第188話 過去からの帰還
その後、俺は未来へと帰った。
正確には、過去の俺は未来のことを忘れて「女神イリス様と仲良し四人組」として生きたわけだ。その記憶も神界記憶管理領域に保存されていたので、記憶を回収した時点で全て思い出した。
「ほんと、戻って来て良かったわよ。一時はどうなるかと思った」
東宮の談話室でニーナが半ば呆れて言った。
「ああ、ごめんな心配かけて」
「ホントよ。でも、リュウジの事だからね。心配したって程でもないかな?」
「どっちだよ」
「どっちだろ?」
ニーナ自身、分からないようだ。
「リュウジ~。それより、昔の話聞きたいよ」
ミルルは、完全におとぎ話を催促する子供状態だ。
「ホントに、人間のアリス様に会ったのですか?」
これは興味津々のセシルだ。
「それは、本当よ。言ってなかったけど」とアリス。
「うむ。言うと混乱しそうだから、黙っていたのだ」したり顔のウリス様。
「どう? リュウジ怖いでしょ?」エリス様も?
どうなんだろ? 俺が過去に行く前は、ほんとに知らなかった気がする。俺が過去に行ってから改変が起こったんじゃないかな? もちろん、俺の記憶にも未来から来た俺が鮮明に残っている。
「確かに、タイムリープ前に教えられてたら違った行動取りそう。っていうか、未来から飛ばないときでも、四人は出会ってたのかな?」
「どうかしら? 未来から来たっていう記憶しかないから分からないわね」とアリス。
「そうなのだ」とウリス様。
ウリス様なら運命を知ってそうだが?
「そうね」とエリス様。
「ほんとかなぁ? タイムリープする前は違う歴史だったかもよ?」
「そんなこと無いわよ。みんなで話したもの」とアリス。
「そうなんだ。じゃ、既にそういう歴史だったのか?」
俺は女神カリスを見た。
「どうでしょうね。でも、ちょっと怖いですね。今回のタイムリープでは大きな影響はないようですが」
女神カリスさんは、変わったと考えているようだ。
「未来じゃなくて異世界から来たって言う違いだけで、あとは殆ど同じなのかもな」
「そうですね」と女神カリス。
まぁ、その辺は検証するのは難しいだろうな。
「そう言えば、王女アリスは可愛かったよ」
「まっ!」
さすがに、アリスは恥ずかしそうにしている。
「きゃ~、アリス様の少女時代に会ってみたい!」とニーナ。
「あ、前世とかでその時代に生きてたらタイムリープで行けなくもないよ。行ったままになるけど」
人間だからな。俺と同じになる。
「それ、なんか怖いんだけど」
うん、怖いのはニーナだけじゃない。
「まぁ、後から思い出が変わるわけだしな。やり直しだから」
「そこが、信じられませんわね」とセレーネ。
「本当ですわ、ねぇ様」とアルテミス。
「うむ。あり得んのじゃ。美味しいケーキを二度味わえるのじゃ!」とリリー。
そう来たか。そう考えると『あの思い出をもう一度』と考える奴は沢山いそうだな。
「しかし、マスターは相変わらず我らの予想を遥かに裏切るのだな」とミゼール。
「そうね。今回は、不可抗力とも言えるけど」と美鈴。
嫁達は全員も頷いている。
「いや、本当は誰にも気づかれずに記憶だけを回収する予定だったんだ」
「すみません。まさか、使徒になる前にタイムリープしてしまうとは思いませんでした」と女神カリス。
「仕方ないよ、精密な時刻に飛ぶのが難しいんだから。今回は記憶を取り戻すために極限まで遡ったしな」
「ええ、でもこれで改善できます。もう少し容易に飛べるようにしたいですね」
「そうだな。多少過去改変にもなるけど、ちょっと確率が変わる程度で問題無いみたいだし。結構使えるかもな」
まぁ、大きなことは出来ないんだろうけど。
「ええ、そうですね。ただ、使えるというだけで、たぶん神界で騒がれると思います」と女神カリス。
「あっ」
「「「「あっ」」」」
「またやったのね」
って、ニーナ。その言い方はどうかと思うぞ。
「やっちゃったわよ。既に、問合せが……」とアリス。
「やっちゃったわね」とイリス様。
「やっちゃったのである」とウリス様。
「リュウジ、やっちゃった」とエリス様。
「なんだよそれっ」
とりあえず、アリス。ご苦労様。
* * *
で、女神カリス様の予想通り、その後神界で凄く話題になっていた。
それも、その筈。なにやら最近、竜神速報というのが神界で流行ってるとのこと。といっても報道機関があるわけでは無い。神力フォンを使って記録して、後で俺の情報を配信するんだとか。
これで、忙しい神様も安心! 話題沸騰! 竜神オンデマンドだ。バラエティーかよ。
つまり今、神界では情報革命が進んでいるのだ。
組織の構造としては縦割りのままなのだが、ニュース配信のようなものが始まっている。おまけに、惑星フォトス・リゾートの完成で、ここが情報交換の場になりつつあるようだ。
おかげで、あっという間に俺のタイムリープ事件が知れ渡ってしまった。
いっぽう、談話室の片隅では。
「わたし、最近、リュウジ様の話を普通に聞けるようになってきましたわ。大丈夫かしら?」とセレーネ。
「ねぇ様、私もです。ちょっと怖い気もします」当然アルテミスだ。
「わらわは、初めから人の話は聞かないのじゃ」おい。
「確かに、もう麻痺を通り越しているわよね!」と美鈴。
「美鈴殿もそう思われますか。我も同意!」
何故か同士のように言うミゼール。
「そうよね。そういえば、私の兄も随分変わったと思いました」とシュリ。
ナエル王も大分慣れたと思う。
「わたくしも父上の驚きようを見ていて気付きました。もう以前とは違います」とミリス。
「ミリスはそうかもね。わたしのおじい様は、意外と柔軟性があってびっくり」とパメラ。
「パメラのおじい様、凄いですの」とクレオ。
「それを言うなら、クレオの兄上のほうが凄いでしょ。マスターと御友達ですもの」とミリス。
「そうなんだよね。ああでも、うちのオヤジもミリスのオヤジさんと一緒に魔法免許取るそうだから、ちょっと期待してる」とスノウ。
そう、惑星フォトス・リゾート見学会から帰ったワレスト王とノミナス王だが、最近魔法免許を取得に来たのだ。
ただ、まだ朗報は聞いていない。
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