第111話 心は通じ合っている
王都の旅に、正式にカメリアが追加された。
アウリエルには事前に何人か旅の仲間が増えるかもしれない、とだけは伝えてある。
ゆえに、最大の難問であったカメリアのお母さんが、旅の同行に許可を出してくれてよかった。
カメリア本人も諸手を挙げて喜んでいる。元気が行き過ぎて母親に怒られていた。
その光景を笑いながら眺め、朝食が出てくるまでのあいだ、大人しく席に座る。
窓辺から見える青空を見上げながら、他のメンバーはどう口説き落とすべきかを考えた。
カメリアに比べれば、最初から来る気まんまんであろうソフィアたち。恐らく、僕が声をかければ頷いてくれるとは思うが……その分、もしかしたらの可能性を考えて気分が落ち込む。
並べられた朝食を食べながら、ゆっくりとこの後のことを考える。
時間はほとんど残されていなかった。
▼
朝食のあと、僕とカメリアは荷物をまとめて宿を出る。
アウリエルは先に、馬車の乗り合い所へと向かっている。
あとはそこへ僕とカメリアが向かい、事前に約束していた三人が来るのを待つだけだ。
カメリアと談笑しながら馬車の乗り合い所に到着する。
用意された馬車の前に、アウリエルと護衛の騎士ふたりが立っていた。
彼女がこちらに気付き手を振る。僕もカメリアも同時に手を振り返した。
「おはようございます、マーリンさま! カメリアさん」
「おはよう、アウリエル」
「おはようございます、アウリエル殿下」
「ふふ。我々はその内に家族になるのかもしれませんね。プライベートでは〝殿下〟は必要ありませんよ。せめて様くらいにしてください」
ニコニコ笑顔のアウリエルがそう言った。
僕とカメリアの関係がさらに前へ進んだことを確信している。そもそも彼女を焚きつけたのはアウリエルだった。
「で、では……僭越ながら、アウリエルさま、と」
「はい。そっちのほうがワタクシも慣れていますので楽です。ふふ。おめでとうございます、カメリアさん。その様子なら、見事成功したようですね。作戦は」
「……作戦?」
なんだか聞き捨てならない単語が聞こえたぞ。
ジッとアウリエルの顔を見つめると、彼女は、
「なんでもありません」
と不動の笑顔を見せ付ける。
「ワタクシは話すことなど何もありませんよ?」と言わんばかりの笑顔だ。あれを崩すことなどできまい。直感でそれが解った。
「へぇ……だそうだけど、カメリアはなにか知ってるのかな? 知ってたら僕にも教えてほしいなぁ。僕だけ仲間はずれなんて可哀想だろ?」
「ご、ごめんなさい、マーリンさん! ひ、秘密です……」
明らかに何かがあったと自覚しているようなものだ。カメリアの態度はかなり怪しい。
汗を滲ませ、顔には動揺が。視線を逸らし、忙しなく手が動く。
僕がジーっと彼女を見つめ続けると、
「ダメですよ~、マーリンさま。あまり女性を虐めちゃ」
アウリエルが僕たちの間に割って入ってくる。
そんなに詮索しちゃいけないことだったのかな? 無理やり聞きだすのは僕も好きじゃないし、冗談はこれくらいにしておこう。
「了解。僕はなにも見なかったし、何も聞いていなかったよ」
「男らしいマーリンさまも素敵です」
にこりと最後に笑ってアウリエルがそう言った。
褒められてるのか怪しいところである。
「それより、あちらの女性がたの相手が先でしょう? マーリンさまにとっては」
「あちらの?」
彼女が見ているほうへ視線を伸ばした。
すると、一本道の奥から三人の女性が姿を現す。
ソフィア、エアリー、ノイズの三人だ。
何やら背中や手元にデカい荷物を背負い持っている。
「ソフィア、エアリー、ノイズ? みんなその荷物はどうしたの?」
目の前までやってきた三人に、僕は疑問符を浮かべて訊ねた。
「なにって……荷物ですよ、私たちの」
まずソフィアが答え、続けて彼女の姉エアリーが口を開く。
「もしかして、私たちがこの町に留まるとでも思ってましたか? 言ったでしょう? 私たちはずっとマーリンさまと一緒ですよと」
「ノイズも準備してきましたー!」
むふん、とドヤ顔を作るノイズ。
三人とも……僕がなにも言わなくても最初からそのつもりだったらしい。
たとえ誘われなくても、僕についてくると。
それが、その気持ちが嬉しくて、思わず僕は心が震えた。
いますぐにでも泣きたいほどの激情が胸中に生まれる。
しかし、泣いてしまえば時間が無駄になる。うるっとした目元に力を入れて、涙の代わりに笑う。
「ありがとう……みんな。僕、みんなとずっと居られて嬉しいよ……!」
「えへへ。マーリンさまが追い払っても逃がしません! お姉ちゃんと一緒に、どこまで追いかけます!」
ソフィアが荷物を置いて僕に抱き付いてくる。
彼女は前にそういう関係になってからずいぶんと積極的になった。あれだけ恥ずかしがっていたスキンシップも、遠慮なくするようになった。
「ノイズはマーリンさんの弟子です。師匠についていくのが当然です!」
「あはは……それもそうだね」
いつ弟子にしたのかは覚えていないが、野暮なことは言うまい。
笑顔のアウリエルとカメリアに見守られ、僕はしばらくのあいだ、ずっと笑顔を浮かべ続けた。
こうして、僕たちの旅が始まる。
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あとがき。
今後の作品の更新に関してのお話と相談を近況ノートに載せました。
よかったらご確認よろしくお願いします!
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