第231話 誤解
勇者と思われる青年とその付き人? の女性が、同時に僕に襲いかかってきた。
素早い動きで距離を詰める。
「殺しはしない!」
などと叫びながら青年の方が剣を振る。
狙いは左腕から肩にかけて。本当に殺すつもりはないらしい。
その刃を両手の平で——キャッチした。
真剣白刃取り。
「なぁッ!?」
驚くべき方法で攻撃を防御され、青年の両目が限界まで見開かれる。
並んだ女性も驚いてはいたが、青年を守るために続けて剣を薙いだ。
「その手を離しなさい!」
「断る!」
僕は掴んだ青年の剣を動かして、女性の剣に当てる。
金属同士がぶつかり合って甲高い音を奏でた。
「このッ」
青年は右足を軸に左脚で蹴りを放つ。
ローキックだ。
ストレートに僕の左脚を崩そうとする。
しかし、僕のレベルは500。
実は尾行中に鑑定スキルで相手のレベルは確認してある。
僕より圧倒的にレベルが低かった。
ゆえに、彼の攻撃は僕の体に当たって——、
「ぐあっ!?」
逆にダメージを受けた。
筋力の数値が足りなかったね、圧倒的に。
「こいつ、なんつう硬さだ……!」
「だったら!」
少女の方が魔力を放出した。
わずかに風が吹く。
咄嗟に青年の剣を動かした。
剣に不可視の何かが当たる。
「——風の斬撃かな?」
「ッ。どうして視えるのよ!」
再び魔力放出。
連続で斬撃が飛ぶ。
そのすべてを白刃取りしたままの青年の剣で防御する。
青年はどうにか剣を離さないように抵抗するが、レベル差がありすぎて僕のステータスには及ばない。
ちょっと力を籠めると……。
「うわぁッ!?」
軽々と青年は剣ごと上空に投げ飛ばされた。
最後まで剣を離さない判断はあっぱれだが、あそこからどうする?
高さは優に十メートルを超えている。
レベルという概念がある世界でも、そのまま落ちたらタダでは済まない。
女性が青年を見上げて叫んだ。
「フィン!?」
「だ、大丈夫だ! その男から目を離すな、ネル!」
「くっ! 分かったわ、フィン。あんたの仇は討ってあげる!」
「まだ死んでねえぇぇぇッ!!」
「コントかな?」
すぐに青年は地面に落ちる。
轟音が鳴り響き、どうなったのか確認しようとするが、
「はあぁッ!」
それをお付きの女性が妨害してくる。
素早く接近して剣を振った。風属性魔法スキルと思われる斬撃や風圧による吹き飛ばしも混ざるが、僕の体にダメージは入らない。
平然と彼女の攻撃を耐え続ける。
「~~~~! 何なのよ……あんた! どうしてこんなに攻撃しても勝てないの!? 傷一つ付かないってどういうことよ!」
「レベルの差だよ。単純なね」
「ふざけないで! 私たちは負けるわけにはいかないッ!」
女性の魔力放出量が上がった。
街中でぽんぽんスキルを撃たない方がいいと思うんだが……言っても止まらないよな。
「これで確実に——仕留める!」
バチバチバチ!
女性の全身を青色の雷が覆う。
その瞬間、——速度が増した。
背後を取られる。
女性は容赦なく剣を薙いだ。
キィィンッ!
彼女の全力の一撃を、手のひらでガードする。
刃は薄皮一枚すら斬れなかった。
「はぁッ!?」
「これがレベルの差。頑張っても僕にはダメージ入らないよ」
「だったらなんで最初の攻撃を防いだのよ!」
「服が斬れたり汚れたりしたら……嫌だろ?」
「ッ!」
女性の表情に赤色が混じった。
怒ってるなぁ、この感じ。
でもそろそろ騒ぎが大きくなりすぎる。
僕も彼女も困るだろうし、ここで終わりにしよう。
これまで防戦一方だった僕から今度は攻めた。
真似するように彼女の背後を取る。
まるで瞬間移動のように。
「——は?」
「こっちだよ」
「しまッ」
ドサッ。
彼女の対応が間に合う前に後ろから押し倒す。
どう見ても事件性が高い。だが許してもらおう。喧嘩を売ってきたのは彼女たちの方だ。
「どーどーどー。落ち着いて。最初に言っただろ? 待ってくれって。僕は君たちの敵じゃないよ」
「ぐぅッ。な、なら……なんであんな所に隠れていたの! 偶然なんて話は通らないわよ! 気配がなかった。尾行してたんでしょ!」
「そうだけど……君たちみたいな怪しい人たちがいたら、そりゃあ尾行くらいするさ」
「怪しい!? どこがよ!」
「僕と同じで気配を殺してた。何かしようとしてたの?」
「違ッ! 私たちはただ……」
「ただ?」
「——ネルから手を離せ! この変態野郎!」
正面から勇者の青年が剣を振り上げて迫ってきた。
剣が光り輝いている。
「あれは……聖属性魔法スキルか」
僕も同じスキルで青年の攻撃を相殺しようとする。
光線が放たれ、剣でガードした青年をまとめて吹き飛ばした。
「フィンッ!」
「あらら。威力が少しだけ高すぎたかな? 死んじゃいないさ。大人しくしてれば殺しはしない。まあ、内容次第では兵士に突き出すけどね」
「はぁ? 私たちは勇者とそのお付きよ!? 兵士に捕まるのはあなたの方なんだから!」
「いやいや……僕、ただの観光客。それを襲うなんて酷くない?」
「か……観光、客?」
「そ。王国から帝都に旅行しにきたんだ。彼女と一緒にね」
「嘘……あ。そういえばそのローブと顔……冒険者ギルドで会った人!? あのイケメン!?」
「イケ……メン?」
首を傾げる僕とは裏腹に、組み敷かれたままの彼女は、視線だけこちらに向けた状態で固まった。
気のせいか顔色が青い。
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