち着いた。
「あー!でも明日涼花になんて言おう。三日前から付き合ってて今日別れましたって?」
布団に転がしてあるクッションに顔を埋めて言葉を漏らした。
「そうか。それは災難だったな。でもその香織って人、美人だったんだろ?少しでも彼氏になれて良かったじゃんか。何分だ?人生で彼氏ライフを送れたのは」
「うるせーな。十五分くらだ!十何分の間違いだ!」
「なんにしても本物じゃねーじゃねーか。ま、お互いに頑張ろうや。大学卒業までには彼女、作ろうぜ」
近藤とのメッセージのやりとりを終えてスマホをベッドに放り投げて床に寝転がった。
「あー。彼女かぁ。香織さん、いい匂いがしたなぁ」
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