第213話 新しい物語を
その後、タイムリープは謎ばかりであることが分かってきた。
まず、過去改変を許される範囲が分からない。どこかに制限があると思うのだが現時点では手がかりすらない状況だ。必ず別の世界へ移るのかどうかも定かではない。場合によっては別世界に移らなくて済む可能性もある。
そもそも、今回『過去改変があった』と認識できたのは神界の記憶管理領域にタイムリープの時に使った『分身の記憶』が残っていたからだった。それも、複数名の記憶が一致したので事実だと確認できたのだ。もし、一名がタイムリープしただけだったなら気づかなかった可能性がある。それこそデジャブで終わっていた可能性があるわけだ。そう考えると、「人知れず世界が変わっている」ということもあるのかも知れない。ちょっと怖い話ではある。
こうして、出来たばかりの時空管理局だが予想以上に大変な仕事に発展しそうな気配だ。これを見越しての第一神様の要請だったのだろうか?
とりあえず、時空管理については惑星フォトスで一元管理することにした。神界の機関とはいえ地上界を監視するので当然地上に置く必要がある。だが、さすがに神界の機関を惑星モトスに置くわけにはいかない。ここ惑星フォトスでも微妙だが、これ以上の場所は見当たらない。
何故だかリゾートの隣になってしまったが、これは御愛嬌だ。まぁ、時空管理局の仕事は大変なものになりそうだし近くに心身を癒せる場所があるのは、むしろ好都合というものだろう。今後、隊員を募集するにも誘い易いしな。
* * *
リゾートのことはともかく、女神カリスと女神キリスに依頼していた『タイムリープ監視装置』が完成した。これで時空管理局としての活動を開始することができる。早速、タイムリープ室の隣に監視室を用意した。
「基本は、鏡像現象の検出になります。この頭部メッセージ誘導検出器で捉えることになります」女神カリスは、そう言って手に持ったヘルメットのようなものを見せた。
うん、どう見ても戦隊もののヘルメットだなと、どうでもいいことを考えている俺。
「検出のときに余計なことを考えては誤動作しますので、タイムリープの時のように軽い睡眠状態にします。このため、監視室でも仮眠カプセルを使います」
「なるほど」
この仮眠カプセルは、タイムリープ室にあるものと同じだ。寝返りをうてる大きめのケースカバーが付いていて、このカバーはスイッチひとつで透明にもなる遮光スクリーンでできている。好みにより透明度を自由にセットできる優れものだ。さらに活動中は、防御フィールドを展開して安全である。
「鏡像現象自体は誰でも発生しますので、検出のための要員は神でも使徒でも、さらには人間でも構いません」と女神カリス。
「ほぉ。人間でもいいのか」
「はい。このため、機能拡張ではなく通常の飛翔スーツに似た監視スーツも用意しました」と女神カリス。
「ほぉ。それはいいね」
これも、椎名美鈴のデザインと思われるスーツが置かれていた。変身スーツとは色違いになっている。
「要員の選定は、検出能力だけを基準に選べばいいかと思います」と女神カリス。
「うん? 検出能力?」
「はい。鏡像現象を受け取りやすい人とそうでない人はいるようです」
「ほう。デジャブが起こりやすい人ってことか」
「そうなりますね」と女神カリス。
「となると、監視要員には選別が必要だな。うん。じゃ大丈夫かな?」
「なにがです?」不思議そうな顔をする女神カリス。
「これ絶対、希望者が殺到するからさ、お断りする理由が必要だ」
「そ、そうなんですか?」女神カリスはぴんと来ていないようだ。
「うん、そうだね」女神キリスには分かるようだ。
「あと、人間の場合は時間制限が付くだろうな」
「それはそうですね。長くても、通常の睡眠程度でしょう」と女神カリス。
「シフトが必要かもね」と女神キリス。
「確かに」
それでも、タイムリープ自体とは違う。短時間の監視も可能なので運用は容易だろう。
* * *
「で、なんで募集して無いのに、応募者が殺到してるのかな?」
「何故かしら?」
「何故でしょうか?」
「何故なのだ?」
「なんだかリュウジ怖い!」なんだそれ!
絶対バラしたのはこの方たちだよね?
「はいはい。で、希望者はみんな担当神か使徒なんだな?」
「そうね、分身体が作れないから監視隊に入りたい訳ね」とアリス。
「まぁ、そうだけど。あ~じゃ、神と使徒の場合のスーツは機能拡張だけでいいかな」
「そうね」
神と使徒の監視スーツは、機能拡張のみとなった。っていうか、絶対スーツ狙ってるよな。
まぁ、当分ここ惑星フォトスに人間はあまり来ないから、人間用スーツは不要かも知れない。そのうち空きが出来たとき人間にも割り振ればいいだろう。まぁ、空きは出来ないかも知れないが。
それに、そもそも現時点では監視対象が無い。つまり、当面は暇な筈なので募集するとしても少数になるだろう。
まぁ、俺たちの話を聞いて、独自に実験する奴がいなければだが。
ちなみに、この監視装置で検出出来るのは、あくまでも俺達が開発したタイムリープだけだ。他の方法があっても検出しようがない。自分たちで開発した物だから監視するという訳だ。
* * *
その後、実際に鏡像現象の感受性試験をしてみて分かったのだが、神様や使徒以上に妖精族が優秀だった。たまたま、ミリィがふざけてヘルメットに隠れた時に発見された。
理由は不明だ。だが、惑星フォトスに移住が始まった妖精族の仕事としては、いいかも知れない。まぁ、惑星フォトスだとラームも急成長するし、メッセージ誘導の感受性だけでなく妖精族の能力が倍増するようなので、やはり環境に適性があるんだろう。急遽、妖精族用監視スーツを作ることにした。
もしかすると、ここに居れば妖精族はかつての繁栄を取り戻せるのか?
それから、惑星フォトスの時空管理局の設立は大陸連絡評議会にも通告した。神界のミッションしか実行しないが、既に一部は知られているからだ。ただし、評議会内で極秘扱いではある。
こうして、時空管理局は神界の機関として順調に活動を開始したのだった。
* * *
「ねぇ、リュウジ」
「なんだい、アリス」
「ここからの眺めって、まるで宇宙にいるみたいじゃない?」
「ほんとだな」
ここ惑星フォトス王城の広い女神湯からは、蛍のように光る海を眺めることが出来た。そして、それは宇宙空間で見た星の海を思い起こさせた。
「まさに、時空管理局のある場所に相応しい眺めね」
「ああ、そうかも」
「リュウジは、このまま時空神になるの?」
「どうだろう? まぁ、俺のライフワークみたいなもんだからな」
「ふうん。ってことは、この二千年って黎明期だったのかもね?」
アリスが面白いことを言い出した。
「黎明期? この二千年が?」
「そうよ」
どうなんだろう? 確かに今までは時空管理なんてなかったし、これから始まるのだから、そうなのかも知れない。
黎明期を終えて、これから惑星フォトスは神界の出島的な存在として発展していくんだろうか。
俺は、昔のストーン神国構想を思い出していた。
いっぽう、女神湯の反対側では。
「ねぇ、あそこで黄昏てる約二名は何なの?」とエリス様。
惑星フォトスの女神湯展望コーナーの俺達を見て言う。
「きっとリラの事を思い出してるのよ」
「それなら、我も同じなのである」
「そう。私たちの子孫もいるし」
「あら、いいわね。やっぱり私も頑張ってみようかしら?」
イリス様の子孫は、あの星には居ない。
「そうなのだ。女神隊で、この惑星フォトスを神の国にするのだ」
ウリス様が怪しいことを言い出した。
ぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっ
「いいですね!」
「私も、参加します」
「ワタシも!」
「もちろん、私も参加するもんね!」
「ふふふ。私が教育してあげます」
「わ、わたしも便乗しちゃおう」
「ふふふ。乾杯する日が待ち遠しいわね」
「私、ちょっと埋もれてる気がするのよね。発掘してもらわなくちゃ!」
「ボクも混じっちゃおう!」
「ふふ。この指輪は返しません!」
なに~っ?
まぁ、女神たちの思惑はともかく、これから新しい物語が始まろうとしているのかも知れない。
それは人に語られることのない月の神話として。
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