第6話 旅はつづくよ、どこまでも
「いざ、勝負。ウサの全力どうぞ」
ウサは思いっきり
魔族はとっさに飛んで、それを回避することができました。
ウサのブラッククレセントの刃は、激しく地面にめり込んでいます。
「逃げるな。ウサ、勝負と言った。
だめでしょ、メっ」
ウサはブラッククレセントを持ち上げると、魔族に刃をむけて、文句をいいました。
魔族は胸をなでおろしていたのをすぐさまやめて、平静な素振りでウサに言いました。
「ばかかっ。勝つのはこっちだっ。逃げたわけじゃねぇっ!
体勢を整えたんだっ! 黒ウサギ、てめぇはやべぇっ、絶対にここで始末するっ」
魔族は三つ矛をかまえて、ウサに向かって突撃しました。
が、ウサは素早く飛び跳ねて、魔族の腹に重い蹴りをぶちこみました。
魔族は弾丸のごとく、すっ飛んでゆきます。
そして大きな大木に全身でぶつかり、ぐっと止まりました。
「げほげほ…っ。
なんだ、あいつ。なんなんだ、このパワーはよっ」
魔族は切れた口の中の血を”ぺっ”と吐き出して、「クソったれっ!」と叫びながらウサへと突っ込んでゆきます。
ウサはそれをひょいと軽やかにかわして、持っていたブラッククレセントをくるくる器用に回しました。
標的を失った魔族は、勢いそのままに、メェが眠りこけるテーブルへと派手にぶつかりました。
その反動でメェとシルバートォクは、村長さんの隠れる木の根元まですっ飛ばされてしまいました。
しかし、ふたりとも眠ったままです。
メェの寝顔はとても幸せそうで、可愛いままでした。
シルバートォクもいつのまにやら深い睡眠に入いったのか、口はぴくりとも動きませんでした。
村長さんは、メェたちを保護すると、すぐさま木の陰に隠しました。
魔族は、テーブルや椅子ごとすっ転がって、みっともない体勢で、驚き顔のままウサを見つめています。
そんな魔族に、ウサはジト目のまま、無表情で、ずんずんと、魔族に近づいてゆきました。両手に握るブラッククレセントは大きく振りかぶられ、いつでも振り落とせる状態です。
魔族は放心状態のまま、迫りくるウサを、ただただ黙って眺めています。
彼は、あまりのことに、思考が止まってしまったままでした。
「あいやー。これは困ったぞい。
殺し合いをしてはいけないという三族同盟に反してしまうわい。
ウサがあの魔族を
いやいや、ウサが返り討ちで魔族に
現場になった村もお咎めされてしまうぞいっ。
こりゃ、困ったわい。
あぁ、メェや、メェ、ふたりをなんとか止めることはできんかのぉっっ」
村長さんは、寝ているメェをたくさんゆすり、起こそうと努めました。
メェは”眠たいのに…”とぐずりながらも、それに答えて目を覚ましました。
少しねぼけ気味ですが、そこがまた可愛いです。
「おぉメェ、すまないのぉ。なんとかウサたちを止めてはくれぬか?
どちからが命でも落としたものなら…村が国につぶされてしまうぞい」
「…んんん、ウサ、殺さない。ウサ、殺すことできない。
ウサの持つブラッククレセントは、魔物の魂が狩れるだけ。
あの刃はそれしか切れない。メェ、シルバートォクに教えてもらって、それを知っている。
だから、ウサ、殺しはしないが、あれでとにかくぶっ叩く。
そんだけ、安心しろ。
叩くだけなら、ウサ、メェより力弱い。
だけどすごくいっぱい早く叩くから、痛くてウザい。ウサだけにウザい」
メェは小さなお口であくびをしました。小さな歯に小さな下ベロが見えて、すこぶりぃぃ~可愛いです。
メェにそう言われて、村長さんは不思議そうな顔のまま、ウサたちを見ました。
魔族はめっちゃくちゃウサにブラッククレセントで叩かれています。
とても激しく早く、ただひたすら叩かれています。
かなり涙目です。
「ぁ、あああ…
いや、メェ、それでも止めてくれんかい?
やつが死ななくとも、止めぬワシらが恨みをかって永遠に村へと嫌がらせされてしまうぞい。魔族の恐ろしさは、そのねちっこさなんじゃからのぉおおっ」
村長さんは土下座して、メェに一生懸命お願いをしました。なんだったら、メェの可愛い足にすがる勢いでしたが、メェに「ばっちいのは触っちゃダメ」と言われてしまい――、今はかなりしょぼくれています。
「メェ、めんどくさいの嫌い。でも、村に恩できた。
ミミのお菓子美味しかった。メェ、ウサたちの勝負に決着つける」
メェはシルバートォクを握ると、呪文を唱えました。
「カキクケ凍レ、四角ク凍レ♪」
メェが”ほい”とシルバートォクを振ると、無理やり大口を開けさせられたシルバートォクから、四角い氷の塊がどんどこ飛んでゆきました。
そしてそれはウサに叩かれ続けている魔族を囲って、彼の頭だけ残して、体をキンキンに凍らせてしまいました。
「じゃ、メェ、また寝る」
メェは木に寄りかかると、そのまますやすやと眠ってしまいました。
メェに抱かれたシルバートォクが文字にできないほどの暴言を吐いていますが、村長さんはそれを無視して、可愛らしい寝顔のメェに「感謝感謝」と手を合わせました。
「おのれ…小動物が…っ、こんなことしやがってっ。
すげー痛てぇじゃねぇっかっ。そもそもそっちが畑荒らして逃げたんだろうがっ。
謝れっ謝れってっ! そして喰った分の金払えよぉおおっ!」
魔族は凍った体のまま、ウサに涙目で訴えていました。頭にはたくさんの小さなたんこぶができてしまっています。
そんな彼を、ウサは仁王立ちのジト目で、見下ろしました。
「ウサたち、ちゃんと畑のカカシの服にお金入れた。金額250G入れた。
ちゃっと払ったのに、追いかけてきた。むしろお前が悪い。
ウサたち、亜人。魔族と人間族に手をださない約束。
それ守って、追いかけてきたから逃げた。でもウサのごはんダメにした。
ゆるせない。だから約束やぶって叩いた。ウサ、悪くない。
ウサ、激おこプンプン中っ」
「がっーっ、だれがカカシの服に入れた金に気がつくかよっ!
まったく、なんなんだよ…追いかけ損の、殴られ損じゃねぇか…
しかも今は固まり損だ…、まじに泣けてきたぜ…とほほ」
ウサはブラッククレセントで、魔族の頭を今一度コツンと叩いた。
「ごはんダメにした、謝れ。
ごめんなさい、しろ」
「…うっうううっ悪かったよ、勘違いだ。ゆるせよ」
魔族は、泣き顔で、深いため息まじりの謝罪をウサにしました。
「ゆるす。
もう追いかけてくるな。村にもくるな。
どっちも迷惑。
よろしく、お願いします」
ウサは、ぺこりと凍ったままの魔族におじぎをしました。
そのしぐさは今日いちで可愛らしいです。
魔族はやらやれと首を振りました。
ウサは、ブラッククレセントの刃を柄にしまうと大鎌杖を持ち直して、木に隠れている村長さんのもとへとゆきました。
「魔族、反省した。ウサも、ちょっぴと反省した。
村長さん、あの魔族の氷溶かして。ウサ、めんどくさい。お願いします」
ウサは大鎌杖で、凍って転がる魔族を
村長さんはうなずいて、奥さんに空いた酒樽にお湯を沸かすよう指示をしました。
隠れていた村人たちもみな出てきて、手伝いはじめました。
やがて魔族は風呂樽の中で自由になり、湯の心地よさにおもわず唸り声をあげて、幸せそう顔をしました。
「人間、これはなんだ? この樽の湯はなんなんだ?」
「それは風呂というものじゃぞい。気持ち良かろうて」
”ほほほ”と笑う村長さんに、魔族は上機嫌で答えました。
「あぁ気持ちがイイ。帰ったらみんなに教えてやることにするぜ」
空には大きな月が昇り、広場を明るく照らしています。
村人たちは終わったはずの宴会をまた再開しだしました。
もうオークの肉料理はありませんが、飲めや歌えの大騒ぎです。
「今夜はオールで朝までGoGo~じゃぞい♫」
村長さんがジョッキ片手に高らかに宣言しました。
村人たちも大賛成です。
魔族はいつのまにやら樽風呂につかりながら、鼻歌を始めていました。
そんな中で、ミミだけが気がつきました。もうウサとメェが村に居ないことに。
「あぁぁ、いっちゃったのかなぁ…? もっとメェを”もふもふ”したかったなぁ…」
ミミは月を見上げて、可愛い亜人たちを想いました。
※ ※ ※ ※
「ウサ、どこにいく? メェは目が覚めた。すごく歩ける」
「ウサも、わりと食べたから、元気。メェ、シルバートォクに次の村まで案内させろ。お願いします」
「ガッ、ワレハナビデハナイワッ! ワレコソハ、王家ニ…」
ウサが可愛らしく”えいっ”と、シルバートォクにパンチをしました。
メェはウサに「メっ」と言いました。
シルバートォクは”ガクガク”と口を鳴らして怯え震えています。
大きな月が3人の影を道に落としました。
それはゆらゆらゆれて楽し気です。
可愛らしい3人の旅は、まだまだはじまったばかりです。
はぷにんぐあにまるず♫ マァーヤ @maxarya
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