第8話 また、日曜日

日曜日


 朝10時集合だったのに、私は九時過ぎに奥城さんの家に着いてしまった。でも奥城さんは早く来過ぎた私を笑顔で歓迎してくれた。


「少し早いけど、はじめましょうか」

 

 今日やることはもう決まっている。パイナップルを5分30秒加熱し、それからパイナップルを取り出して、素早く投げる練習だ。数に限りがあるからたくさんはできないけど、本番までに実践を積んで少しでも精度を上げておきたい。


レンジに入れた本日1個目のパイナップルが、もうすぐ爆発する。


「今だ!」


素早くレンジの戸をあけてパイナップルを掴み、空中に投げた。その瞬間伏せて耳を手で覆うのも忘れない。いつも通り、轟音を上げてパイナップルは爆発した。地下室の壁はパイナップルの汁でベットリと汚れた。


「次、私が投げてみてもいいですか?」


「うん」


 同じようにパイナップルをレンジで温め、爆発する寸前に取り出して投げつける。


「えい」と投げられたパイナップルは壁にこつんと当たって、大爆発。


「やった!」


 奥城さんは小さくガッツポーズ。もう暴発することもない。私たちのパイナップル爆弾は完璧に完成した。


 材料も残り少なくなったので、いよいよ最後の実験を行うことにした。


「いつもどおり、5分30秒でセットします」


「心の準備はいい?」


「うん」


 スイッチが押された。何回実験しても、この5分30秒間はどうしても緊張してしまう。 実験し始めのころは、よく暴発させていたこともあって、ほぼ大丈夫だと確信を持ってい る今でも目は離せない。オレンジ色の光に照らされてくるくる回るパイナップルを、私は奥城さんと二人で見守った。


「5分30秒がちょうどよかったんだね。結構早く分かってよかったよ、大変だったけど」


「でも楽しかったですよ、ものすごく」


「うん、私も楽しかったよ」


 奥城さんはにこにこ笑っている。奥城さんは普段おとなしいのに、この実験の時だけは

やけに生き生きとしている。でも、それは私も同じだ。


 そうこうしているうちにもう残り時間が1分を切る。


「もうすぐだね。本番通り私が投げるから、奥城さんは離れて待ってて」


「了解」


 奥城さんが離れる。さあ、ここからは私の仕事だ。タイマーが残り十秒を切り、私は構え る。


「3、2、1……」


 タイマーがゼロになった。その瞬間私は扉を開けて、パイナップルをしっかりと掴み、思い切り放り投げる。投げられたパイナップルは空中で、大きな音を立てて爆発した。


「パァン!」という脳髄まで響く大きな破裂音と 衝撃波、それとほのかにあまり香りを残して。


「よし、問題なし。明日もこれで行こう」


 実験は成功した。後はこれと同じことを明日学校でやるだけだ。


 実験後、後片付けをしてからも、私たちはまだ地下室にいた。


「完成だね」


「はい」


「成功、間違いなしだよね」


「そうですね」


 奥城さんはなんだか寂しそうだ。なんとなくその気持ちは分かる。あらためて、地下室

を見回した。ずいぶん長い間この地下室にこもっていた気がするけど、実際はたった三日 くらいのことだった。爆発させて喜んで、しなかったら落ち込んで、暴発させてびっくり した。今まで体験したことないような濃い三日間だったな。


「ねえ、実験は終わったけどさ、しばらくここにいていい?」


「もちろんいいですよ」


 地下室ではもう爆発音はしないけど、まだパイナップルの香りが残っている。


「明日、頑張ろうね」


「うん」


 明日はいよいよ本番だ。この一週間の集大成を見せる時が来たのだ。

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