第239話 依頼受注

 翌日。


 アウリエルたちから死霊系モンスターの話を聞いた僕は、冒険者ギルドに行きたがっていたノイズの提案を受け入れ、ノイズとソフィアを連れて冒険者ギルドに足を踏み入れていた。


 アウリエル、エアリー、カメリアの三人はお留守番だ。六人全員で外に出ても戦えない子がいるからね。




「わぁ! ここが帝都の冒険者ギルドですか! 広いですね!」


 室内に入った途端、ノイズが瞳をキラキラと輝かせながら周囲に視線を向ける。


 彼女は冒険者ギルドが大好きだ。帝都へ向かう道中、他の町に寄ると、必ず冒険者ギルドを探す。そして、冒険者ギルドがあると顔を出した。


 帝国の最初の町では治安が悪く最悪な思いをしたが、帝都の冒険者ギルドはとても賑わっている。一見したかぎり、治安が悪そうには見えなかった。


「首都に置いてあるだけあってスペースはあるね。さすがに内装は同じだけど」


「それでもワクワクします! ほら、マーリンさん! あちらの掲示板にたくさん依頼書が張り出されてますよ!」


 ぐいぐいっとノイズに服を引っ張られる。


「あはは。そんなに慌てなくても依頼は逃げたりしないよ」


「取られる可能性はありますよ!」


「ノイズは心配性だなぁ」


 掲示板に張られた依頼書の数は優に百を超える。その中から自分が選びたいと思っていた依頼書だけ抜かれる可能性はとても低い。


 別に焦る必要は無いのにね。


 隣にいたソフィアもノイズの様子を見てくすくす笑っていた。


「ふふ。ノイズさんの気持ちはよく理解できます。私も昔は依頼書をすぐ取らなきゃ取られちゃう! と思ってましたからね」


「それとこれとは状況が違うだろ? もう苦労する必要は無いんだよ、ソフィア」


 彼女の過去は壮絶だった。


 両親に捨てられ、大切な姉は病に倒れる。それでも彼女は生きることを諦めなかった。


 姉の代わりに冒険者になってお金を稼ぎ、なんとか姉と自分を食べさせていたのだ。


 その時のことを考えると、確かに依頼書は大事だと思う。


 彼女は戦えなかったから、余計に薬草採取の依頼とかを集中的に取っていたんだと思う。


 だが、もう傍には僕がいる。ノイズがいて、みんながいる。


 だから過去なんて忘れよう。そんな思いを彼女に伝えると、ソフィアは嬉しそうにはにかんだ。


「はい。ありがとうございます、マーリン様!」


 ぎゅっと手を握り締められた。


 しかし、ノイズも我慢の限界だったのだろう。強く服を引っ張られて無理やり掲示板の前に立たされる。


 その後は依頼書を彼女たちと一緒に眺めた。


「主に討伐依頼が多いね。ノイズは討伐依頼を請けたがってたよね?」


「はい! 冒険者たる者、ビーストたる者、たくさんのモンスターを倒してこそです!」


「で、ソフィアは採取依頼と」


「私には戦闘能力はありませんから」


「僕は別にどっちでもいいし、ここは一つずつ依頼を請けようか」


「同時に依頼を?」


「うん、そうだよソフィア。採取依頼は討伐対象のモンスターを探しながらでもできるしね。逆もまたしかりさ」


「ノイズはマーリンさんの意見に賛成します! 依頼が請けられるならなんでも構いません!」


「了解。じゃあそれぞれ好きな依頼書を探してごらん。それを請けようか」


「はーい!」


「分かりました」


 ノイズとソフィアはそれぞれ頷いて自分好みの依頼を探し始める。


 その様子を後ろから眺めながら僕はふと思った。


「……死霊系モンスターの討伐依頼が思ったより多いね」


 これまで一度も見かけなかったモンスターの討伐依頼が複数見られた。


 前に冒険者の男性たちが話していたとおり、本当に帝都の周辺に多く現れているらしい。


 耳を澄ませば、それっぽい話も周りから聞こえてくる。


「なぁ、今日はどうする? 討伐系の依頼が多いけどやる気出ねぇよ」


「だよなぁ。ゾンビとかグールが邪魔してくるし、ゴーストの発見報告も上がってるらしいぜ」


「めんどくせぇ。ゴーストは魔法攻撃じゃないと倒せないし、マジで最近は多いな、死霊系モンスター」


「もしかすると近くにリッチでも現れたのか?」


「お、おい! そういう冗談やめろよな。シャレになってねぇよ」


「あはは……悪い。リッチなんて出てきたら、ギルドマスター以外は普通に死ぬか」


「一級危険種だからな。ドラゴン並みの化け物と戦うなんざ俺はごめんだぜ」


 ドラゴン並みのモンスター、か。


 僕はそれくらいの敵なら簡単に倒せる。


 魔族はその何倍も強くて、その魔族すら倒したことのある僕からしたら、ドラゴンは強敵になりえない。


 だが、まだレベルがそこまで上がっていないノイズとソフィアには強敵だな。


 ノイズはともかく、ソフィアは絶対に勝てない。


「少しだけ注意しておくべきかな?」


 そもそも死霊系モンスターは他のモンスターに比べて魔力や存在感が薄くて探知しにくいらしい。


 後で外に出た時に試すが、僕の魔力探知がまともに機能するか怪しい。




「注意? 何に注意するんですか、マーリン様」


「ソフィア。もう戻って来たんだ」


「はい。この依頼書に決めました」


「えっと……薬草採取。自由枠か」


「指定の薬草だと時間がかかると思ったので。……それより、注意とは?」


「死霊系モンスターが多く出てるらしいから、注意が必要だなって」


「ああ、なるほど」


 ぽん、とソフィアが手を叩いて納得する。


 そこへ依頼書を握り締めたノイズが合流し、僕たちは街の外に出る。


 何もないといいね。

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