第147話 幻の大陸アトラ探検-帰還-

「すっご~いっ。はや~い!」妖精族たちは、飛行船の展望窓に張り付いて驚きの声を上げた。


 妖精族を乗せて、俺たちはアトラ大陸の中心部から都市国家モニまで一気に戻ることにしたのだ。およそ四千キロメートルの距離。これをマッハ二・〇で飛ばした。モニ国まで約二時間である。


「凄いでしょ~、マスターの神殿は音より早いのよ!」ミリィが展望室の窓の前に浮いてみんなに解説している。てか、自慢している。神殿なんだ。


 確かに速いのも驚いているのだが、そもそもこの妖精族は外界を知らない。

 もちろん一部は魔法を使いながら海面まで出たり、あるいは漁をしたりもしていたらしい。つまり一応海のことは知っているのだが、体のサイズも小さいし危険なのであまり遠くへは出ていなかったようだ。魔法が切れたら終わりだからな。彼らにとって、海は非常に危険な世界なのだろう。

 そんな妖精族が、飛行船に乗って上空三千メートルを飛んでいるのだ、大騒ぎである。


「ね~、いまクモがとんでたよ~っ」

「え~? あれがクモなの~っ? キリじゃないの~っ?」

「そらにあるからクモだよ~。うみにあればキリだよ~っ」

「じゃぁ、わたしたちいま、そらにいるんだ~っ」

「ああ、おひさまがまぶしいわ~っ。ねぇ、ほら、かげがこんなにはっきりと」

「せかいって、こんなにキレイだったのね!」

 なんていう素朴な声から。


「ねぇ、このハコなに? なんで、なかでラームがなってるの? なんでテンジョウがあかるいの?」という、なぜなぜ小学生みたいなのとか。


「きゃ~、めがみさま~すてき!」

「おねぇさまもすてき!」というアリス教会のシスターみたいのとか。


「わたしは、マスターの一番の従者なの!」

「わぁ~、すっご~いっ」とかだ。


 あ、最後のはミリィか。そりゃ、だって俺には従者がいないからな。確かに、従者としては一番なんだ。ま、横でネムが微妙な顔をしているが、妖精族相手なのでほっておくことにしたようだ。いや、ネムは従者じゃないだろ? あ、そういえば、H&Hズは従者だったな。ま、いっか。ジト目で見ないように!


 食事はラームが足りないので他の果物や俺達の食事を少し出してみたが、ミリィ同様に普通に食べていた。妖精族を救出した後、拘束フィールドで漁をしたので海の幸が満載である。まぁ、妖精族とはいえ五百人分の食料をまかなうにはこれしかないんだが。それまでも漁をしていたと言うし、セルー島の女官が勘違いしているだけのようだ。後で教えてあげよう。


ー アリス。アトラ大陸からの精神エネルギーってどうなってる?

ー 消えたわね。あれだけだったみたい。

ー やっぱりな。それにしても五百人で分かるもんなんだな。凄いな?

ー そうかな? 本当は一人でも分かりたいくらいだけど、ちょっと無理ね。

ー まぁ、あの状況だと、普通より強い精神エネルギーが出ててもおかしくないが。

ー 確かに、そうね。それで気付いたのかも。

ー そうだな。


  *  *  *


「マスター、族長が改めて挨拶したいって言ってます」ミリィが妖精族の様子を見てきて言った。

「おう、そうか。いいぞ」


「マスターリュウジさま。ぞくちょうのイリィです。このたびは、ほんとうにありがとうございました」妖精族って「リィ」が多いのかな? もしかして、アリィとかウリィ、エリィとかいる?


ー リュウジじゃないんだから!

ー 言われると思った。

 アリスから突っ込みが入った。


「もっと早く来れたら良かったんだけど」

「いえ、きづいていただけたのはキセキとおもいます。めがみさまのおかげです」

「そうだな。なんとか間に合ってよかったよ」

「はい。ほんとうに」


「それにしても、よくあの環境で二千年もいられましたね」

「はい。あそこは、もともとはくだもののケンキュウをしていたそうです」

「ほう」果実の研究所だったのか。

「でも、わたしたちは、あそこでホゴしてもらっていたんです」なるほど。妖精族を保護するために、あの研究所を使ったのか。ラームが必要だからな。

「そうなんだ。研究所なのでしっかりした造りだったのかな? それにしても、二千年持たすのは大変だったろう」

「はい。さいわいワタシたちにはマホウがありました」

「なるほど、確かにそうだね。魔法で、穴が開いても補修できるもんな」

「はい、このたびはラームがなくなり、まにあいませんでしたが」

「ああ、でも空気はどうしてたの?」横で聞いてた美鈴が気になったようだ。

「はい、クウキはマホウでつくれませんので、ウミのウエからひきこんでいました」


 よく聞くと、あの施設から伸びていた二本のロープみたいなものは滑車に繋がっていて、ぐるぐる回して使うものだった。ロープには小さいカップがついていて水車で水をくむように海面で空気を掴んで降りてくる仕組みらしい。賢いな。というか、これが無かったら本当に絶滅していただろう。


「でも、これからも大変だな。どこか住みやすい場所を探さないと」

「はい」

「なぁ、ミリィ。やっぱりセルー島みたいな所がいいんだろ?」

「はい、そうですねマスター」

「あの妖精の森って、ちょっと高地になってたよな?」

「そうですね。ラームは高地のほうが育ちます」

「そうなのか? 熱帯に近い高地っていうとコーヒー農園とかでもいいのかな?」


ぽっぽっ


 聞いていた女神コリス&女神ケリスが顕現してきた。


「おおおっ」イリィが驚いているが、とりあえず放置。

「リュウジ、ストーン砂漠の最北端に似た環境があるよ」とコリス。

「ストーン砂漠の最北端って、カンタス自治領に近いところ?」

「そう、ちょっと小高い山があるでしょ? コーヒー農園には低いのかもしれないけど、ラームには十分なんじゃないかな? 河が通ったので環境も安定してきてるし」

 まぁ、ストーン砂漠としては端なので一番まともな場所ではある。


 俺も神眼で覗いてみた。カンタス領の西側の山が確かにセルー島の環境に近いようだった。植物も普通に生えている。そういや、セルー島とほとんど同じ緯度だった。


 カンタスのタント領主に連絡してみたら、誰も住んでいない地域なので好きに使ってくれと言ってくれた。


「見てみるか? ダメならセルー島の妖精族に合流させてもらえないか話してみるが」

「はい、マスター、おねがいします」


 いや、俺は君のマスターでは……まっ、いいか。


  *  *  *


 飛行船はあっという間に都市国家モニに着いた。マッセム王子の旅は此処までである。


「リュウジ殿、この度は素晴らしい探検にご一緒させて頂き、ありがとうございました。大変勉強になりました。これからも、何かありましたら是非協力させてください」

「はい、マッセム王子を誘って良かったと思ってます。王子のおかげで妖精族を見つけられたようなものです。ありがとうございました」最初は控えめだったが、積極的に参加してくれたから助かった。


「そう言って貰えて嬉しく思います。行った甲斐があります。本当は妖精族もこちらで引き受けたいところですが」

「大丈夫です。妖精族には縁があるのでお任せください。住処が決まったら報告しますよ」

「はい、お願いします。もし必要なら声を掛けてください」


 マッセム王子をモニ国に送り届けたあと、俺達はカンタス自治区の西にある山を目指した。


  *  *  *


 結論から言うと、カンタス自治区の西の山は妖精族にとっては理想的な環境だった。普通の人間に移住を勧めたとしたら「陸の孤島」なので断られたと思うが、この二千年間ヒキコモリ状態だった妖精族としては、むしろ有難いようだ。妖精の森も同様だしな。これから少しずつ人間たちと共生するようにしていけばいいだろう。


 そうと決まれば、住環境を整える必要がある。山の中腹あたりが妖精の森と似た環境のようで、ミリィはここに住処を作ることを勧めた。ただ、海の中とは勝手が大きく違うのが問題ではある。

 生活用品などはカンタス領で調達することにして、必要ならモニ国やパルス王国にも協力を要請しようか。少なくとも、話は通しておいたほうがいいだろうな。

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