第182話 イリス様に呼ばれた

 何十回かのタイムリープが完了して、目の前が明るくなった。

 やはり、意識ははっきりしていない。タイムリープ中は、ずっとこんな感じだった。これは、改良の余地があると思った。短期記憶を確認する余裕もない。

 次第に意識がはっきりして来た。今回は、ちょっと長めだなと思った。でも、すぐに過去に飛ぶだろうと待っていたが、何も起こらなかった。

 機能拡張に問題があったんだろうか?


 目の前には、輝くように美しい女神様がいた。

 ああ、この美しい女神様と話してみたいなぁ。もう少し時間があればなぁと思う。


「初めまして。私は女神「;あlsdf」。あなたをこの世界に召喚した、この世界の主神……」

「イリス様!」

「えっ?」

「あっ、声掛けちゃった」過去には干渉しないようにしてたのに。不味い!

「はい、イリスとも言われていましたが、何故あなたがその名前を?」

「あれっ?」

「どうかしましたか?」


 タイムリープ中に、会話をすることなど想定していなかった。こういう場合どうすればいいんだ? 何かが起こったことは分かるが、何が起こったのかは分からない。しばらく、俺は会話出来なかった。


「おかしいな。なんで飛ばないんだろう?」

「いえ、ちゃんと、地球から飛んで来ましたよ?」イリス様は不思議そうに言った。

「地球? ああ、もういいか。実は俺、未来から来ました」タイムリープがうまく機能していないなら、会話するしかないだろう。


「召喚に失敗したのかしら。場所を間違えた?」と言って怪訝な顔で考え込むイリス様。


「えっ? 召喚? 俺を地球から召喚したんですか?」

「えっ? あ、はい。今、そのことを説明しようかと思ったんですけど? 何故だか詳しいですね?」

「はい。だって、未来から来ましたから」

「ミライなんて名前の星あったかしら?」

「いえ、星の名前ではなく将来の未来です」


 どうも、互いの認識に齟齬があるようだ。

 イリス様はしばらく考えていた。


「おかしいわね? あなた、何者ですか?」

「俺、リュウジと言います」

「えっ? 竜神?」


「いえ、リュウジです」

「ああ良かった」

「???」

「それでは、間違えると困るから……そうね、リュウって呼んでいいかしら?」

「あ、はい結構です」なぜか名付けされる俺。ちょっと新鮮だ。


「えっと、豊穣の女神イリス様ですよね?」まずは、確認だ。

「いえいえ、とんでもない。私は、この世界の担当神イリスです」


 うん? ああそうか、二千年前だった!


「専門神になる前ですか!」

「……」って、知らないよな。

「あれ? やばいかな。こんな会話しちゃって」

「あなた、いったい……」


 さすがに、ちょっと混乱しているようだ。俺も混乱しているが。


「おかしい。なんで、機能拡張が動かないんだろう? もしかしてミッション・コンプリートなのか? でも、帰る筈だけど」

「どこへ帰るのですか?」

「もちろん、未来です」

「未来の地球?」

「いいえ。地球では無く、惑星モトスです。その世界から、時間をさかのぼって来ました。ですが、帰れなくなってしまったようです。機能拡張が使えない。神力が無い」


「それはそうでしょう。あなたは人間ですから」とイリス様。確信した表情で言う。


「あっ」

 ヤバイ感じがした。これたぶん、想定外の事態だ。


「嘘を言っているわけではないようですね」

「嘘なんて言ってませんよ。まずったな。機能拡張にバグがあったってことか」

「よく分かりませんが、あなたは未来から……その、何のために来たのですか?」

「それは、記憶を取り戻す為です。記憶管理領域の記憶を消されてしまったので、時代をさかのぼって回収してたんです。それで、ほとんど成功したんですけど。最後に戻る機能にバグがあったようです」


 まだ怪訝な表情で見るイリス様。


「記憶管理領域の記憶……ということは、あなたは使徒または神ということでしょうか?」

「はい。正確には神だった、いや、未来の神かな。だから、今の神リストにはありません」

「そうですか。それで、未来へ戻れないと? それは大変なことでは?」


「ああ、そうですね。未来の俺は困ってるかも」接続が切れたからな。

「それはそうでしょう」

「眠ったままなので」

「それは大変」

 どうだろう? 未来の俺は安全だと思う。


「たぶん、女神カリスがなんとかしてくれるでしょう」

「女神カリスですか?」

「ええ、一緒に研究している女神様です。ああ、そういえば、標準語名聞いてなかったな。神魔科学の女神様です」


「そうですか。今の神界にも神魔科学の女神はおりますが。連絡してみましょうか? 同一神かどうかは分かりませんが、専門は同じですので助けになるでしょう」

「あ、はい。そうですね。出来ればお願いします」


 その後、落ち着いてよく考えてみたのだが、どうも召喚の儀式の最中にタイムリープしてしまったのが、この事態を引き起こした原因のようだった。

 召喚後、使徒になってからなら機能拡張は動いた筈だが、使徒に任命される前の僅かな時間にタイムリープしてしまったので機能拡張が働かなかったわけだ。こんなことがあるんだな!


 ってか、俺って何度も召喚されていたのかよ。しかも、イリス様に呼ばれていたとは! それはそれで、嬉しいことだけど。

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