第169話 育成しよう

 魔王誕生。


 その話題を聞くや否や、王家主催のパーティーはお開きになった。


 僕たちも自分たちの屋敷へ帰る。




 ▼△▼




「大変なことになりましたね……」


 着替えを終わらせた僕たちは、全員がリビングに集まっていた。


 静まり返る空気の中、アウリエルが真っ先に口を開く。


「陛下はどうするつもりなのかな? 魔王の件」


「まだハッキリとは何も。そもそも勇者様もいませんし、各国の勇者様や聖女様と協力する必要があります」


「あれ? 勇者って一人じゃないんだ」


「はい。基本的に王国、帝国、皇国の三つの国にそれぞれ一人ずつ生まれます。彼ら三人の英雄が、聖女を伴って魔王討伐に赴くのです」


「ってことは、少なくとも勇者が三人はいないと絶対に勝てないような存在なのか、魔王って」


「そういうことになりますね。魔族とは比べ物にならない強さだとか」


 聞いていてよかったが、聞きたくなかった情報だ。


 僕は最初、勇者が一人いればその魔王に勝てるのだとばかり思っていた。


 もちろん仲間がいてこその話だが、人類の希望たる勇者が三人もいないとダメなのか……。


 最悪の場合、僕が勇者になることも致し方ないと思ったが、やはり僕には荷が重い。


 他の二人の勇者と、今後現れるであろう勇者に期待する。


「とりあえず僕たちは、魔王と関わらない方針でいこう。無闇やたらと蜂の巣を突く必要はないからね」


「解りました。わたくしとしては、マーリン様は巻き込まれる星のもとに生まれたと思いますけどね」


「嫌なこと言わないでください」


 アウリエルのそれは、一種の確信めいたものがあった。


 僕とて自覚くらいはしてる。自分がこれまで色々な事件に巻き込まれてきたという。


 今回も巻き込まれない保証はまったくなかった。


「でも、魔王が復活したとなると、世界中のモンスターが活性化するんじゃありませんでしたっけ?」


「よく知ってますね、ソフィアさん。その通りです。魔王とは、魔族の王であり魔物の王。生まれるだけで魔物に影響を与える存在だとわたくしも聞いております」


「はた迷惑な奴だな……。となると、今後の冒険者活動も厳しくなってくる、かな?」


「むしろレベルを上げるチャンスではありませんか!」


「ノイズはやる気まんまんだねぇ」


 その好戦的な生活は確実にビースト種の欠点だと思う。


 だが、彼女が言ってることもまた事実。


 みんなを育成するっていう方針、そろそろ実行に移すときがきたのかな?


 魔王なんて存在が本当に生まれたなら、みんなにも自衛できるだけのレベルが欲しい。


 さしあたっては……。


「了解。僕がみんなをサポートするから、頑張ってレベルを上げてみようか」


「わたくし達が、ですか?」


「うん。僕はたぶんレベルが上がらないからね。アウリエルたちを育てるほうが早い」


「では、今後も冒険者としての活動は続けていくと?」


「そういうことになるね。嫌な人は言ってくれ。柔軟に対応するよ。誰だって怖いものは怖い。僕だって本音を言えばみんなには戦ってほしくないし」


 でもそうも言ってられない。


 今後、魔王が生まれたことでより魔族たちの行動も過激化するなら、彼女たちの成長は必須だ。


 仮に蘇生すらできない状態で殺されたら……と考えると、僕は気が狂いそうになる。


「マーリン様……相変わらずお優しいですね」


「そんなことないさ。無駄に心配性なだけだよ。ソフィアの件もあるし」


 エアリーが温かい言葉を投げてくれるが、これは僕自身の問題でもある。


 僕が本気でキレたりして暴れたら大変だからね。


「私はやります! マーリン様のためにも少しでも強くなっておかないと!」


「ソフィアがやるならお姉ちゃんもやるよ。マーリン様に二度と悲しい思いはさせたくない!」


「ノイズは最初から賛成なのです! どこまでも強さを求めるのがビースト種の浪漫ですから!」


「あ、私は……レベルを上げることに意味があるのか解りません。私、戦う術を持っていないので」


 カメリアだけが恐る恐る手を上げた。


 たしかに彼女は町の宿屋の娘だ。直接的な戦闘能力どころか経験すらない。


 しかし、


「上げておくことに意味はあるよ。もしかすると便利なスキルを授かれるかもしれないし、体が頑丈になれば死ににくくなるだろ?」


「あ、たしかに……では、私も頑張ります! 少しでもマーリンさんの役に立つために!」


「そんなに張り切らなくてもいいよ。ほどほどに頑張ろう。いきなり魔族と戦えとかそういう鬼畜なことは言わないから」


「絶対に無理ですからね」


 あはは、とアウリエルが笑う。どうやら彼女も覚悟はできていた。


 もともと、アウリエルはそれなりに戦闘経験があるっぽいしね。


 全員の意見を聞き、僕もまた張り切る。


 レベルを上げている最中も気は抜けないからね。しっかりと彼女たちを守りながら強くしないと。


 重い腰をあげて、明日からの予定を決める。




 そのとき。


 ふと、アウリエルが思い出したかのように言った。




「あ……そうでした。レベルを上げる前に一つだけマーリン様にお願いがあります」


「お願い?」


「はい。わたくしと一緒に……へ行ってくれませんか?」

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