第194話 タイムパトロール隊?

 タイムリープの研究を通じて実用性と共に危険性が次第に明らかになって来た。


 かといって俺達が研究を止めれば万事解決というわけでは無い。すでに、タイムリープ事件は知られている。出来ることが知られた以上使おうとするものである。俺達が研究を止めれば、別の誰かが進めてしまう。むしろ研究から手を引いて技術的に遅れてしまうことのほうが危険だとも言える。後手に回ってしまうからだ。


 さらに、タイムリープ技術の開発以外にも研究すべきことがある。タイムリープの利用状況を管理する技術だ。管理と言うより監視と言うべきか。タイムリープが世界のどこかで実行されたか監視する必要があるだろう。過去改変に繋がるからだ。


「タイムリープを検出ですか?」

「すみません、いつも難題を持って来て」

「とんでもないです! 大好きです!」

 女神カリスにそんなキラキラした目で言われたら、勘違いしちゃいます!


「どうして、そう楽しいことを思い付くんでしょう?」

 どうして楽しいと思えるんでしょう? いや、ちょっとは面白いと思ってるけどね。

「実は、俺の元居た世界にタイムパトロールという概念がありまして」

「タイムパトロール!」

 あ、なんか、ツボに入った気がする。

「要するに、タイムマシンとか今度のタイムリープとかで悪さを働く人を取り締まるヒーローなんです」

「はい。分かります!」

 分かるんだ。

「ただ、今回のタイムリープに関しては神様や使徒限定の能力なので、現状あまり必要無いかも知れません」

「はい、そうですよね。その通りです。ですが、神界だからと言って管理しなくていいわけではありません。知らずに間違って実行してしまうこともありますからね?」と女神カリス。

「そうですね。さすがに間違うアホな神様はいないと……ああ、いるかもしれませんね」

「ちょっ、私の顔を見て言わないでください!」

 女神コリスがすかさず突っ込みを入れるが、面倒なので、ほっとこう。最近、会議というわけでもないのに俺の部屋に女神様がいることが多い。


「ただ、神界と言えど利害関係というものは存在していて、利害が相反するとすれば、やっかいなことになります」

「当然ですよね」

「そうすると、ルールを決めて管理することになります。そこで、ルール通り運用されているか監視するのがタイムパトロールです。ですが、そもそもタイムリープを検出出来ないと話になりません。タイムパトロールにはタイムリープ検出技術が絶対必要なんです」

「はい! そうですね!」

 近い近い近い。女神カリスは研究の話になると我を忘れるな。

「とっても面白いテーマです!」

 もしかすると、また女神カリスの分身体が生まれた瞬間かも知れない。


「それ、私も参加していいでしょうか?」と女神キリス。神魔道具の女神様が参加してくれるのはありがたい。

「いいですね! 一緒にやりましょう!」と女神カリス。

「はい、ぜひお願いします」と女神キリス。


 これは頼もしい。タイムパトロール隊本部にセットされた機器がピピーッとタイムリープ警報を出し、次々と隊員が出動する! なんて世界がもうすぐかも知れない。


 未来視に続いて過去視についても、とりあえず技術的には確立できそうとのこと。後は機能向上をしていくことになる。タイムリープ監視も、女神カリスは目途が立っているようだ。そうなると、タイムリープ監視要員が必要になるだろうな。当然、組織化することになる。

 あ、これ技術的に完成したら第一神様に相談しよう。恐らくこれは神界の機関にすべきだろうからな。


 一方、部屋の片隅では。

「タイムパトロール隊のユニフォームどうしようかしら?」

「美鈴殿、タイムパトロール隊誕生の暁には、是非七人の侍女隊の推挙をお願いいたします」

「私たち三従者隊もね!」

 ミゼールもヒラクも気が早い。まぁ、指令がああだからな。


「美鈴はともかく、侍女隊や従者隊は甘いわね」イリス様の鋭い突っ込みが入った。

「そうなのだ、そもそも長い年月生きていなければ出来ない仕事なのだ!」とウリス様。

「そう。これは女神の仕事」とエリス様。

「やった! 私にも出来る!」と女神コリス。

「コリスはまだ、神になったの最近じゃない。私は完璧よ」と女神ケリス。

「ケリスさんは、惑星フォトスの仕事があるじゃないですか。ここは酒の女神で出番の少ない私にぴったりな仕事だと思うのよね」と女神サリス。

「いいえ、結局は歴史に関係すると思うの。ここは是非とも考古学の女神に任せてほしい!」と女神シリス。彼女の熱意は分かるが、ちょっと勘違いしてるかも知れない。歴史の一場面が見れるといっても、自分がいる世界だぞ? そこのところ勘違いしてないよな?


 実際にタイムリープするなら、事件の発生した時代に自分が神として存在していなければならない。もちろん使徒でも構わないが。


 しかし、まだ可能性だけなのに、早くもタイムパトロール隊を結成しそうな勢いだ。


  *  *  *


 タイムリープについて、俺は女神カリスと実用化に向けてさらに議論していた。


「タイムリープして、過去へ飛べたとしても、過去の自分を犠牲にする必要があります。過去の自分を乗っ取るわけですから。これは非常に危険です。飛んだ時の危険性もありますが、去った後も影響が残ります」

 女神カリスが最大の問題点を指摘する。それが、タイムリープ特有のリスクだからな。


「やっぱりそうですよね。それで神としての行動が変化してしまったら、世界の危機にもなりかねません」

「そういうことです」

「となるとパトロール隊員は、世界への影響が少ない使徒のほうがいいわけですね」

「そうなんですが、パトロール隊専属にできるような余分な使徒などいないでしょう」

 確かに、余分な使徒など用意してるわけないよな。

「そうですね。新しい使徒だと時間をさかのぼれないから使えませんしね」

「ええ、長い間いる使徒というのは役割も重要だったりしますしね」

「ですよね。ううん。あっ」ちょっと思いついた。


ー 女神隊集合。

ぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽっ


「ぎゃ、アリス見てたのか」

「ぎゃって何よ。さっきから居たわよ」

 またもや俺の部屋に女神隊全員集合。さすがに、嫁達はそれどころではないようだ。

「うわっ、やっぱ狭っ。早く神力リンク暗号化出来ないかな」

「もう少しです」

 女神キリスが教えてくれた。おお、もう少しなのか。流石だ!


「で、何?」

「急かすなよアリス。いや、ダメかも。今は第二神だけど、過去の自分は第二神じゃないからな」

「何のことです?」女神カリスが怪訝そうに言う。


「今と過去では神格が違ったりするでしょ? とすると機能拡張で出来ることが違ってきますよね?」

「ああ、はい。そうですね。ですが、鏡像現象で神格もコピーされるので、タイムリープ中の機能拡張は今と同じ権限で実行できます」

「そうか! 今の神格を持ってタイムリープするのか! じゃ、いけるかな?」

「なになに? もったいぶってないで教えてよ」とアリス。


「いや、まだ思い付いただけだけど」

「はい、どうぞ」

 なんだろう、もうちょっと伸ばして、わくわくしてるアリスの顔を見ていたい衝動に駆られる俺。

「今のタイムリープで最大の課題というと……」

「うんうん」

「タイムリープした先で、自分自身を乗っ取ってしまうということだ」

「そうね。それがタイムリープだもんね。ちゃんと勉強したわよ」何それ、まさかタイムパトロール隊員になる気なのか?

「うんそう。分かってるじゃん」

「自分を乗っ取るのは避けられないから、素早く帰って来なくちゃいけないんでしょ?」

「うん。でも、そんなことでは実用に耐えないと思う。話としては面白いけど、自分の思い出というか歴史が変化してしまうんだからな。かなり危険だ。おまけに短い時間じゃ出来ることは少ない。俺がやった記憶回収とかで精一杯だ」

「そうよね」

「そこでだ」

「うん」

「タイムリープしたら、分身を作ればいいんじゃないか?」

「きゃ~~~~~~っ」とアリス。

「ああ、出来ますね!」と女神カリス。

「それよ~~っ。なんで気付かなかったの~っ?」とアリス。

「それだわ!」とイリス様。

「それしかないのである」とウリス様。

「リュウジのそれっ!」

 どれだよ。

「うんうん」と女神オリス。

「そうだね!」と女神キリス。

「いいね!」女神クリス。

「いける!」と女神ケリス。

「いけない……orz」とコリス。

「そうね!」と女神サリス。

「私もやれる!」と女神シリス。

「ふむふむ」と女神スリス。

「了解」と女神セリス。

 約一名、分身を作れない奴が、くず折れてる。


 ということで、タイムパトロール隊になれるのは分身を作れる専門神以上と決定した。タイムパトロール隊、条件が厳しすぎるだろ! ま、そんなに誰でも出来たら大変だけど。

 それにしても、この方式によりタイムリープがますます現実的になって来た。っていうか、人間には無理だよなぁ。

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