第127話 南方諸国へ-「セルー島」-妖精の国2

 相手が国の代表ではなく神官だが俺達の訪問理由を話すと、ちょっと微妙な顔をされた。

「その魔法共生菌は、この子達に影響はないでしょうか?」

 あ、確かにその可能性あるな。魔法は生み出せるが人間を対象外にするために遺伝子操作してる。もし、妖精族も対象外になってたら大変なことになる。が、もう遅い。たぶん、俺達の体についててばら撒かれてる。


ー どう思う?


 俺は、治癒の女神オリスさんと薬の女神クリスさんに声をかけた。


ぽっぽっ


 お二方顕現。それを見た女官たちはびっくりはしたが、女神様一行と知っているので大騒ぎにはならない。でも、さすがに顕現するシーンを見ると驚くよな。というか、確信に変わったかも?


「近くでよく見ないとね。おいで」と女神オリス。

 手を差し伸べると、先ほど俺に挨拶した二十センチほどの妖精族の女の子がふわふわ女神オリスの所へ飛んで行った。

「あら? この子たちの魔法共生菌は、私たちが問題にしているのとちょっと違うね」と女神オリス。

「そうね。人には感染する部分が無いようね」と女神クリス。

「どういうこと?」

「つまり、この子たちが持っている魔法共生菌は人にはうつらないのよ」ってことは、この南方諸国は安全なんだ。良かった! 最後だから気にしてたんだよ。

「じゃ、無害化魔法共生菌は必要ないと?」

「どうかなぁ? 今問題にしている魔法共生菌に勝てるな要らないけど、そうじゃないなら予防として散布したほうがいい」

「なるほど」

「ただ、この子の中ではもう無害化魔法共生菌に変わり始めてるみたいね。もう少し見ないと分からないけど」と女神オリス。ちょっと接触しただけなのに、生物界の生存競争は激しいな。

 女神クリスも妖精族にちょっと触れた後、眼を閉じている。神眼で拡大して見ているようだ。


 そんな話をしていると、別の若い神官が収穫していたフルーツを持ってきた。

「よろしければ、どうぞ」


 受け取って見ると、桃というよりスモモ? 大きさはスモモより少し大きい。スキャンして問題ないので齧ってみた。


「うん。甘くて旨いな。いける」俺がそう言うと、美鈴達も手を出した。

 俺、毒味役? ま、能力あるからいいけど。っていうか、お前らも能力あるじゃん。あ、味は分からないからか。

「かなり、高カロリーかもな」と言うと、美鈴とミゼールは手を引っ込める。分かりやすい奴ら。

「まぁ、でも酒よりはましだろ」また、手を出す。面白い。

「気にしてるんだ」

「いじわるなんだから~」と美鈴。

「人が悪いですマスター」とミゼール。

「これ、美味しい!」シュリは素直でいいな。

「うむ。旨いな」つられて、ナエル王も口にして称賛した。


 実際、ジューシーで種が小さく食感はスモモというよりぶどうだった。面白いフルーツだ。これ、大量に作れないかな?


「これは美味しいフルーツですね。作り方は難しいんでしょうか?」

「こちらでは、ここでしか育ちませんが、それほど特別なことをしているわけではありません」神官セルナは、そう答えた。


 妖精族が世話してるのか? ならそう言うか。ここの神官たちが育てているのかもな。ただ、ここ以外では育たないんだったら知らないだけで特殊な条件があるのかも。

 収穫するのを見た限りではコーヒーの実のように枝にぎっしり生っていた。収穫量は多そうなんだけどな。種と土を持ち帰って調べてみようかな?


「妖精たちはこのラームの実しか食べませんから大切に育てています」と神官セルナ。


 分析してみたが完全栄養食というわけでは無かった。これだけで、生きていけるなら、やはり人間とはちょっと違う進化をしたんだろう。


 俺が感心して聞いていたら、先ほどの妖精がふわふわ飛んできてラームの実を俺に「ハイッ。ワタシノキモチ」と渡してくれた。もっと食えってことかな?


「ありがとう。うん。旨いな」

「あっ」神官が驚いた顔をした。なんだ?

「なんか、またリュウジがしでかした気がする」美鈴が怪しいことを言う。

「またなの?」何それ。

「あら?」

「だな」

「リュウジ怖い」

 って、いつの間に来てるんだよ女神隊! もしかして美鈴がニーナの代わりに呼び出した? いや、今の「あっ」は俺じゃないから。神官だから。集合するなよ。


「人聞きの悪いことを言うな。今、何も言ってないし。何もしてないだろ?」

「あの。妖精族が『ワタシノキモチ』と言ってラームを渡すときは、忠誠を誓いますという意味です」神官セルナは言いにくそうに言った。

「なんでだよ。それ無理やり過ぎだろ!」そんな無茶な! 予め言っとけよ! 可愛いから許せるけど、地雷だろそれ!

「アリスノマスター」何かと思ったが、アリスつながりか。その話をされたらそうだけど。ちゃんと分かってるんだ。


「感がいいのね」イリス様も感心している。

「そういうことね」アリスも納得したようだ。

「まぁ、それはいいけど。忠誠って、どういう意味になるんだ?」

「その子は、常に付き従います」と神官。

「いや、それは出来ないだろう? ラームがあるところから離れられないだろ?」っていうか、妖精が付きまとうとか、そういうファンタジー展開要らないから。いや、妖精じゃなくて、妖精族の魔法使いだけどな!

「リュウジは鬼だ」

「鬼ね」

「鬼なのだ」

「リュウジ怖い」なんで、そうなる。ってか、女神隊何しに来た?

「お前ら」


「ちょっといいかな?」そこでクリスさんから声が掛かった。

「お、クリスさん何か分かりましたか?」

「うん、簡単に分析した限りでは妖精族に悪影響はないみたい。それと、その妖精族の体の中は、もう無害化魔法共生菌に置き換わってるよ。それでも、問題無く飛べてるから大丈夫じゃないかな?」

「なるほど。よかったな」

「ハイ、マスター」

「あ~、それは……」


「前回の神様降臨の最には、その子のご先祖様が忠誠を誓いました」俺が思案していると神官セルナが教えてくれた。

「そう言えば、再来とか言ってたけど以前にも神の降臨がこの島にあったの?」

「はい。百年ほど前と聞いています」

「ふむ。百年前か」


ー 百年前って、魔法共生菌が大陸で流行り出した時期だよな?

ー そうだね。コリスからもそう聞いてる。

ー 二代前の神が来たんだろうか?

ー どうだろう? 二千年前から不干渉主義だったから、その時だけじゃないかな?

ー あるいは、偽物か?

ー 今から調べるのは無理でしょ?

ー だよな。


「話戻すけど、この果実がないと連れて行けないよね?」

「はい。確かに」神官も困った顔。


「ねぇ、このラームって収穫してからどのくらい食べられるの?」突然アリスが聞いた。

「そうですね。普通は毎日収穫しますが、一週間ほどなら食べられます」

「なら、祭壇に備えたラームを転移すればいいんじゃない?」あ、アリス要らぬ知恵を。

「ハイ?」

「分かりました」あ、分かっちゃったんだ。神官がお供えしてくれるんだ。

「あ~、ちょっと待て。最初に言っとくけど、これは嫁ではなく従者だからな? 種族違うからな! それと、冒険とかに行かないからな!」

「リュウジったら拘るわね! 面白い展開なのに!」とアリス。俺はアリスの玩具かよ!

「惜しいわね。もうちょっとでパーティ組めそうなのに」とイリス様。パーティはマズいですよ。勇者いませんけど? 神様いますけど? 神様だらけですけど?

「ちょっと確率を……」

「いい絵が描けそう! リュウジ怖い」


 絶対遊んでるよな。てか、神様や使徒がいる冒険者パーティって何? 絶対変だよね? そもそも神様が魔王を倒しに行ったりしたら第一話で終わっちゃうんだけど? 製作委員会が黙ってないんだけど? あ、そう言えば俺、魔王認定されてたじゃん。そのあと神になったけど! これ魔王倒したことになるの? 自己完結しちゃってるんだけど? 話終わってるんだけど!


「ワタシ、ミリィ。ヨロシクネ」あ~、意外と賢そうで何より。

「マスター、アンナイスル」俺を案内してくれるのか? しかも、いい子っぽいし。

「うん。そうか」ミリィが飛び上がったので、諦めて俺も一緒に飛び上がって空中散歩をすることにした。

「おおおっ。さすがにアリス様のマスターですね」

 やはり、実際に飛ぶところを見ると驚くんだな。てか、信じて無かった?


「マスターハヤイ!」俺が普通に飛んだら追い付けないようだ。

「ん? あ、そうか。魔力弱いもんな。そうそう、これ付けられるか? って、リングはデカすぎて無理か?」

「マスターウレシイ」そういって、小さめの魔王化リングを渡したら、ミリィは腕輪にした。


「きゃ、これ凄いですマスター」

「いや、いきなり活舌がはっきりしてるんだが」

「ワタシ、なんだか体中から力が湧きだした感じがします」

「うん。というより、ちょっとデカくなってないか?」

 さっき、二十センチメートルくらいだったハズだが、五センチくらい大きくなった気がする。なんか、妖精族には特殊な効果があるのか? 魔族に化けたりしないよな?

「そうかな? ああ、これでマスターに追い付けます」ミリィは結構素早く飛べるようになっていた。まぁ、これは想定内。


 それから、俺はミリィに俺の飛び方を教えたり、連れられて果樹園の他のフルーツを見て回った。まぁ、見るだけなら神眼があるけど、神眼に説明はないからな。


 帰ったら、ミリィを見て神官たちが唖然としていた。

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