第104話 南北大陸へ-雪と氷の国/ヒュシバル王国1-

 四月のヒュシバルは、まだ雪と氷に閉ざされた国だった。

 北洋王国でおおよそ話に聞いていたので意外には思わなかったが、ロキー山脈に沿うように暮らすこの国は豪雪地帯であった。とは言え、さすがにこの季節となると吹雪いたりはしないそうだが、降り積もった雪が固まったまま溶けていないのだ。


「どこに何があるのか、全くわかりませんね」辺り一面が雪という景色が珍しく、ずっと眺めていたピステルだったが、さすがに見飽きたようだ。山か森か平野かくらいは分かるのだが全部真っ白だから仕方ない。

「さすがに、街があれば煙も立つし分かるだろう」『神眼』で見ると真っ白だが街の場所は分かる。さすが神眼だ。だが、人間の目では分からない。ここにも飛行船を飛ばすとしたら、GPSのようなものが欲しいところだ。


「あっ」ちょっと思い付いた。

「お姉さま達集合」っげ、ニーナに見つかった。

「いま、見つかっちゃったとか思ったでしょ」

「思ったわよね」アリスがバラすし。

「おほほほほっ」妙にアルテミスに受けている。

「なんじゃ?」

「父上、リュウジのトンデモ話を聞く会じゃ」

「おお、これがそうか。わしも参加するぞ」何これ、既にイベントっぽいんだけど。飽きてるから食いつきがいいし。

「兄さま、始まりました」

「おお、これが噂の」クレオの裏切り者~っ。


「あ~っ、まぁいいか。じゃ、お茶でもコーヒーでも飲んでてください」

 パルス王国関係者も、何事かと思いつつ静かに聞いている。

「ええとっ。大陸や海を渡る旅人にとって一番大切なことは、今自分がどこにいるか、つまり居場所を特定することです。迷っては目的地に行くことも家に帰ることもできません」と言って一同を見る。

「うむ」大きく頷くヒュペリオン王。


「で、位置を特定するときの簡単な方法は、基準となる場所との距離を測ることです。神聖アリス教国の首都アリスから百キロメールとかね?」ちゃんと聞いてるね?


「でも、それだけだと首都アリスを中心に百キロメールの円の何処かは分かりません」

「うん? 街道が分かればいいじゃろ?」とヒュペリオン王。

「あっ、さすがですね。道を特定できればそうです。ですが、山道に入ってしまえば分かりません」

「そうじゃの」王様が分かれば大丈夫か。


「そこで、もう一つの距離、聖アリステリアス王国の首都ピセルからも百キロメールと分かったら、どうでしょう?」

「おお、アリスから百キロメール、ピセルからも百キロメールだと地獄谷の先じゃな。新しい街道あたりじゃろう」

「はい、一つは当たりです。さすが王様です」

「わははは。任せておけっ」

「父上、もう一つあるのじゃ」

「なに! ああ、そうか。なるほどのぉ。セレーネ街道でなくアルテミス街道にもあったな」

「そう言うことです。二つの円の重なるところです。そこで、さらにもう一つオルメス山から何キロかという情報があればどこに居るのか答えが分かるわけです。先ほどのセレーネ街道とアルテミス街道ではオルメス山からの距離が違いますからね」

「うむ。なるほど」

「つまり、三か所からの距離が分かればどこにいるか分かります。その距離の簡単な測り方を思い付いたんです。一瞬で分かります」

「なんじゃと~っ!!!!」


「「「「「「「「「きゃ~っ」」」」」」」」


「これか、これなのじゃな!」

「父上これなのじゃ」

「来たわね~っ」とニーナ。

「やっぱり~」とアリス。

「はい、来てます」とセシル。

「まぁ、これ以上はカリスさんとキリスさんに相談してみないと何とも言えないけど。上手くすれば世界旅行がお手軽になります」

 まぁ、GPSモドキなんだけど。


  *  *  *


 で、神魔科学神魔道具の神様たちと相談した。

「で、どのように距離を測定しますか?」ちょっと興味を持ったらしい女神カリス。もう、絶対よいしょしてるだけだと思うけど、俺が言わないと勝手にはやってくれないだろうし諦めて話すことにする。


「神魔フォンで使ってる、魔力波と神力波を使います。地上の高い山に魔力波の発信機を置きます。これを大陸の彼方此方において距離を図る起点にします」

「なるほど、予め世界各地に発信機を設置しておき、位置の確定に利用するのですね」と女神カリス。

「はい。距離は、各発信機からの到達時間で決まります。決められた場所からの距離が分かれば、位置が特定できるという訳です」

「はい」

「ただし、そのためには、全部の発信機から同時に発信する必要があります」

「そうですね」

「そこで、基準信号として神力波を利用します。神界からだと距離が無いので、地上では全ての地点で同時に神力波を受信できます。これを合図に、各地の発信機から魔力波を発信すれば、到達時間で距離がわかります」

「なるほど」

「あとは、最初に受信した三点からの距離で、場所を特定するわけですが、どうでしょう? 難しい問題だとは思うんですけど」

「ふむ。キリスさんどうでしょう?」と女神カリス。

「そうですねぇ。判断させるには能動的な機械が必要でしょうけど、地図上にある三点からの距離で円を描くだけでもいい気がしますね。発信地が特定できれば、その点から到達距離の円を描けます。その三つの円の重なった点が現在位置です」

「ああ、なるほど。その重なりを強調表示できる地図が用意出来ればわかりますね!」

「そういうことです。どうでしょう?」と女神キリス。

「それで、十分です。出来ますか?」

「恐らく。専用の発信機は単純な構造ですから、この遠征中に作ってばら撒いてしまいましょう。神界に置く基準局も簡単ですから問題ないでしょう」

「マジですか」

「はい、お任せください」と頼もしい女神キリス。電波と違い、魔力波と神力波は物体を透過しやすいので、発信機の数も少なくて済むだろう。


 ということで、雪と氷の国ヒュシバルに到着する前に、全然関係ないことで盛り上がっている使節団だった。これで、神眼や千里眼が無くても世界中を旅することが出来るようになる。


  *  *  *


「なぁ、マレイン。もしかして私達は、とんでもない人たちに同行しているのではないか?」割り当てられている特別客室に戻ったヒスビス王が妃を振り返って言った。

「あなた、それは既に北洋王国で分かっていたことでしょう?」

「いや、確かにそうなんだが、一緒に居ると居るだけ驚きが増えてきて、もう何がなんだが分からなくなって来たのだ。凄いのはこの飛行船だけかと思っていたが、見るもの全て現在進行形で驚きばかりなのだ」

「私も、ヒスビス王と同じ気持ちです。驚きと驚きの間の落ち着いた時間がないんですもの。驚いたまま次の驚きが来て。でもここに来てだいぶ平気になりました」

「あら本当に? フィスラー見直したわ」

「はい、私、使節団の方々が何を言ってるのか分からなくても気にしないことにしました。分からなければ、驚かなくて済みます。疑問があっても、そのままにすればいいんです」

「なるほどな。それは名案だな」

「まぁ、それがいいわね。ただ、微笑んでいればいいのね。理解しようとするからいけないのね」

「そうです、マレイン妃。これこそが、私が編み出した処世術です」そうなんだ。てか、編み出したんだ。


 GPSモドキはまだ完成していないが、神眼を使って雪と氷の国ヒュシバル王国の王都ピシスに到着した。

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