第228話 勇者に会いたい

 宿に泊まって二日後。


 荷物をまとめて僕たちは、いよいよ乗り合い所で馬車に乗って町を出る。


 ガタガタと揺れる荷台の中で、アウリエルが僕に寄りかかりながら言った。


「なんだかんだ、あの町では楽しめましたね」


「それって昨日のこと言ってる?」


「はい」


「僕としてはかなり疲れたんだけどね」


「ふふ。五人の相手はマーリン様でも堪えましたか?」


「そりゃあね。昨日はほとんど動けなかったし」


「六人目がいたかもしれませんね」


 にっこりと彼女は微笑む。


 何が六人だよ。その六人目はアウリエルじゃないか。


 しかも六人じゃ済まなかった。


 あの後、僕たちの行為で目を覚ましたノイズたちが混ざってきて本当に大変だった。


 僕はほぼ動けなかったし、アウリエルたちは底なしの体力だし……。


 今後、全員と寝るのは考えなきゃいけないね。


 部屋も全員取ったのにほぼ意味なかったし。


「次からは一人ずつの方が嬉しいかも」


「そうなんですか? 男性は複数の女性と行為に及ぶのが好きだと聞きましたよ」


「誰だい、純粋なアウリエルにそんなこと吹き込んだのは」


「王宮にいるお姉さまです!」


「どのお姉さまでしょう」


「二番目の姉ですね」


「二番目の姉? まだ僕がほとんど会話したことない人か」


「はい。一度か二度くらいでしたね、顔を合わせたのも」


 王女は四人いる。


 その中で僕がまだまともに喋ったことがないのは、第一と第二王女。


 どちらも性格が変わってることで有名だが……僕からしたら、第三も第四王女も結構変わってる。


 王族ってみんな変な人ばかりなのかな?


「できれば、あんまり顔を合わせたくないような気がするなぁ」


「むむッ。なんだかマーリン様から貶されたような気が……!」


「気のせい気のせい。アウリエルは最高の彼女だよ」


「えへへ。それならいいです。こうしてじゃんけんで勝ったわたくしの特権を行使しますね~」


 すりすり~、とアウリエルが僕の腕に頬ずりをする。


 その姿を他の子たち——カメリア以外が見つめていた。


「アウリエル様……羨ましい!」


「ノイズもマーリン様を抱き締めたかったのです!」


「いいなぁ……」


 エアリー、ノイズ、ソフィアの順番で愚痴を漏らす。


 これは荷台に乗る前に決めたじゃんけんの結果だ。


 例に漏れず僕の隣を確保するために、毎回熾烈な争いが起こる。


 次の町を出る時も同じことになるんだろうなぁ……。


 そう思いながら、僕は荷台の中から外を眺める。


 今日も天気は晴天だ。


 神様が僕に祝福でもしてるようだった。




 ▼△▼




 帝都への旅は続く。


 次の町でも宿を取り、その翌日には町を出た。


 全員が帝都に早く行きたいという思いを胸に、次の馬車に乗る。


 そして数時間後。


 とうとう帝都を囲む外壁が見えてきた。


「おぉ! あれが帝都ですか、マーリン様!」


 荷台、御者が座っている方から見える外の景色に、ノイズが大きな声を出した。


「そうだね。次の街は帝都だから間違いない。あの高い外壁も、王都みたいに立派だろう?」


「はい! 夢にまで見た帝都! 一体、どんな食べ物や魔物がいるんでしょう!」


「あはは。帝都に魔物はいないけどね」


 いるとしたらこの移動中に魔物は出てくる。


「私は早く薬草が見たいです! 本も読みたいッ」


「ソフィアは相変わらずだね」


「マーリン様は何かないんですか? そういう目的みたいなの」


「僕? うーん……そうだねぇ」


 エアリーに訊ねられて首を傾げる。


 そもそも僕がこの旅をしようとしたのは、色んな国を回りたいからと会いたい人がいたからだ。




 ——勇者。




 いまごろは帝都にも生まれている魔王を討つ者。


 それを見に僕ははるばる馬車で帝都までやって来たと言っても過言ではない。


「やっぱり勇者かな? 勇者を見たくて旅をしたわけだし」


「勇者様、ですか。有名人でしょうし、見れますかね?」


「王国の元勇者みたいにレベリングしてたら冒険者ギルドに顔を出すんじゃないかな?」


「冒険者ギルド!」


 僕の言葉にノイズが反応を示す。


「そ、冒険者ギルド。そこで会えればOK。会えなくても別にいいよ。みんなが楽しめるなら僕もそれを見て楽しめるしね」


「実にマーリン様らしい答えですね」


 くすくす、とアウリエルが笑った。


「僕らしい答え?」


「ええ。マーリン様らしい」


「?」


 アウリエルはそれ以上は何も教えてくれなかった。


 他のメンバーたちと一緒に楽しそうに何度も笑っている。


 僕だけが首を傾げていた。




 ▼△▼




 雑談もそこそこに馬車は帝都に到着する。


 アウリエルの正体がバレることなく中に入ると、王都にも負けないほどの人が通りを行き交っていた。


 それを見て僕たちは感嘆の声を漏らす。


「これが帝都……ひ、人がいっぱいいますね……」


「そうだね、ソフィア。王都にも負けないレベルだ……凄い」


 目が回りそうなほどの人口。


 歩いて回ると陽が暮れそうなほどの広さに、立ち並ぶ建物の数々。


 まさに王都と同じだ。発展した帝都の街並みを見て、僕たちは瞳を輝かせる。


「まずはどこに向かわれますか?」


「宿——と言いたいところだけど、時間が意外とあるし、先に冒険者ギルドにでも行っておこうか。前みたいなことになったら嫌だしね」


「前……あぁ」


 アウリエルたちが二つ前の町での出来事を思い出す。


「マーリン様の言う通りですね。調べておくのは大事かと」


 アウリエルたちが賛成を示し、僕たちは人に道を訊ねながら冒険者ギルドを探した。

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