5話 動物

 オーロラと別れ、城を後にした私たちは、宿屋へと向かっていた。旅行の次の予定があるからだ。すると、同じく宿屋へ向かうであろうセイライとセイアがいた。

「セイライ、セイア。宿屋へ戻るの?良かったら一緒に行きましょう」

「杏奈。……まあ、いいけど」

 セイアが答えた。セイライは、ハッとして、セイアの背中に隠れた。相変わらず、照れてるのかしら。

「ここの国は、差別があまりないのね。王女も、種族差別をなくしたいって言ってたし」

 セイアが話し始めた。

「差別?私は地球でも感じたことないけど」

「あんたみたいな呑気な奴はそうでしょうよ」

「呑気ってどういうことよ!」

「あなた、ここの国の人でしょ」

 セイアは私を無視して、空に話しかけた。

「そうよ。確かに、この国……いえ、この町は種族差別は他の町よりは少ない方だとは思うわ」

「この町ね。引っかかる言い方するじゃない」

 セイアは、空をじっと見た。空は目をそらさずに、セイアを見つめ返す。

「人の差別は変わらずあるものよ」

 空はそう言い切り、セイアから目をそらした。

「そんな……」

 私は落胆した。差別があるとは、思えなかったからだ。町を歩いていても、店で買い物をしても、皆平等に接してくれているように感じた。それを、空とセイアに伝えた。

「それは、表面上の話しよ。私は、魔族もヒュー族も恨んではいないけど、そうじゃない動物族なんてたくさんいるわ。うちの両親みたいに」

 空はそう言った。手を強く握りしめていた。

「うちは、兎耳族しかいない村だから、村内ではそこまで差別はなかったけど」

「え?同じ種族しかいないのに、差別があったの?」

「あるに決まってるでしょ。同じ兎耳族でも、種類が違ったら、差別くらいあるわよ。うちの家族は、雑種だから影では色々言われてるし」

「そんな事ってあるの?」

「随分、お気楽な環境で育ったものね。弟だっていうあなたもそうなのかしら」

 セイアは、チラッと皐月を見た。

「俺は姉さんと違って、差別はあるとは思ってるよ。うちの村はそういうのがなかったし、本でしか知らないが」

「皐月くん!愛に種族は関係ないわよ!」

 空は、皐月の腕に抱きついた。皐月は嫌そうにはするが、離そうとはしなかった。

「空はそういうけど、差別はあるって思うんでしょ?」

 私は空に聞いた。

「そりゃ、差別はあるわよ。それと愛は別。皐月くんとなら、差別は乗り越えられるもん」

「はいはい」

 皐月は呆れたように返した。

 その時、げっという、嫌そうな声が聞こえた。そちらを見ると、私に気持ち悪いと言ってきた旅行を一緒にしている男の子がいた。両親とは一緒にいないみたいだ。

「あなたは……名前なんだったかしら?」

「ラミハル・カカーズだよ。おばさん」

「おばさん!?私まだ14歳なんですけど!あと、私は杏奈っていう名前がありますー!」

「姉さん、ガキと張り合うなよ」

「皐月、うるさい」

 ラミハルは、嘲笑した。

「なんで、魔族かヒュー族かわかんないけど、動物なんかと姉弟なわけ?気持ち悪っ」

「あんた、それで気持ち悪いって言ったわけ?」

「そうだよ。当たり前じゃないか。初めての宇宙旅行だから楽しみにしてたのに、動物なんかと一緒だなんてさ」

「さっきから、動物動物って、私たちは人なんだけど」

「動物だろ。その気持ち悪い耳をどっかにやってくれよ」

「なんですっ……」

 私が反論しようとしたら、アキラが私を静止した。

「まあまあ。そんなに怒るなよ、杏奈」

「アキラ……?」

「ラミハルだっけ?君、それ以上喋るなら、お兄さんも怒っちゃうかもしれないな」

 アキラはラミハルに圧力をかけた。これは、前にもあった。私が狼耳族の男に、刃向かった時みたいに怒ってる。

「ちっ……」

 ラミハルは、1歩引いた。

 今気づいたが、セイライが泣きそうな顔をしている。

「ストップ!ストーップ!」

 空が叫んだ。

「空?」

「もう!これはよくある事だから!怒る話じゃないから。放っておいて先に行きましょ。さあさあさあ」

 空は、アキラの背中を押して、移動させようとした。アキラは、おいと言いながらも、それに身を任せた。

「でも……」

 私がそう言うと、空が、でもじゃないと答えた。

 私たちは、ラミハルを置いて、先を急ぐことにした。

「空、なんでとめたの?」

 私が聞くと、空がため息を吐いた。セイアも一緒に。

「私たちが、動物なんて言われるのは、日常茶飯事なのよ」

「そうなの?」

「そうなの!アキラくんも、あんな挑発に乗らないの。物分り良いと思ってたのに」

「悪い、空。杏奈のことを言われてると思うとさ」

「アキラ。ありがとう」

「杏奈!杏奈のためなら!」

 アキラが抱きつこうとしたので、肘で腹を殴った。

「とにかく、余計な争いは生まないでちょうだい。私たちの肩身が狭くなるから」

「……ごめん」

「まあ、杏奈は何も知らないみたいだし、仕方ないのかな」

「甘いのね。あなた」

 セイアがまた、ため息をついた。

「皐月くんのお姉さんだし?」

「そこがまた意味わからないのよ」

 空とセイアは、なんだか仲がいいように見えた。

 種族差別があるのはわかったけど、あの子……ラミハルに言われた言葉が何だか嫌だった。動物と動物族、少ししか言葉は違わないけど、すごく差別を感じる言葉だった。

「おい、宿屋についたぞ」

 皐月がそういうと、目の前に宿屋があった。空とはお別れになる。

「また、後で来るね。今日は、花火大会よ。戴冠の儀の後だから、一際盛大にやるらしいの。皐月くんと、一緒に見たいわ!じゃあね!」

 そう言って、空は走っていった。

「次の行程はなんだったかしら」

「花火作りらしいぜ」

 アキラが旅のしおりを取り出して、教えてくれた。

「花火作り!楽しそうね」

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