第178話 惑星フォトス・リゾート-魔法の星-

 その後、妖精族に限らず魔力ドリンクを飲んだ人間の魔力も増大することが分かった。ただし、ドリンクの持続時間は半分になった。つまり一日で効果が切れる。それだけ、効率的に魔力が生まれると言うことだろう。


「ぬおぉぉぉぉぉ」この雄たけびは、もちろんヒュペリオン王である。いつになく速く飛べる自分に興奮しているようだ。

「おお。これは素晴らしい。こんなに速く飛べるとは!」最近、魔法免許を取得したヒスビス王である。ヒュペリオン王には及ばないものの、こちらも相当な速度で飛んでいる。

 ヒスビス王は魔法学院には通っていないが、学院に通っているヒュペリオン王に迫る速さで飛べている。つまり初級魔法免許で中級近くまで力が強くなっているということになる。


「おお。私も興味が出てきました。私でも魔法免許を取得できるでしょうか?」見上げるワレスト王。

「私も、ちょっとやってみようかと思います」こちらは、一緒に王様たちを見上げているノミナス王だ。

 ワレスト王もノミナス王も、目の前でひゅんひゅん飛ばれて羨ましそうだ。ちょっと前まで戦争していた相手同士なのだが、なぜか気が合うらしい。


「簡単ですよ。ぜひ免許を取得してください。では、私もひとっ飛び」そんなことを言って煽ったまま飛び立つナエル王。

「そうです。こんな楽しいことを放っとく手はありません」とマッセム王子も煽ってから飛び上がる。二人とも、悔しい思いをしたもんな。それに、この惑星だとパワーが増強されるから楽しいようだ。

 制限することも考えたが、リゾート特典でいいかも。ここはそういう星なのだろう。そういう星? 魔法の星?


 美しく光る海と輝く白い砂浜に取り残されたワレスト王とノミナス王は、とりあえずラームカクテルを飲みつつ海辺で飛び回って遊ぶ魔法使い達を見ているしかなかった。そして、帰ったら必ず魔法免許を取得すると心に決めるのであった。

 とはいえ、隣の女神ビーチの女神隊と妖精族のようにはいかないのだが。プロとアマほども違う。

 もちろん、俺は超プロだけど。


  *  *  *


 全て神輝石で出来ているリゾート施設は、やはり非常に驚かれた。


「さすがに神聖アリス教国ですな。いやはや参りました」とボーフェン翁。

 これしか材料が無かったとは言えない。

「いやいや、お恥ずかしい」

「それにしても、すばらしい施設ですな。レストランの食事も素晴らしかった」

「まだまだ、物資が不足していて本格稼働できずに申し訳ありません。さらに良くなっていく予定です」

「それは楽しみですな。また、女神湯もいいですが、この温水プールは最高ですな。流れながら色んな景色を楽しめます」


 温泉プールはボーフェン自治領主のお気に入りのようだ。フロートに寝そべってご機嫌である。確かに夏だとこっちだよね。


 流れる温水プールの他にも、ウォーター〇ライダーなど遊園地の定番もどきを作ってみた。これはルセ島にはない新しい遊びだ。これが、意外と神様に受けていた。特にカップルの神様に。

 神界で雲の中の滑り台とか作ったら面白いのに、何故作らないんだろ?もったいないな。

 ウォータース〇イダーから帰る途中の神様カップルに呼び止められ感謝された。作って正解だったな。ちなみに妖精族用のウォータース〇イダーも作れとせがまれた。これは作るしかあるまい。

 ウォーター〇ライダーはワレスト王とノミナス王も気に入った様子。魔法じゃなくても、魔法のように飛び回れるからか?


  *  *  *


 三日目は神魔動遊覧飛行船を使って遺跡巡りである。遊覧飛行船と言っても、真空膜フィールドを展開する潜水可能な小型飛行船である。妖精族の遺跡の多くは水中にあるので、この神魔動遊覧飛行船が重宝する。

「確かにこれは、古くから伝わる妖精族の伝統的な家です」とサリィ。


 伝統の家が分かるのはセルー島のミリィとその仲間たちだけだ。彼らは、食い入るように見ていた。


「なるほど、これが私たちのご先祖様の家なのですね」七芒星の辺に沿うように建てられた妖精族の住居跡を眺めながら、感慨深そうにイリィ族長が言った。彼らは伝統を忘れたと言うが、俺から見るとあちこちに伝統を残していたように思う。イリィ族長も、そんなものを感じとっているようだった。


 七芒星の頂点にある構造物については、よく分かっていない。調査も未だなので立ち入りは禁止している。


「これほどの転移門。妖精族は、まさに究極の文明を築いていたのですね!」マッセム王子が感嘆の声を上げる。

「まことに。どれほどの努力を積み重ねれば到達できるのか見当も付きませんな」ボーフェン翁も同意した。

 ミリィが思わず胸を張る。妖精族の仲間たちも誇らしそうだ。


「その意味では、我々もうかうかしていられないかも知れませんな」とボーフェン翁。

 そう。高い文明を持っていたとはいえ、惑星規模の災害を克服できなければ、あるのは滅亡だけなのだ。いや、一般論ではなく、実際に惑星モトスの運命かも知れない。

 この時ばかりは、真剣な表情で王達は見つめていた。


  *  *  *


「移住ですか?」

 遺跡巡りから帰ってすぐ、俺はイリィ族長の訪問を受けた。


「はい。この星にいると、私たちは大変活力が湧いてくるのです。すぐに全員とは申しませんが、将来的に移住を考えてもらえないでしょうか?」

 民族で脱出した星ではあるが、今なら戻れるのではと期待しているようだ。五百人程度の移住などわけもない。それが十倍になったとしても恐らく問題ないだろう。


「分かりました。まだ、この星の環境が人間や妖精族にどう影響するかわかっていませんので、永住は少しずつでどうでしょうか? もちろん遊びに来るのは問題ありません」

「わかりました。許可いただけただけで、嬉しく思います」

「そうすると、ラーム農園も作らないといけませんね?」

「はい。そうですね。環境を整えませんと」

「環境作りでは協力できると思います」

「ありがとうございます」


 妖精族は大陸連絡評議会の参加国ではないので、惑星フォトスの開発の会議には出席していない。しかし、俺は妖精族こそこの星で自由を与えられるべきだと思っていた。そこに、この申し出なので断る理由も無い。もしかすると在りし日の繁栄を早く取り戻せるかもしれない。


 ただ、妖精族が貴重な存在であるとの認識を深めている俺としては、妖精族全員を一か所に住まわせる気にはなれないのも確かだ。それでも、全員の希望なら認めるしかないんだけれど。

 その場合、複数の島を考えてもいいかも知れない。セルー島とストーン神国保護区出身者に、それぞれ別の島を割り当ててもいいかも知れない。それに、もう少しすれば海水面も下がり使える陸地も増えるだろう。


 この数日は、俺にとっても各国代表にとっても惑星フォトスのリゾート開発に確かな手応えを感じた見学会だったと思う。もちろん、一番手ごたえを感じたのは妖精族だっただろう。

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