第163話 ドレス
支度を済ませて、みんなで屋敷を出る。
今日は王都に来て初めての、全員でのデートだった。
僕、ソフィア、エアリー、ノイズ、カメリア、アウリエルの六人が並ぶと、さすがに人数が多いな。
三人三人で二列になって移動する。
僕の隣を誰が取るかでかなり揉めたが、時間制にしてじゃんけんが行われた。
最初に勝利を収めたのは、ソフィアとエアリーの姉妹。
残りのノイズ、カメリア、アウリエルの三人は後ろに続く。
「さて……とりあえずドレスを買いに行こうか。アウリエルのオススメの店はあるかな?」
「ありますよ。貴族用ですのでやはりあちらのお店が一番です」
通りに着いて早速、アウリエルが近くにある店を選ぶ。
外観からして高級そうな店だ。全員で入ると、すぐに店主がすっ飛んできた。
ぺこぺことアウリエルに頭を下げる。
「これはこれはアウリエル殿下。本日はどのようなご用件でしょうか」
「わたくし以外の五人のドレスと正装を購入しに来ました。いろいろ見せてもらえますか?」
「アウリエル殿下はご購入されないのですか?」
「わたくしは何着もドレスを持っているので。余分なお金は孤児院や炊き出し、教会への寄付に使いたいのです」
「おお……さすがは聖女と言われるほどのお方。ご立派ですな」
「いえいえ。むしろこのお店にお金を落とせず申し訳ないかぎりです」
「だったらアウリエルの分は僕が出すよ」
「え?」
アウリエルが珍しく目を見開いて驚愕した。
まじまじと僕の顔を見る。
「アウリエルだけ買わないのはおかしいだろ? 僕からのプレゼントだと思ってさ」
「し、しかし……ひとり分とはいえ、ドレスはかなりお高いですよ?」
「王女様がそれを言うのかい? つくづくアウリエルは庶民の味方だね。でも安心して。最近いろいろあってお金のほうには余裕があるんだ」
なんせ王族からの報酬も貰ってるしね。
金銭的には遊んで暮らせるくらいの余裕がある。
「マーリン様……」
「受け取ってほしいな。アウリエルだけ除け者にはしないよ」
「……ありがとうございます。わたくし、本当に嬉しくて……」
じわり。
アウリエルの瞳にわずかな涙が浮かぶ。
僕はぎょっとした。
「あ、アウリエル!? 落ち着いて、落ち着いて?」
「すみません……マーリン様からのお気持ちが嬉しくて……」
「……あなた様は、アウリエル殿下の大切なお方なのですね。たしかにフードをしていても漂ってくる気品が……!」
店主が勘違いを始めた。
……いや、あながち勘違いとも言えないから反応に困った。
代わりにアウリエルが満面の笑みで答える。
「はい! わたくしの旦那様ですわ!」
「違います」
それだけは訂正させてくれ。
付き合うという過程をすっ飛ばしてる。
「ではでは、我々が最高のドレスを運びましょう。こちらでお待ちください」
そう言って店主の男性は、店の中を歩き回りながらいくつかのドレスを選ぶ。
普通、客が選ぶものじゃないのかな?
まずはオススメからってやつ? たしかに効率はそのほうがよさそう……かも?
僕たちはソファに座って店主が戻ってくるのを待った。
女性陣は皆、今か今かとドレスを待っている。
▼△▼
「ど、どうでしょうか、マーリン様」
店に入って一時間ちょっと。
女性の買い物というか服選びは長いと聞くが、本当にその通りだった。
今もソフィアが水色のドレスを試着して、僕に感想を求めてきている。
「すごくいいね。ソフィアらしい色合いだ。個人的にはそういう明るい感じの色が似合ってるね」
「ほ、本当ですか? では私はこれで……」
「私はどうでしょう、マーリン様!」
バッと試着室を開けて出てきたのは、紫色のドレスをまとったエアリー。
大人っぽい彼女にはそういうちょっとアダルト? な色のドレスが似合っていた。
「エアリーは紫か。大人っぽいね」
「マーリン様は、大人っぽい女性は……」
「好きだよ。というかエアリーが好きだから、よく似合ってる。黒とか紫がエアリーにはピッタリだね」
「ノイズはどうでしょう! この赤が気に入ってます!」
「私はピンクを……」
「わたくしの青は宝石のようですよ?」
ソフィアとエアリーに続き、ノイズもカメリアもアウリエルもそれぞれがドレスを着て僕の前に立つ。
この時間が先ほどからずっと続いているが……正直結構疲れてる。
それでも我慢して感想を言うのは、本当に彼女たちによく似合っていたから。
結局、最後に選んだドレスにみんな決めた。
色合いで言うと、ソフィアは水色。エアリーは紫。ノイズが赤で、カメリアがピンク。最後にアウリエルが紺色っぽい感じのドレスを選んで終了。
来週のパーティーに合わせて屋敷へ送ってもらう。
すでに精神的にへとへとだが、まだまだデートは終わらない。
この後はみんなで通りのほうへ繰り出し、食べ歩きをしながら王都の観光を行った。
最近騒がしかったからね。こういう時間はものすごく癒しになる。
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あとがき。
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