第161話 アウリエルとの関係
魔族による王都襲撃事件から、一週間ほどが経った。
その間、殺された人を埋葬したり、壊された街を直したり、壊された王宮を修理したりなどかなり王都は忙しかった。
幸いにも、賊による犠牲者はほとんどいない。
衛兵たちに死体を集めてもらい、僕が死者蘇生のスキルを使ったからだ。
正直、レベルを解放しないといけないくらい大変だったが、数十人単位で死者が復活を果たす。
残念だったのは、原型を留めていないほどグチャグチャになった人たちだ。
いくら蘇生スキルでもそういう人たちは治せない。
今後、やや不安が残る。
しかし、それでも街の喧騒は消えない。
あれだけの事件がありながら、人々は希望を持って今を生きている。
それは僕たちも同じだった。
「ふう……さすがに疲れたね」
ソファに体を沈めて盛大にため息を吐く。
「先ほどの蘇生で最後でしたね。お疲れ様でした、マーリン様」
僕の隣でアウリエルが甲斐甲斐しく頭を撫でてくれる。
精神的に疲れているので、頭を撫でられても疲労は取れないが……嫌ではなかった。
彼女にべたべたくっ付かれるのもすっかり慣れたものだ。
「アウリエルも一緒に付き合ってくれてありがとうね。助かったよ」
「恋人ですから当然です」
「そういう意味の付き合うじゃなくて」
「……はい」
ぶすー。
見てわかる感じでアウリエルの顔に不満の色が浮かぶ。
彼女はすーぐ話をそっち方向に持っていこうとするからね。
油断も隙もない。
「そろそろ認めてくれてもいいのに。半ば結婚してるようなものじゃないですか」
「それは重すぎない……? 恋人くらいなら別に認めるけど」
「結婚の何がダメなんですか!? 結婚は…………うん?」
僕の言葉の違和感にアウリエルが気付く。
しばし思考を巡らせてたあとで、
「——いいい、今、マーリン様はなんと!?」
がしっ。
思い切り僕の胸倉を掴まれる。
あれ? カツアゲされてる、僕?
「だから、アウリエルと付き合うのは別にいいよって。いや……違うね」
それだとちょっと偉そうだから訂正する。
「僕がアウリエルとずっと一緒にいたいんだ。君を誰にも渡したくない」
「ま、マーリン様……」
アウリエルは固まった。
これが現実なのか? と言わんばかりに僕の顔を凝視している。
少し面白かったので彼女の後頭部に片手を添える。
あとは彼女の顔を無理やりこちらへ寄せると——。
二人の唇は自然と重なった。
「————!?」
ここまでくるとアウリエルはパニック状態だ。
目をぐるぐると回しながら顔を真っ赤にする。
唇を離してから僕はくすりと笑った。
「はい、これで少しは信じてくれたかな?」
「あばばばばばば」
「あ、アウリエル?」
普段あれだけ積極的なアウリエルは、僕からキスされて正気を失っていた。
頭から湯気を出して後ろに倒れる。
「あらら……まさかキスされただけで気絶するとは思わなかったなぁ……」
僕はずっとアウリエルが好きだった。
彼女の想いをどう受け取ろうか悩んでいた。
しかし、今回の件を通して、やっぱり彼女を突き放すことはできないという考えに至り、こうして積極的になったが……。
これまで突き放していた弊害か、いきなり距離が縮まって彼女がバグった。
そのままソファに寝かせてあげると、それを見ていたソフィアたちに囲まれる。
「マーリン様? アウリエル殿下だけズルくありませんか? 私だってマーリン様とイチャイチャしたいのに……!」
「疲れているから我慢してたんですよ! ノイズも混ぜてください!」
エアリーとノイズに続き、ソフィアとカメリアまでもが「そうだそうだ!」と言ってくる。
こうなると彼女たちを説得するのは不可能だ。
その日、僕は長い長い時間を彼女たちと過ごす。
何をしたのかは……秘密だ。
▼△▼
翌朝。
朝食を摂っている僕に、すっかり上機嫌になったアウリエルが言った。
「……あ、そうでした! マーリン様に渡したいものがあるんでした!」
「ん? 僕に渡したいもの?」
そう言った彼女は、懐から一枚の手紙を差し出す。
それを受け取って中身を確認すると……。
「……これ、国王陛下からの手紙だね。パーティーへの招待状?」
「はい。今回の騒動を解決してくださったマーリン様を祝う会ですね。本当ならまだ復興が終わっていないので、パーティーはしないほうがいいのでしょうが……逆に英雄を誕生させるいい機会かと思いまして」
「平民から苦情が出ない?」
「恐らく出ませんね。彼らも希望の光を求めているのです。それに、一番助けられたのは彼ら自身。きっと諸手をあげて喜んでくれるかと」
「そういうものかね」
僕はよくわからなかった。
だが、アウリエルが参加してほしそうだったので参加を決意する。
どうやらソフィアたちも一緒に行っていいらしいからね。それなら問題ない。
「開催は来週か。それまでにドレスとか買っておかないとね」
「支払いは王家が負担します。週末にでもデートしましょうか」
これからの予定が決まった。
———————————
あとがき。
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