第181話 過去に向かって飛べ

 神魔科学の女神カリスのタイムリープ機能拡張が完成した。


「やりましたね!」

「はい、やりました!」

「すばらしい。もう、嫁にしたいくらいです!」

「嫁にしてください!」

「まじですか?」

 ちょっと抱きしめていいですか?

「これ、最近の神界のギャグなんですよ」

 あ、危なかった。本当に抱きしめるとこだった。

「ギャグですか。ちょっと、嬉しかったんですけど」

「ふふふっ。そういうギャグです。神界に結婚は無いから」

「なるほど」


 けど、ちょっと神界の雰囲気が変わって来た気がする。もしかしてこれも神化リングのせいなのか?

 見ると、女神カリスが、ちょっと悪戯っぽい表情をしている。まじかよ。けど、女神カリスのこんな表情を見れるのなら、いい影響だよな?


「それで、どんな感じですか?」


 それから、女神カリスからのタイムリープ機能拡張の使い方を教えてもらった。

 方式としては、やはり双方向のメッセージ誘導を使って過去と未来を常時接続する方式だった。

 まずは、初期記憶として短期記憶に入っている情報を記憶表面に埋め込んで送る。これは鏡像メッセージ誘導そのものだ。このとき使う短期記憶は、通常生活で良く使う情報が入っているらしい。つまり、じっくり思い出す訳ではない、サマリー的な記憶だ。これがあれば、まず問題なく機能拡張の配布が出来るだろうとのこと。

 もし、現地でそれ以上の情報が必要になったらメッセージ誘導を使って未来へリクエストを送る。未来の俺から情報を引き出してすぐに過去へ送り返す訳だ。

 最後の問題は、過去の自分を占有する時間だ。


「ほぼ、一秒程度で済む筈です」と女神カリス。

「一秒で、記憶にインデックスを張る機能拡張を埋め込むわけですね」

「はい。埋め込んだらすぐに次の時代へ飛ぶので、殆ど気づかないと思います」

「記憶表面に埋め込んだ初期記憶は残りませんか?」

「過去へ飛んだあとで、初期記憶は消すようにしています」

「おお! 完璧ですね!」


「はい。ホントはもっと短い時間にしたかったんですけど」と女神カリス。

「十分だと思います。ほとんど、デジャブみたいな感じなんでしょう?」

「はい。デジャブと区別できないと思います」

 これなら、過去改変にもならないだろう。


「二千年だと二十回分の二十秒を占有するのかと思ってました」

「それだと、影響が大きかったでしょうね。今回の方式は、すぐに意識を解放します」

「過去へ飛んだあとは、関与しないんですね」

「ええ、あとは普通にメッセージ誘導を中継しますが、それは通常時と同じです」


 安全性も高そうだ。常に、過去の自分の行動を読み出しているので、何かあったとしても詳しい事情を把握できる。


「うん、これなら安心ですね。俺からしたら、ただ夢をみるだけですからね。それも、ちゃんと覚えている夢を」

「はい。そうなると考えています」


 タイムリープと聞くと怖そうだが、これならちょっと楽しそうだ。ついに使えるタイムリープの完成という訳だ!


「よし、早速使ってみるか!」


 もっとも、タイムリープとは言うが実際に行った先で特別な活動するわけでは無い。いや、活動はする。ただし、タイマー起動で自動で機能拡張を配付するだけだ。本当は過去で何かしてみたいところだが、それはまだ危険だろう。それでも将来の夢が広がるな。


「えっ? もう行きますか? 少なくとも、夜のお休みになる時にしたほうがいいのでは?」と女神カリス。

「えっ? そうですか? でも、カリスさんがいるほうがいいですよね?」

「そうですね。それは、当然です」

「だったら、ああ、添い寝してくれるってこと?」まぁ、女神カリスは寝ないんだろうけど。

「えっ? いいんですか?」

「いいですよ? って、添い寝したかった?」

「たまにはいいかと」女神カリスは、ちょっと恥ずかしそうに言った。


 そう言えば最近してなかった。女神湯もそうだけど、意外と奥ゆかしい女神様だな。


「アリス?」


ぽっ

 アリス登場。

「もう、しょうがないわね。私も一緒に添い寝してあげる!」

「アリスの添い寝も久しぶりだな」


ぽっ

 イリス様登場。

「わたしも添い寝しちゃおうかしら」


ぽっ

 ウリス様も登場。

「我も添い寝するのである」


ぽっ

 当然、エリス様も登場。

「リュウジ眠い~っ」


 ということで、今夜は女神たちと寝ることにした。いや、俺はタイムリープして意識は過去へ飛んで起きてるんだけど? まぁ、寝てるのと一緒か。

 嫁達にも話してみたが、それどころじゃないと言われた。ごもっとも。早く帰ってこいとのこと。


  *  *  *


 いよいよタイムリープの時間になった。俺は自室のベッドに横たわっていた。


「ええと」

「どうしたの?」とアリス。

「そろそろ、タイムリープしたいんだけど?」

「了解です」と女神カリス。

「いいわよ」とアリス。

「どうぞ」とイリス様。

「好きにするのだ」とウリス様。

「リュウジ眠い~っ」とエリス様。


 いや、確かに添い寝するとは言ったが。全員俺のベッドに来る必要はないだろ?


「もっとベッドは広く使おうよ」

「もう、つべこべ言ってないで飛びなさい! それとも、この時間を楽しみたいなら、それでもいいわよ?」

「まぁいいか。じゃ、俺は行くぞ」


 仕方なく、俺はタイムリープの機能拡張を起動した。

 すると、ふっと目の前が暗転した。そう言えば、これって召喚にどこか似ている……。


  *  *  *


 気が付くと、そこは神界だった。

 目覚めたばかりのような心もとない感じがする。やや、意識がはっきりしないが問題はないようだ。違和感はない。カチッとタイマーが起動して、さらに過去へ飛んだ。


 次に目覚めたのは森の中だった。

 小さな小屋にいて、目の前にはミリィに似た妖精族がいた。ただ、古風な衣装を着ている。ここはセルー島なのが分かった。

 タイマーが起動して、再び過去へとタイムリープした。


 その次に見えたのは、どうも水の国ナステル王国のようだ。最初に訪れた時のように、一面水ばかりだった。一瞬、誰かの声が聞こえたが何を言っているのか分からなかった。

 タイマーが起動して、俺はさらに過去へと飛んだ。


 それから、何度も走馬灯のように短い時間だけ滞在しつつ過去へ過去へと飛んで行った。

 百年ごとの記憶保存のタイミングを目指してタイムリープを繰り返していく。実際に記憶保存に立ち会う必要は無い。機能拡張を埋め込んで終わりだ。あとは自動的に記憶にインデックスが付けられる筈だ。


 全く覚えのない場所や人も見えたが、アリスやイリス様と話していたり、ストーン神国跡地だったりした。そして、最後は女神スリスと会話している場面だった。


 タイムリープ機能拡張は期待通り機能した。ただし、最後に目覚めた時、機能拡張は正しく働いてくれなかった。

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