第148話 妖精族保護区を作る

 ストーン神国の復興をしていたはずだが、いつの間にか幻の大陸アトラを探検し、妖精族の生き残りを見つけ、妖精族の村を作っている俺だった。俺って流されやすい? 別にいいよな? 人助けだし。っていうか、妖精助けだけど。あ、違う。妖精族助けだ! 自分で間違えてどうする!


「ここに保護区を作るのはいいけど、妖精族ってどういう家に住んでるんだ? ひとつ作ってみてよ。材料を用意するから」俺はミリィに頼んでみた。


 街を作るのに必要な物を揃えるにしても、必要な資材とかを見積もる必要があるからな。だが、二千年間石造りの建物を補修して使っていた民族に家を建てる技術は残っているのか?


「マスター。ワタシなら伝統の家も作れるけど、それより果樹園と同じがいいみたい」ミリィが妖精族のみんなから聞いてきてくれた。

「うん? そうなのか? あ~、そうか。みんな飛べるから高層階でもいいのか」


 この世界、普通は低層の家が多いのだが、こと妖精族に関しては高層でもいいようだ。とはいっても、人間の家の一階とは高さが違う。


「そうだなぁ。俺達人間を基準にしたあの果樹園でも、部屋の中を何層も区切って使ってたよな? 人間用を何階か作るのでいいのか?」

「はい、マスター。それで十分です」イリィが嬉しそうに言った。どうも、それが希望のようだ。ならいいか。


 ということで、俺は果樹園の建物に似たものを作ることにした。

 まず、あれと同じくらいのサイズの円形の土台を作る。これに『リング状の壁』と『平らな床』をパンケーキのように重ねていった。近くに転がる岩を溶かして整形しただけだが重ねた後は溶着しているので強度もある。あ、階段もサービスしちゃおう。

 ぽんぽんぽんっと、あっという間に五階建てのビルが完成した。


「人間サイズだから、各階は自由にしてくれ」

「おおおおおおおおっ」


 呆気に取られて、ただ眺めていた妖精族だが、早速出来上がった新居に飛んで行った。


「ああ、これなら、いままでやってきたことが、そのままいかせます。ありがとうございます」イリィさん、とっても嬉しそう。うん、俺も嬉しいよ。

「われらのれきしは、つねにミズとのたたかいでした。でも、これでながくつづいたじゅばくからかいほうされます」とイリィ。

「呪縛ですか。海の中では逃げられませんからね」

「それもそうですが、ごせんぞさまはヘプタのコウズイからアトラへにげてきたとつたわっています」


 どうも、伝説があるらしい。一族はヘプタ大陸からアトラ大陸へ逃げて来たのかな? さらにアトラ大陸でも洪水に見舞われたのか。洪水に伴う民族の伝説って何処にもあるんだな。


「ここなら、洪水とは無縁ですからね。安心です」

「はい、ねんがんがかないました」とイリィ。


「あんた、またこんなにお節介しちゃって」傍でみていた美鈴がちょっと呆れているが、楽しそうに言った。

「窓がないけどね」と美鈴。

「あっ」

「もう、空けてるよ。ほら」この辺は、さすがに魔法を使える民族だ。

「ま、そこはお好みで」適当にごまかす俺。いや、海の中のものを参考にしたからな。窓はない。うん。


 中央に、支柱が無かったので後から追加した。

 完成してから分かったが、海中にあった果樹園も五階だったが途中までは海水で使えなかったので、その分広くなったようだ。二千年前には二千人以上の妖精族が住んでいたというから、余裕だ。


 そうこうしているうちに、美鈴や侍女隊も近くの木材を切り出して建材を作る手伝いをしていた。材料がすぐに調達できるので住居としても完成してしまった。俺は俺で暇だったので井戸を掘ったり、煮炊きする炊事場を作ったり、野獣除けの塀を作ったりしていた。

 さらに、直ぐ近くに農園を切り開いてラームの木を植えたが、果樹園にはイリス様が祝福を与え、ラームの果実も生き生きとしている。


 ただ、その日は寝具などがないので飛行船に戻ったが、収穫したラームと俺達が用意した食事で大宴会になった。新しい自分たちの街が出来たのだ。そりゃ、嬉しいよな!


  *  *  *


 翌日、俺達は隣のカンタス自治領に妖精族の日用品などの買い物に行った。


「ストーン遺跡を復興するとは聞いていましたが、まさか妖精族を連れてこられるとは思いませんでした」俺達を迎えてくれたタント領主が驚きの声をあげた。でも、どこか嬉しそうな響きだ。

「ストーンの復興とはまた別にやってるんですが、行き掛かりで助けることになりました」

「素晴らしいことですな。隣に妖精の国が出来るなど夢のようです」確かに、隣にできる国としては最高かも知れない。

「あ、妖精ではなく、妖精族ですからね。羽はありません。羽っぽい魔法を使うだけです」

「はぁ」


 ちゃんと、そこは区別してもらわないとね。


  *  *  *


 俺達はカンタスで洋服の布地や寝具の素材などを集めた。

 さすがに妖精族のサイズの完成品はない。あるとしたら女子用の玩具だが、それは実用的じゃない。サイズが小さい洋服を作るには、かなり細い糸で作った薄い素材が必要になるので大変なのだそうだ。人間には柔らかい布でも、妖精族にしてみたらごわごわしてたりするらしい。美鈴に加えてヒスイとヒラクがいて良かった。


「約束したミリィの洋服を作るからね~っ、いろいろ揃えないと!」美鈴がとっても楽しそう。ん? もしかして、コスプレとかもやってたのか?

「うん、楽しみ~っ」今日ばかりはミリィは俺の肩ではなく美鈴の肩に止まって買い物している。まぁ、普通に行くと大騒ぎになるので区画を限定して、店員に説明してから買い物してるんだけど、それでも店員たちは驚いた顔で見ている。まぁ、初めて見たらそうなるよね。でも、総じてにこにこと笑顔で対応しているので大丈夫だろう。


  *  *  *


 そんな風に、俺達は何日か妖精族の街に滞在して、彼らが普通に生活できるように面倒をみていた。生活を始めてみると何かと足りないものが出るものだ。全てを海の中に置き去りにしてきたのだから、一通り揃えるまでは大変だろう。


「きゃ~、うれしい! ありがと~、ミスズ!」ミリィの服が完成したようだ。

「で、ミリィの服が出来たのはいいとして、なんで俺のもあるんだ?」

「えっ、だから、生地が余ったのよ」

「ほぉ。いや、お前それはちょっと無理があるだろ。余った生地でミリィの服ならわかるけど」

「何言ってんの? ミリィの服の生地であんたの服は出来ないわよ。私とヒスイとヒラクのを作ったから余ったのよ」と美鈴。眼が泳いでるんだが。まぁ、いいか。

「マスターとお揃い! 美鈴ともお揃い!」ミリィが喜んでるしな!

「私もお揃い!」とヒスイ。

「うれし~っ」とヒラク。


「あら、それ素敵ね~」アリスが早速見つけて食いついてきた。食いついた上に、自分の服をお揃いに変化させてみせた。自在ですもんね。

「あら、わたしもやってみようかしら」とイリス様。

「おお、我もやってみるのだ!」とウリス様。いや、ウリス様まで?

「私も、やってみる。リュウジ怖い」とエリス様。ですよね~っ。


「あ~っ。しょうがない、ちょっとだけな」まぁ、一応、俺のは男っぽくはなってるからいいんだが。これ何のデザインなんだろう? 軍服ではないようだけど? たぶん、何かのコスプレだと思うが俺の知らない奴だ。


「いいわね。これ女神隊のユニフォームにしようかしら?」ユニフォーム作るんだ。もしかして、侍女隊に対抗してる? まぁ、組織としては成長してるし、むしろ女神隊のほうが将来性あるかも。

「あ、じゃぁ、女神様の場合は、ここをピンクにしましょうよ」と美鈴。

「あら、素敵!」


 女神様は、その場で変えられるから便利だね~っ。てか、衣装は変えないんじゃなかったっけ? 遊びはアリなのか?


  *  *  *


 翌日、全員その服装で出て行ったらみんなに好評だった。


「婿殿、斬新なデザインじゃのぉ」とヒュペリオン王。

「リュウジ殿、なかなかいいではないですか!」ピステル達にも好評のようだ。

「ほほぉ、私も何か考えましょう」なぜか、ナエル王が対抗心燃やしてる。服に拘りがあるのかな? さすが、商業都市の王様だ。新しいものは気になるらしい。


 まぁ、ずっと使うかどうかは別として、どういう人間がいるのか一目瞭然なところが、ユニフォームのいいところだよね。いちいち説明しなくて済む。


 カンタス領に妖精族の保護・優遇も確約して貰ったし、これで安心して住めると思う。飛行船も定期的に飛ばそう。ストーンの復興やナステル王国への定期便も飛ぶから交流も生まれそうだ。

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