第154話 夢の三従者隊
ある日、ヒスイとヒラク、スサが真面目な顔でやって来て「H&Hズ」と言うのは止めてほしい、これからは「三従者」と言って欲しいと言ってきた。それ、どっかで聞いたような。
「三従者? いいけど。これからは三人で動くのか?」
「はい。女神隊は無理ですが、私たちも七人の侍女隊の皆さんを目指したいんです」とヒスイ。
もしかして、『従者隊』とか狙ってる? 二人じゃどうにもならないが三人なら何とかなると? 三本の矢か?
「特に、スサは魔法がとても上手なんです。きっと上位魔法使いになれます」
そうなんだ。最年少者頼みなのは、どうかと思うが。
「分かった」
まぁ、侍女隊も最初はアレだったから長い目で見ることにしよう。
「それで。その、『侍女隊の自転車』のようなものがあると嬉しいんですが」
ヒスイが言いにくそうに言う。ああ、確かに、あれからだったな侍女隊。と言ってもなぁ。何かあるか? 魔法は上手なんだよな。
「ううん。あ? 魔法の飛翔装置をヒスイとヒラクは使えたよな?」
「はい。深海探検の時に覚えた魔道具ですね」とヒスイ。
「うんそう。三人専用じゃないけど、三人とも使えるように訓練しておくのはいいと思うけど?」
「そうですね! 空も飛べるし、万能ですね!」
気に入ったのかヒスイは明るい表情で言った。
「うん。魔法が得意な人は、かなり自由に動ける筈だしな。スサ用を追加で用意しよう」
「わぁ~、ありがとうございます!」
よほど嬉しかったのか、きゃぁきゃぁ言いながら帰って行った。
しょうがない、ちょっと機能アップしてやるか。
* * *
ということで、飛翔魔道具の製作を担当したスペルズに話してみた。
「なるほど。七人の侍女隊に対抗して三従者隊ですか」
やっぱ、そうだよな。
「すると天馬一号のようなものを期待されてるわけですね。分かりました! 頑張ります!」
あれ? そうなるか? 気合いが入っているのは、自分でも使いたいんだと思うけど。
「まぁ、いきなり凄いものじゃなくていいだろ。まだ、魔法学院に入学したばかりだし、安全第一で頼む」
「それは、そうですね。了解です!」
まぁ、あの飛翔魔道具も真空膜フィールドを展開しているから超音速を出せないこともない。ただ、フィールドが消えた時に危険だから速度は抑えることにした。
王女様だし。
* * *
こうしてスペルズに飛翔魔道具の改良を依頼したのだが、実のところ忘れていた。
そして、スペルズから連絡が入り、見に行って驚いた。
「この、ヘルメットみたいなの何?」
「へるめっと?」怪訝な顔のスペルズ。
「いや、この頭からかぶるもの」
「ああ、頭部風防ですね」
「ま、名前はいいけど」
「超音速は出ないんですけど、それでも高速なので風防が必要かと思いまして作りました」
「王女様だしな」
「はい。もちろん真空膜フィールドがあれば問題ないんですけど、安全第一ということで予備的なものです」
「な、なるほどな。で、このスーツは?」
「はい、これも安全を考えて作ったものです。水中で真空膜フィールドが亡くなった時に効力を発揮します」
「そ、そうなんだ。これはベルトの風車に風圧をかけて動いたりしないよな?」
「え? 風車ってなんですか?」
「いや、気にするな」
「ただ、スーツの着脱がちょっと面倒でしょうか? まぁ、なくても問題はありませんが」
「いや、これはいいだろう。あ、そうだ誰か服飾デザイナーを頼もう。王女が使うものだからな」
「あ、そうですね。じゃぁ、お願いします」
つまり、なんだかとっても戦隊っぽいものが出来ていた。これ、カラーとか指定しちゃおうか。まぁ、三人だからいいか。全員女性だしなぁ。
* * *
ということで、完成してしまった。
いや、自分で頼んでそれはないな。待ちに待った完成だ。
それで、飛空艇テストコースに来ていた。
「三従者隊、集合」
「「「はーい」」」
侍女隊と比べると、こっちは暢気だな。
「今日は、お前たちが欲しがってた専用の装備を用意した。これだ」
そう言って俺は、専用のハンガーに掛かった飛翔スーツを指差した。
「素敵っ!」
「やった~!」
「きゃぁ~!」
いや、そんなに喜ぶほどの物ではないだろう。
早速、飛翔スーツに群がる三人。でも、使い方が分からない。
「これは、飛翔スーツだ。ユニフォームと一体になっているから、着るとそのまま飛べる」
「すっご~い!」ヒラクは体に合わせながら言った。
「もう、着ていいですか?」スサはもう着替えようとしている。
「ああいいぞ。って、おいっ。ここで着替えるなよ。控え室へ行って着替えろ」
「うふっ。でも、どこでも着替えできないとダメでしょ?」
ヒスイが鋭い突っ込みを入れてくる。
いや、そんな緊急出動させる気はない。最低でも電話ボックスくらい使うもんだ。
「まぁ、それはそうだな。それは何か考えよう。とりあえず、今は控室に行って来い」
「「「はぁ~い」」」
* * *
着替え終わった三人が揃ったところでスーツの説明に入る。
「じゃ、開発者のスペルズからスーツの使い方を説明してもらう。スペルズ頼む」
「了解です」
スペルズは、自分でも試作のスーツを着用している。これは、外見を気にせず機能だけで作ったもので、見た目はかなり違う。
「開発者のスペルズです。これより、新しく開発した魔道具『飛翔スーツ』の説明をします。よく聞いて間違いのないようお願いします。こちらは、解説書です」
最近、スペルズは大人っぽくなって来たなと思う。話し方もしっかりして来たと思う。
スペルズは手書きの解説書を三人に配って説明を始めた。
基本は、飛翔魔道具と同じなのでヒスイとヒラクは気楽なものだ。スサは全て初めてなので真剣な表情で聞いている。時々、ヒスイやヒラクが横から教えていた。
* * *
一通りスペルズの説明が終わり、魔法ドリンクを飲んで実際に飛んでみることになった。
もちろん魔法ドリンクが無くても動作するが、安全のために必須になっている。
開発者のスペルズだが、決して飛翔が上手いというわけではない。ヒスイやヒラクのほうが上手いかも知れない。それを見ながらスサが、おぼつかない様子で真似をする。
なんだが、子供が歩く練習をしているのに似ているなと思いながら見ていたら、スサはあっという間に覚えてしまった。っていうか、もうスペルズより上手い。
「きゃぁ、凄いです~っ」とスサ。
「スサ、そんなスピード出しちゃだめでしょ~!」とヒスイ。
「ほ~ら、追い付いてみて~っ」とヒラク。
「きゃぁぁ。ずる~いっ」
よくわからんが、煽ってる奴がいる模様。基本は飛翔魔道具を使っているようだが、細かいところで自前の魔法を使っているようだ。いつの間にか独自の使い方をしている。
既に、スペルズは「三従者」を勝手に飛ばせて自分は地上で眺めていた。
「神魔モジュールはどのくらい持つの?」
三人を見ながら、俺はスペルズに聞いた。
「標準の神魔モジュール1個で、最大加速を使っても二日は持ちます。残り一時間を切るとアラートが鳴りますし、完全に独立した非常装置も付いています。それに、魔法ドリンクが有効なうちは自分で飛べるので落ちることはないでしょう」
「うん、安全第一だな」
さすがスペルズ! ちゃんと仕事してる。
ふと見ると、グローブの指先からビームを発射した。おいおい。
「あ、あれは?」
「天馬一号にあるのと同じ、小出力のエナジービームです」
「なるほど」
付けたのかよ。まぁ、付けるなとは言っていない。天馬一号対抗だから当然と言えば当然だな。もう片方の手を添えるようにして発射するらしい。まぁいい。
「で、あれは?」
三人は、一直線に繋がって飛んでいた。というか、どっかで見たような飛び方だが、どこで覚えたんだ?
「わ、わかりません。あんな飛び方するとは思いませんでした。海底探検のときに隣りの人と真空膜フィールドを共有できるようにしましたが、あれはそれの応用みたいですね」
「音速越えてるよな?」
「超えてますね」
王女様だと思って速度制限したのにこれかよ。まぁ、飛翔魔道具に自分の魔力を加えてる時点でターボ付きみたいなもんだから、こうなるのは当然と言えば当然なんだが。
「俺のところに来る奴って、とんでもない奴ばかりだな」
「同類なんじゃないですか?」
「そう言えば、お前もな」
「えっ?」
本人は気づいてないようだ。
ちなみに着替えについてはスーツにファスナーを付けることにした。これで素早く着替えられる。魔法を使っているからと言ってメーク〇ップとか出来ません。
それと、飛翔スーツの色はデザイン担当の椎名美鈴の一声で『ピンク、イエロー、グリーン』となった。
一応俺の突っ込みでベースは白にした。グリーンがヒスイ、ピンクがヒラク、イエローがスサだそうだ。
見た目が侍女隊に似ているので三人とも大喜びなので、これでいいだろう。
ところで、よく考えたらスサを従者にした覚えはないぞ。今更だが。謀られたか?
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