第164話 パーティーへ

 アウリエル達と一緒にドレスを選んでから数日。


 とうとうパーティーの日がやってきた。




 ▼△▼




「どうでしょう、マーリン様」


 ふわりとアウリエルの回転にあわして、ドレスのスカートがわずかに浮く。


 その光景を見ながら僕は素直な感想を述べた。


「よく似合ってるよ、アウリエル。まさに夜の女神のようだ」


「まあ! 夜の女神だなんて……」


 アウリエルは僕の割と雑なほめ方にもしっかり照れてくれる。


 たぶん、褒められればなんでもいいんだろう。


 いい子だ。


「マーリンさん! ノイズのドレスはどうですか!」


「私のドレスも……!」


「わ、私のドレスも見てください……」


「似合ってますかね?」


 アウリエルに続いてノイズ、エアリー、ソフィア、カメリア達も同様の意見を求める。


 正直、そんな一斉に言われても困っちゃうよ。


 というか……。


「みんなよく似合ってるよ。購入するときにも見せてもらったから、前以上の感想は出せないけどね」


 何度僕に見せても評価は同じだよ。


 髪型こそ前とは違っているが、それでも印象はそこまで変わらない。


 全員よく似合っていた。


「何度だって乙女は褒めてほしいものなんですよ、マーリン様」


「そういうものかな」


 アウリエルの言葉に僕は首を傾げる。


 男性である僕にはよくわからなかった。


 いや、正確には理解はできる。


 僕だって褒められる分には嬉しいからね。


 けど、僕に過度な期待は無駄だ。


 異世界で初めて女性経験を持ったくらいだからね!


 自慢じゃないけど、まだまだ女性の相手をするには恋愛レベルが足りていない。


「そういうものです。マーリン様のその正装だって素敵ですよ? 何度でも見ていられます」


「ありがとう、アウリエル。それを言ったらみんなのドレス姿だって、僕は永遠に見られるね。むしろその姿を他の人たちに晒すと思うと悲しいくらいさ」


「では脱ぎましょう。パーティーは欠席ということで」


「ちょっと待って」


 あまりにもみんなの考えが単純すぎて僕が驚く。


 言いだしっぺのアウリエルだけじゃない。他の四人も問題ないと言わんばかりに頷いていた。


「ダメだよ、そんな意見で流されちゃ。陛下から招待も貰ってるし、いまさら断れないよ」


「王国を救い、国王陛下を助けたマーリン様ならそれくらい許されますよ」


「たとえ許されても体面がね」


「別に貴族ではありませんし、気にする必要はないのでは?」


「それもそうなんだけど……アウリエルがいるから」


「え? わ、わたくしですか?」


 アウリエルがわかりやすく動揺する。


 僕はくすりと笑って続けた。


「うん。アウリエルが一緒にいるのに、君に迷惑はかけられない。僕の評価はどうでもいいさ」


「わたくしのために……ま、マーリン様!」


 アウリエルが感極まって僕のそばに寄ってくる。


 蒸気した頬。


 熱い眼差しから視線を外せなかった。


 そのまま彼女の唇が近づいていき——もうひとりの女性によって防がれる。


 僕たちのあいだには、エアリーの右手が差し込まれていた。


「はい、そこまでですよ殿下。これからパーティーが行われるっていうのに、発情してはいけません」


「うぅ……やっぱりパーティーはサボりませんか? 今日はマーリン様とじっくり語り合いです。ベッドの上で」


「ダメに決まってるじゃん」


 より理由がダメになったよ。


 ぐいっとアウリエルの体を押して離れる。


「ささ、そろそろパーティーが始まるよ。僕たちは多少遅れるべき立場ではあるけど、一応、王宮までは向かっておこう。不測の事態に備えてね」


 アウリエル曰く、「パーティーの主役たるマーリン様は、他の貴族より後から参加するほうがいい」とのことだ。


 本当の主役は国王陛下だと思うが、名目が僕の偉業を称える感じなので本当に僕が主役っぽい。


 なので、アウリエルの言葉に従って僕たちはパーティーが開催されてから会場へと向かうことになった。


 全員で馬車に乗り込む。


 全員が乗れるように、わざわざアウリエルが大きな馬車を手配してくれたのだ。


「う~! これから王宮へ向かうんですね……たくさんの貴族の方の前に……」


「緊張してるね、カメリア」


「そりゃあそうですよ! 私、つい最近までただの町の宿屋の娘でしたからね!? まさかセニヨンの町を出てすぐに王様と顔を合わせるなんて……」


「せっかくだし、実家の宣伝でもしておく?」


「いいですわね」


「ダメに決まってるじゃないですか!? アウリエル殿下もマーリンさんも悪ノリしないでください! そんなことしたら心臓が飛び出ますよ!?」


 カメリアが青い顔して首をぶんぶん横に振った。


 この反応はガチのやつだ。


「あはは、冗談だよ。僕としても今日はあんまり目立ちたくないしね~」


「そ、それは無理かと……主役が目立たないパーティーのほうがおかしいです」


「だよねぇ」


 ソフィアの正論が僕の心をガリガリと削る。


 カメリアほどじゃないが、たくさんの人に見られると思うと僕も緊張した。


 しかし、そんな心とは裏腹に、徐々に王城が見えてくる——。




———————————

あとがき。


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