第13話 お勉強のために
社会人になってから初めての週末、日曜日。春の陽気というのだろうか、やわらかな陽射しと風が気持ち良い。
家で
ここには広大なジュンク堂書店が入っている。何列もの木製の棚に
どの本が良いのか、一応下調べしておいた。口コミや記事でのおすすめなどをスマートフォンのメモ機能に
自分のレベルに合った本で無ければ意味が無い。初歩や基本から応用まで、分かりやすく書かれているかどうかが大事だった。
昨日の土曜日は
「ええ本が買えるとええな」
「はい」
「でも紗奈が料理かぁ。巧くできる様になったらええな。そしたら家で手伝いとかするん?」
「それはどうでしょ。うちはお母さんが全部やってくれますからねぇ。ほんまに感謝ですよ」
「まぁ、そうか」
ジュンク堂の次は、
戦利品が入ったずっしりとしたサブバッグを片手に、他に大きな本屋さんは無かっただろうかと考え、思い出したのは
だが行かなければ後悔する気がして、紗奈は気合いを入れ直す。今日はたくさん歩くつもりで足元は黒のスニーカーだ。服装もピンクのチュニックとネイビーのサブリナパンツといった活動的なものだった。
ああ、そう言えばMIOのプラザ館にも大きめの本屋さんがあったのでは無いか。こう何軒も巡るとさすがに面倒だとも思ってしまうが、何せ新刊でも無い限り、品揃えが本屋さんによって違うのだ。
いろいろ見て回ったところ、どうやらお料理にも多少の流行がある様だ。だがきっと基本の皮
(がんばろう)
紗奈は心の中で呟くと、気合いを入れる様に大股で1歩を踏み出した。
何冊もの料理本を買い込んだ紗奈は、家に帰り着いてから晩ごはんまでの間に、リビングのソファでそれを
洗濯物をたたんでいた万里子はそんな紗奈を見て、意外そうに目を丸めた。
「あらま、ほんまに料理しようと頑張ってるんやねぇ」
「言うたやん。この前私、お料理部の当番になって、教えてもらいながらの手伝いやったけど、お料理したんやで」
「言うてたね。楽しかった?」
「分からん。いっぱいいっぱいやったから、そんなん感じる余裕無かったわ」
「あらま。まぁ、やってたらその内慣れるわ」
「なぁ、お母さんもお料理初心者の時があったやんねぇ。最初はやっぱり巧くできひんかったりした?」
「そりゃあねぇ。お母さんは結婚決まってからお母さん、あんたからしたらお祖母ちゃんに教えてもらったんやけどね。みじん切りとか小口切りとかできるにはできたけど、不揃いで凄っごい遅かったわ。せやからやっぱり料理は慣れやね。味付けも、何も料理人になれって言うわけや無いんやから、それなりに美味しく食べられたらええんよ。それこそそんだけ本があるんやから、レシピ通りに作ったらええねん。そしたらそのうち目分量でも作れる様になれるやろうから」
「お母さんも最初はレシピ通りやったん?」
「レシピっちゅうか、お祖母ちゃんに言われた通りやな。まぁせやから目分量みたいなもんやったけどな。お醤油ひと回しとかな。自分ひとりでやる様になったら、少し辛かったり甘かったりもあったけど、だんだん自分の味みたいなのが作れる様になったわ」
万里子にもそんなお料理時代があったのか。紗奈は少し安心する。なら紗奈だってきっとできる様になるはずだ。なにせ万里子の娘なのだから。
「さ、ほなお母さんは晩ごはんの支度しようかな」
洗濯物をたたみ終えた万里子は立ち上がり、紗奈はまた本に向き直った。
数日が経ち、また紗奈のお料理部当番の日がやって来た。
「
隣から岡薗さんが声を掛けてくれる。紗奈は「はい、あの」と応えながら、足元のバッグから日曜日に買ったレシピ本の1冊を取り出した。
「これ、作ってみたいんですけども」
紗奈が開いたのは肉豆腐のページだった。
「へぇ?」
岡薗さんが興味を示してページを眺める。紗奈は緊張しながら岡薗さんの言葉を待った。
「ええやん。そうしよか。ここにある材料が高かったら他のもんに
「はい」
紗奈は岡薗さんに続いて立ち上がるとサコッシュを持ち上げ、「行って来ます」と声を掛けて事務所を出た。
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