第38話 嫌な予感がする
ハブールに襲われていた冒険者たちから離れる。
いまだ僕の腕はエアリーによって引っ張られていた。
「え、エアリー? そろそろ腕を離してくれると嬉しいんだけど……」
「——あ。す、すみません、マーリン様!」
言われてパッとエアリーが腕を離す。
「ううん。僕もあの場から連れ出してくれて助かったよ。ハブールは回収し忘れちゃったけどね」
「あ」
忘れてました、と言わんばかりの表情でエアリーが落ち込む。
「せ、せっかくの魔物が……。売れば金になったし、一匹だけでも私のスキルで……」
「スキル?」
「っ。いえ。なんでもありません。それよりどうしますか? 一度、彼らのもとに戻りますか?」
「うーん……それも悪くないけど、今さら戻るのもなんかね。どうせ彼らがハブールの死体を持ち帰ってくれるでしょ。あとでそれを受け取ればいいよ」
彼らは僕たちに恩がある。さすがにその恩を仇で返すような真似はしないだろう。
その時は相応の対応をするまでだ。
「わかりました。では、このまま依頼を続行、ということで?」
「問題なし」
僕がそう言うと、全員で再び歩き出す。
歩きながらエアリーが話題を振る。
「それにしても……まさか三体も大蜘蛛が出るとは思いませんでした。あの数はまずいですね……」
「さっきの魔物のことだよね? そんなに強くなかったけど」
「たしかにハブールは私でも倒せる可能性はあります。ですが、それはあくまで相手が一匹だった場合。あんな風に複数のハブールに囲まれてしまっては最悪ですね。マーリン様のように高いレベルの聖属性魔法スキル持ちがいないとどうしようもありません」
「ふうん」
よくわからん。
僕からしたらゴブリンもアイツも等しく同程度の雑魚だ。
気持ち悪さは蜘蛛がぶっちぎりだけどね。
「複数のハブール……。今後、他にも同じ個体が出る可能性はありますね」
「あの蜘蛛はあれだけじゃないってこと?」
「すでに三体も発見してますから。いる、と考えたほうがいいかと」
「それは……いやだね、凄く」
「マーリン様は苦手ですか? ハブール」
「苦手も苦手だよ。あの外見がもうキツい」
「でも簡単に倒してましたよ?」
「倒すのは平気。次からは聖属性魔法で焼くから」
最初は咄嗟に蹴り上げたが、次はもう触れたくもない。遠距離から一方的に蹂躙してやる。
気分は、前世でいう殺虫スプレー的な。
「ふふ。そうですか。私としてはもう出てこないほうが嬉しいですけどね」
「私も苦手……小さな蜘蛛なら問題ないんだけど……」
「あれは大きすぎるよね……」
普通、人間よりデカい蜘蛛とかありえないから。映画に出てくるモンスターだよ、あんなの。
今日、はじめて神様からもらった過剰な加護に感謝した。スペックが高いおかげで変な目に遭わずに済んだからね。
今後は、遠距離攻撃主体で頑張ろうかな……。
「でも気になりますね……。ハブールがセニヨンの町近隣に現れるなんて。この辺りじゃ、あそこまで強い個体はほとんど出てこないのに……」
嫌がる僕とソフィア。
唯一、エアリーだけがぶつぶつと何かを考えていた。
けど、僕はそこまで悩む必要はないと思う。何事にも絶対はないのだ。この辺りにドラゴンが出てくる可能性だってある。
ならば、ハブールの3匹や10匹くらい出てもおかしくない。
……大蜘蛛が、10匹……。
想像したら鳥肌がたった。あまりにも気持ち悪い。
「取り合えず、薬草採取に精を出そうか。魔物が出たら、その時に考えよう」
「はい、わかりました」
「お任せください! 薬草採取だけは得意です」
「討伐は私メインでお願いします。サポートはマーリン様に任せました!」
「ふふ、頑張るね、二人とも」
全員ハブールの件は忘れてやる気を出す。嫌な事は忘れるにかぎる。
再び僕を先頭に、森の中を歩く。
薄っすらとなぜか嫌な予感がした。
ような気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます