第120話 信者怖い……

「……ひ酷い目に遭った……」


 メイドたちに素顔を晒した。アウリエルに騙された気分だ。


 僕の素顔を見たメイドたちは、その半数が「尊い」と告げて気絶した。もれなく全員が鼻血を出していた。瞳孔くっそ開いてた。息が荒かった。


 一種の恐怖を体験したせいで、精神がガリガリ削れた。


 彼女たちから離れて通路の奥に向かう頃には、誰よりも疲れきっていた。


 ソフィアたちが背中を撫でてくれる。


「お……お疲れ様でした、マーリンさま。マーリンさまの人気は王都でもさすがの一言ですね」


「嬉しくないよソフィア……まるで見世物にでもなったような気分さ」


 前世で言うなら、さながらパンダ。僕は銀髪だし色合いが似ていなくもない。


「あわわわわ! エアリーさん、マーリンさんがショックを受けています!」


「あれはショックを受けているというより……きっとすごく疲れたのかと」


 エアリー正解。


 オークを殲滅した時より疲れた。


 精神はレベルにあまり左右されないのかもしれない。


 あとなかなか回復しない。


「ふふふ。マーリンさまが人気でわたくしはとってもとっても嬉しいです。これで彼女たちのわたくしへの心象はさらにうなぎ上り。きっとよりよい信仰を神へ捧げてくれるはずです」


「僕を客寄せパンダみたいに使わないでくれないかな?」


「パンダ? なんですかそれ」


「遠い国にいる白黒の動物だよ。熊の亜種みたいな奴かな」


「世界にはそんな動物が……しかしマーリンさまは、そのパンダなる動物ではありませんよ。神です」


「違います」


「それに彼女たちにマーリンさまの姿を見せたおかげで、今後はいろいろと王宮内で融通が利きます。マーリンさまもより自由に動けるかと。メイドに声をかければ基本的になんでも頼まれてくれますよ」


「怖いよ信者……」


 そんな、便利なものを見つけたみたいな発想にはならない。


 そもそもメイドに頼むことがいまのところ思い浮かばない。


 アウリエルは一体なにを望んでいるのか。


 変なことじゃなければいいんだが……うん。僕のアウリエルへの信頼がわずかに揺らいでいた。




 ▼




 アウリエルの案内で空き部屋にやってくる。


 普通、先に国王陛下と話し合いとか、帰った報告をするべきなのだがアウリエルは、


「使用人に報告は任せました。わたくしたちはゆっくりしましょう」


 と何の確認もせずに空き部屋を僕たちに預ける。


 王宮だけあって誰も使用していない空き部屋ですら広く豪華だった。


 それぞれ個室として使えるように、僕、ソフィア、エアリー、ノイズの四人分の部屋の鍵を手渡される。


 いつの間に部屋の鍵なんて取ってきていたんだと疑問を持つべきか、受け入れるべきか。


 僕は後者を選んだ。


「荷物はマーリンさまのアイテムボックスに入れたほうが便利なので、ひとまず衣服のみクローゼットの中に入れておいてください」


「そうだね。取り出すから自分の分の服が入った袋はしっかり各自が保管するように」


 そう言ってアイテムボックスから彼女たちの服を取り出す。


 中には下着もある。僕には見えないようにそれらは袋の中に入れてもらった。


「他には特に予定はありません。皆さん長旅で疲れたでしょうからごゆっくりお休みくださいね。マーリンさまはどうしますか?」


「うーん……僕も特にすることはないかな。疲れてるわけじゃないけど、いきなり部外者が外を歩き回るのもアレだし」


 というか王宮内部には彼女の信者がいるから簡単には出歩けない。


 アウリエルがいればいいが、ひとりでは難しい。


「わかりました。では明日の謁見のあと、わたくしと一緒に王宮をぐるりと散策しましょう。皆さんもそれで構いませんか?」


「私は問題ありません」


「私も平気です」


「わ、わかりました」


「了解です!」


 ソフィア、エアリー、カメリア、ノイズの順番でアウリエルの問いに答える。


 それぞれ疲れを感じさせない表情を作ってはいるが、部屋に入った途端疲労というのはやってくる。


 謁見を明日に回してくれたアウリエルには感謝だな……いや待て。それにしたって明日でも早いだろ。国王陛下の用事は聞かなくてもいいのかな?


 ふとした疑問にアウリエルが答える。僕の表情を見て察したらしい。


「ご安心くださいマーリンさま。こういう面倒なことは手早く済ませるにかぎります。それに陛下はわたくしのことを溺愛してますので」


「それはそれで不安が出てくるんだが……まあアウリエルがそういうならいいか」


「はい。それではわたくしは、お父様に用があるので失礼します。また明日」


「お疲れ様アウリエル」


「お疲れ様でした」


 僕たちに見送られて、アウリエルが通路の奥に消える。


 ソフィアたちも衣服を持って自室に向かうと、僕は部屋の一角にローブをかけてベッドに転がった。




「ああ……やっぱり疲労が出てくるな」


 ベッドに転がった瞬間から眠気が顔を出す。


 何もかもを忘れて僕はその睡魔に体を委ねた。意識がゆっくりと遠ざかっていく——。


———————————————————————

あとがき。


※言い訳タイム

もともとカメリアはただのモブでした。途中から加えたため、すっかり忘れてました……。

ごめんね、カメリア……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る