第8話 強すぎる顔面
「冒険者登録ですね。ありがとうございます。ではこちらの紙に必要な個人情報を記入してください。あと、念のためフードをとって素顔を確認させてください。犯罪者の登録を防止する意味がありますのでご協力を」
「…………え?」
受付の女性の言葉が
しかし、僕の
白くなめらかな生地に触れ、ゆっくりとだが確実にフードが下ろされる。すると、僕の銀髪が灯りのもとに露になった。あれだけうるさかった酒場の喧騒すら徐々にやんでいき、ものの一分ほどで完全に冒険者ギルドは沈黙する。
申し訳ない気持ちと「早く済ませろや!」という複雑な気持ちを抱いて、小声で僕はいそいそと受付の女性に声をかける。
「あ、あの……これでいいですか?」
僕の声が聞こえると、受付の女性は桃髪を激しく揺らして動揺した。びくりと肩が震わせながら、頬を赤く染めて答える。
「へ? え? あ! はい! もう大丈夫、です……」
そう言いながらも彼女の視線はずっと僕の顔に釘付けだ。爛々と光る眼差しの中に、「あなたはもしかして神様ですか?」という感情の色が透けて見える。もちろん僕は神様などではないため心の中でそっと否定すると、周囲からの好機の視線に耐えながら急いでフードをかぶって用紙を提出する。
呆然とした表情ながらも一枚の紙を受け取った受付の女性は、機械的に、
「で、では……冒険者カードを発行してきますので少々お待ちください……」
と言って、後ろで固まる同僚たちのあいだをすり抜け、奥の部屋に消えた。
ぱたんと閉じた扉の音を引き金に、再び冒険者ギルド内に喧騒が戻る。
「な、なんだいまの顔……つうか髪! この辺りじゃ珍しい色だなおい」
「あたしちらっと横顔が見えたんだけど、もしかして瞳の色が金色なんじゃ……」
「すっごいイケメン現るっ! 冒険者登録してるみたいだけど、誘ったらパーティーとか組んでくれるかしら?」
「はあ? 抜け駆けしないでよっ! 私が声をかけたいと思ってたんだから!」
会話の内容さえ入らなければすごく賑やかで楽しそうだなあ、と思えるのに、内容がほぼ全て僕に関することだとわかると、ぜんぜん笑えないし微笑ましくない。
いっそ肩身の狭い気持ちをぶら下げていたら、隣にいるソフィアがまたしても頭を下げてきた。
「ご、ごめんなさいマーリン様! まさか顔を確認されるとは……」
土下座でもしそうな勢いでぶんぶんと頭を下げるものだから、いくらなんでもやりすぎだと彼女を止める。
「お、落ち着いてソフィア! 別に君のせいじゃないだろう? ほとんどの人はフードなんて被ってないし、確認すらされなかったんじゃないのかな? だから悪いのはやっぱり僕なんだよ……」
というか神様! なんか町に入るだけで見られるし、冒険者ギルドで騒ぎになったんですが!? これも転生特典ですか? ありがとうございます!!
半ばやけくそ気味に心の中で叫び、あわあわとプチパニックに陥るソフィアをなだめる。彼女を見ていると不思議と気分が落ち着いてくる。自分よりよっぽど焦ってるからかな?
苦し紛れに、「薬草を売りに来たんでしょ? 出さなくていいの?」と言ってソフィアの意識を周りから散らす。彼女は泣きそうな表情を浮かべながらも、僕の言葉を聞いて多少は落ち着きを取り戻した。
最後にもう一度だけ「ごめんなさい」と謝って、受付に向きなおる。そこにはやたらニコニコ笑顔の女性が席に座っていた。どうやら先ほどの担当の代わりらしい。僕を見つめながら話しかけられるのを待っている。だが、声をかけたのはソフィア。手にした籐かごをテーブルの上に置くと、控えめな声で用件を端的に伝えた。
「あの……この薬草の買い取りをお願いします」
ぺこりとソフィアに頭を下げられて、受付の女性はやや残念そうに顔色を曇らせた。それでも受付としての意地を見せ即座に表情を笑顔に戻すと、元気な声で、
「畏まりました。査定が終了するまでお待ちください」
薬草を受け取ってどこかへ行く。登場して数分でいなくなった。
「お互いに待ち時間ができたね。ここだと騒がしいけど終わるまでは離れられないし……近くの席にでも座っていようか」
そう提案すると、ソフィアは素直に「はい」と言って頷いてくれた。もう先ほどの負の感情は消え去ったのか、朗らかな表情の彼女を連れて踵を返す。目についた木製のベンチの下まで向かうと、寸でのところで横から声をかけられた。ソフィアじゃない。
「おうおう兄ちゃんよぉ、えらい目立つ外見してるじゃねぇか。お前みたいな目立ちたがり屋が冒険者としてやっていけるのか……ひっく。おじさんが試してやろうかあ?」
やけに酒臭い、顔の赤い酔っ払いだった。
———————————————————————
あとがき。
テンプレテンプレ。
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