第107話 南北大陸へ-パルス王国で休憩-
西岸同盟を発進した俺たちは、カニを食べつつ南下した。
ただ上空では確かに北風が鳴っていた。外周エンジンだとあまり影響はないが、操縦室に行ってみると強風が吹き荒れているのが分かった。この強風は西岸同盟とパルス王国を隔てる山々まで吹いていた。この山岳地帯が無ければパルス王国も寒冷化していたのかも知れない。
ともあれ、これで南北大陸の北側を、ほぼ一週間かけて回ったことになる。当然、最初のパルス王国に戻ってきたわけだ。パルス王国御一行も、これで十分飛行船の旅を満喫できただろう。
「お疲れさまでした」ピステルが労う。この一行に付き合うのは、さぞ大変だったろうと。自分も大変だと言いたいようだ。っていうか、自分も帰りたいのかも。どこか、羨ましそう。
「いや、大変貴重な体験が出来た。改めて礼を言わせて貰う。今宵はわが国で、ゆっくりされるといい」とヒスビス王。やっと開放されるといった晴れやかな顔をしている。
「ありがとうございます」
「ピステル、このままパルス王国で待ってるか?」俺は、ちょっと冗談を言ってみた。
「い、いいのか?」おいおい。本気かよ。
「いいわけないだろ。ジョーダンだよ」
「そんな、嬉しい冗談いうなよ」
横でヒスビス王がちょっと憐れむ表情を浮かべていた。
* * *
それはともかく、その日の晩餐は、妙な熱気をもって繰り広げられていた。
「いや~、しかし世の中は広いもんだっ。今までの人生をひっくり返しそうな一週間だった」酔いもあって口の軽くなったヒスビス王が、よく分からんことを言い出した。
「まぁ、あなたったら」マレイン妃も、ちょっと呆れ気味。まぁ、でも仕方ない。神様の相手なんて、そうそう出来るもんじゃない。そういう意味では一週間相手してたんだから、人生ひっくり返ってもしょうがないよな。うん。
「私、南北大陸の南側も旅してみたくなりました」とマレイン妃。あれ? 懲りたのかと思ったら、意外と肝が据わっている? それを聞いたヒスビス王がぎょっとした目で見ている。そして、俺に救いを求めるような視線を送らないでほしい。
「いや、さすがにお疲れでしょう。俺達は仲間なので気兼ねなく居られますけど」俺の言葉にヒスビス王、嬉しそうに頷く。分かりやすい人。
「ええ、それはそうでしょうけど、私、二度と出来ない経験は逃したくないタチですの」ヒスビス王呆然。ニーナも呆気に取られている。アリスも不思議そう。イリス様はちょっと笑っていた。
この人、傑物の気配があるな。
「いや、しかし、先日からのお話を聞いていると、大陸の南側は過酷な環境とのこと。間違いがないとも限りません。ここは慎重に考えられたほうがよろしいかと」ピステルがやんわりとお断りしている。まぁ、確かに疲れているだろうから、怪我などしてもらっても困る。
「そうだぞ。ピステル殿にご苦労かけてはいけない」ヒスビス王頑張れっと、みんな思っていると思う。
「私もマレイン妃に賛成です!」折角、みんなで抑え込んだと思ったら第二王妃がまさかの応援をして来た。仲がいいの? それとも、居なくなれば嬉しいって話?
「そうでしょう? では、国王は仕事でこれ以上離れられないでしょうから、私とフィスラーでお供させて頂きましょう。ご迷惑かしら?」にっこりと笑うマレイン妃。笑顔が引き攣るフィスラー妃。予想外だったようだ。
「いえ、迷惑などありません。この大陸の方が同席してくれるのは大歓迎です」
「そうですわね。それだけが、唯一私たちに出来るお手伝いですから。では、もう少しの間、お世話になります」
「はい、分かりました。お任せください」ピステル、諦めが肝心だぞ。
まぁ、こうなったら仕方ない。南大陸は、砂漠や人跡未踏の土地が続いているという話なので一週間も掛からないだろう。そう言う意味では、苛酷なだけで面白味は無いと思うのだがいいのだろうか? ちょっとマレイン妃の心を覗いてみたが、普通に言った通りの事を考えてるようだ。まぁ、あんまり覗いちゃ悪いので、こういうとき限定だが。
ー 私が見てるから大丈夫よ。女性の心を覗くの嫌なんでしょ?
ー うん、頼む。
ー 了解。
「そうと、決まれば、私たちが責任をもってお預かりしますので、ご安心ください」俺は、ヒスビス王にそっと言った。
「うむ。頼りにしている」それが聞こえたのかフィスラー妃もすがるような目で目礼して来た。この二人、いつもマレイン妃に振り回されてるっぽいな。
「さあ、では砂漠に行く準備をしなくては。ちょっと、失礼いたします。行きますよフィスラー」
「はい。ただいま」
後で聞いたが、アリス情報によると、マレイン妃は二十歳、フィスラー妃は十七歳だそうだ。それと、さすがに王子は置いていくとのこと。
* * *
さて、マレイン妃のツルの一声で継続して参加となったパルス王国の約半数の十名程はもちろん、俺達にも砂漠の気候に合わせた準備は必要だ。特に聖アリステリアス王国の人達や特効薬プロジェクトのネムなどだ。近衛神魔動車隊もあまり走る機会が無くて腐ってるみたいだが、さらにヘタレれないように準備だけはしてもらう。飛行船のスタッフは飛行船から降りなくていいのだが、民族衣装などが気に入ったのか買いまわっていた。一応、準備のために通貨を用意してもらったので渡したのだ。タダというわけにもいかないので、砂漠まで持っていけない魚を全部買ってもらった。
俺の嫁達の買い物には、フィスラー妃が付き合ってくれた。
「ええっ? みなさんも王妃だったんですか?」と驚くフィスラー妃。どうも、侍女隊のことを言っているらしい。
「いえ、わたくし達は、まだ婚約しているだけですわ」とミリス。
「はい、でも婚約しているのであれば王妃扱いです」とフィスラー妃。
「確かに」
「そうよね。もう、私の嫁と同じよ」相変わらずのニーナである。
「第一王妃ニーナ様の?」フィスラー妃は不思議そうに言う。
「第一王妃? ああ、私ね。ええ、王妃同士は姉妹みたいっていうのが私たちの流儀なの。ね? セレーネ」
「はい。勿論です。とっても楽しくて頼もしい姉妹ですわ」
「はい。姉さまのいう通りです」勿論いるアルテミス。
「うん、そうなのじゃ」さらにリリー。
「そうですか。羨ましい限りです」
「大変なの?」とニーナ。
「あ、いえ。私がいたらないだけなんです」とフィスラー妃。
「ああ。確かに、二人や三人の時のほうがが難しいかも」とニーナ。
「そうなんですか?」
「ええ、少ない人数だと一人の影響が大きいでしょ? 気を使う割合も多いわけだし」
「なるほど」フィスラー妃の場合は、全てマレイン妃だよな。
「私たちもセシルが入るくらいまでは、何かと大騒ぎしてた気がする」
「ああ、そうかも~。リュウジも凄く真剣な顔してたし」ミルルも同じ意見らしい。俺は、今でも真剣だよ~っ。
「立ち位置というか、みんな複数の妻に慣れてないからだね」ニーナは色んな出来事を思い返しつつ言った。確かに、一般的ではない関係だよな。
「そうだったんですか。私には分かりませんでした」とセシルが意外そうに言う。まぁ、セシルは登場の仕方があり得なかったから分かり難いかもな。
「セレーネ達三人が入って、すっきりしたかも。なんか力が抜けた感じ?」
「そうでしたの? 始めから達観されてたのかと思いましたわ」セレーネも気づかなかったようだ。
「ふふ。だから、三人を歓迎できたのかも」
「でも、確かに六人になって楽しくなりました」とセシル。
「あっ、それわかる~。セシルは特に気を使ってたしね~っ」
「ミルルさん……」
「そうそう。そこにミゼールたち侍女隊が入って来たから、もう大家族って感じよね?」
「そだね~っ」
ま、うちの場合は女神様が居てくれたしなぁ。
ー あら。えっへん。
ー はは。ありがとうアリス。
ー ふふっ。どういたしまして。
「我は、もともと大家族で生活してたので、特に違和感はないのだが」ミゼールが意外そうに言った。アブラビってそうなのか?
「ええ? そうなの?」シュリたちもさすがに、そこまでは知らなかったようだ。
「ああ、我の親父は族長なので、食えない女や一人になった女がいると、みんな嫁にするのだ。なので、最後は子供もできない妃になってたりするんだが。多いときは二十人、今は確か十五人くらいだったかと」人数は、大体なんだ。
「へぇ~。リュウジは婚約者を含めて十三人か。あ、美鈴を入れると十四人か。いい勝負だね。さすがに限界? まだいける?」とニーナ。おいおい。無理言うな。っていうか、美鈴をカウントするなよ。あ、後ろで笑ってるし。
「なるほど。分かりました。では私、この旅を妃候補を探す旅にします!」とフィスラー妃。
君が探すんかい! てか、そんな決心していいのか? ヒスビス王に恨まれたりしないよな?
あれ? ちょっと待て。女神様をカウントすると、俺は既に大変なことになってるんだが? さすがに、女神様はノーカンか?
ー そんなわけないでしょ。あなたは、もうこっちの存在なんだから、むしろ女神からカウントしなくちゃ! 現在カウント十!
ー やっぱりか。いや、その言い方は増やす前提に聞こえるんだが?
ー あら、そうよ。増やす前提よ。グループ作ったんだもん。
ー そうなんだ。
グループって、女神隊のこと? それ、嫁じゃないじゃん。ってか、神界に嫁の概念要らないし。
なんだか妙な旅になりつつある。とりあえず、次は近場のカンタス自治領だ。
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