第176話 惑星フォトス・リゾート-オープン-

 神聖アリス教国建国際から半年、いよいよ惑星フォトス・リゾートをオープンする日がやってきた。

 オープンと言っても神様対応が主なので人間向けのツアーなどはまだ実施していない。ただ、今後の人間たちの参入を促すためにも各国に約束した見学会を開催することになった。


「お待たせしました。本日は、惑星フォトスで最初のリゾートであり、神聖アリス教国が世界に誇る、いえ神界に誇るアリス・リゾートアイランドがオープンいたします。この模様は、アリス・リゾートアイランド見学会の宇宙船に同乗した、わたくし達教会シスターズがしっかりとお伝えしていきたいと思います。どうぞ、最後までお楽しみください」


 今日の最初の担当はシスター・ルリだった。何気に「教会シスターズ」を売り込んでるような気もしないでもないが、神界がらみのイベントなので可笑しくもない。

 それはともかく、見学会はリゾートアイランドのオープンイベントとして申し分ないものになった。主なスタッフは以下の通り


惑星フォトス見学会スタッフ

 ツアコン 神聖アリス教国 リュウジ・アリステリアス

 ツアコン補佐 セリス・アリステリアス

 ツアコン補佐 スリス・アリステリアス

 ツアコン補佐 シリス・アリステリアス

 ツアコン補佐 アリス・アリステリアス

 無害化魔法共生菌配布プロジェクト 主任 ネム

 妖精族ツアコン ミリィ

 警備担当 七人の侍女隊、近衛神魔動飛行車隊


 つまり、王様たちは全員見学会のお客様と言うわけだ。ネムは「まだ何があるか分からないので特効薬をもって行く。どうしても参加させろ」と楽しそうに言って来たので入れてあげた。バレバレだけど何時も頑張ってるし連れて行くとしよう。

 警備は無くてもいいのだが、形ばかりの七人の侍女隊と近衛神魔動飛行車隊が担当する。形ばかりというのは、全員遊ぶ気満々だからだ。惑星フォトス調査隊では三従者隊が担当したので今回は交代だ。

 身重の嫁達はもちろん待機となった。映像スクリーンを据えた東宮談話コーナーで三従者隊と一緒に見るという。


  *  *  *


「な、なんと。なんと」

 飛行船がぐんぐんと上昇を始めるのと同時に、ヒスビス国王の「なんと!」が続いている。

「ヒスビス国王、如何ですか?」モニ王国のマッセム王子が余裕の表情で語りかけた。前回は調査隊の副隊長だったし慣れたものだ。

「驚きの連続で、言葉になりません。ビデオは見ていたのですが、やはり実際に見るのは違いますな」と何時もより高い声でヒスビス王が感想を述べる。

「そうでしょう? これが、実体験というものです」とマッセム王子。何故か自慢げ。

「まさしく。このまま星々を渡り歩くことが出来るのでしょうか?」お、ヒスビス国王の鋭い突っ込み。

「そ、それは」元副隊長、急に自信が無くなる。ま、経験者が全てを知っているという訳では無いからな。マッセム王子から余裕の表情が消え、俺に助けを求めるように見てきた。

「流石に無理ですね。今のところ惑星フォトスが限界です」と解説する俺。

「そうなんですか。今のところ?」とヒスビス王。

「必要なら、また考えます」

 ヒスビス王は「ほう」と言って黙り込んだ。外宇宙への旅を想像してるのだろうか? 大したものだな。

 ちなみに、ワレスト・ナミア国王とノミナス・アイデス国王は既に自室に退避している。ちょっと刺激が強すぎたか?

 ヒスビス国王の王妃たちは、これを予見してか初めから自室で子供と戯れている。窓を閉めればどうと言うことは無い。フィスラー妃に死角はない。

 元気なのはナエル・シュゼール王とヒュペリオン・アリステリアス王だ。ヒュペリオン王も最初はピステルのように怖がっていたが、高度が増すに従い落ち着いてきた。


「意外と、余裕じゃのぉ」とヒュペリオン王。

「そうですな。ピステル殿の話ほどではありませんな」とナエル王。

 ピステル、後で二人にいろいろ言われそう。でも、あの時はまだ安全が確保されない探検隊だったからな! 言い訳はできるぞ!


  *  *  *


 二つの惑星の中間点では、恒例のように宇宙遊泳体験をしてもらった。ヒュペリオン王とナエル王が狂喜乱舞したのはいいとして、意外だったのがワレスト王とノミナス王が参加したこと。まぁ、体重はかからないしな。

 また、ここで船内泊することにした。希望者には無重量状態での睡眠も楽しめるようにしているが、みんなちょっと試してからスイッチを切っていたようだ。


  *  *  *


 翌朝早く、宇宙船は目的地リゾートアイランドのある島へ降りて行った。この島はヘプタ転移門の中央の島でもある。


「なるほど。これが惑星フォトスの海ですか。さすがに惑星モトスとは全く違いますな」下降中の展望窓から眺めていたボーフェンが感慨深そうに言った。

 そう。こういう写真にすると分かり難い特徴を、自分の目で発見するのも旅行の楽しみだ。情報は伝わる間に必ず欠落するものだからな。


「ここが私たち妖精族のふるさとですか!」妖精族の族長イリィが展望窓の手すりに縋り付くようにして見つめていた。


「すてきな所ですね」今回、セルー島から参加したミリィの妹サリィが声子掛ける。

「綺麗だよね? 私たちのふるさと」ミリィはちょっと誇らしそうだ。


 今回、希望する妖精族は全員連れてきた。彼らにとって、この星は特別だからな。みんな展望窓に張り付いて眺めている。


  *  *  *


 神魔動宇宙船は、ゆっくりとリゾートアイランド発着場に降りていった。

 ここは飛行船の発着場なので島の高台にあり、海が良く見えた。


「眺めが素晴らしい。しかも、おおっ、風が気持ちいいっ」真っ先に降り立ったマッセム王子が言った。

 季節は惑星モトスの暦で言えば八月だが、高台を涼しい風が気持ちよく吹いていった。ここも北半球で同じように夏だ。緯度的にはルセ島に近いのだが、ルセ島の気候とはちょっと違う気ようだ。まぁ、この惑星の気候はまだはっきりしていない。最初の一年は慎重に過ごす必要があるだろうとは思っている。


「わ~っ、気持ちいね~っ」とミリィ。

「ほんと。素敵~っ」とサリィ。


 妖精族の姉妹が飛び出して喜んでいる。遅れてイリィ族長も飛び出した。どうも、嬉しくて待っていられないようだ。

 ホテルやリゾート施設に案内しようと思ったが、ミリィを先頭にサリィ、イリィ族長と続いて、妖精族のみんなはあっという間に砂浜まで飛んで行ってしまった。あれ? 神化リングをしているミリィはともかく、サリィやイリィ族長もミリィに近いスピードで飛んでいた。あんなに、早く飛べたっけ? 他の妖精族もやっぱり速い。


 俺は気になったので王様たちをリゾートホテルに誘導したあと浜辺に向かうことにした。もちろん、空を飛んで。

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