第97話 南北大陸へー出発ー

 三月も後半になり、いよいよ南北大陸へ向けて出発する日がやって来た。


 王城の上空には、ライブ配信の映像が映し出されている。さすがに舞踏会のようなパノラマスクリーンではなく普通の平面スクリーンだが、この映像はこの中央大陸の各国へも配信されている。各国首都上空には同じ映像が映し出されているという訳だ。


「本日は、ついに南北大陸へ向けて我らが大陸評議会使節団が出発します。神聖アリス教国報道局は、この様子を中央大陸全土に向けてライブ配信いたします。なお、本日のライブ配信の最後にはクイズ大会を予定しておりますので、どうぞ最後までお楽しみください」


 報道局が出来たようだ。アナウンサーまで登場している。で、よく見るとセシルだった。何やってんの? 軽いな俺の王妃。もしかすると、スポンサーまで付いてるかもしれない。

 まぁ、これも神聖アリス教国の事業の一つなのでいいだろう。っていうか、飛行船の訪問先でもビデオ配信を使うつもりだし、セシルが担当してくれるなら最高だ。聞いたら、飛行船が発進したらアナウンサーは交代するらしい。なるほど後進も育ててるんだ。さすがだ。

 ってか、この世界の最初のアナウンサーは王妃かよ。ま、いっか。


 今回の南北大陸への派遣は建国祭への招待ではないので、各国要人を引き連れる予定はない。

 使節団とは言っても比較的小規模になる筈だった。だが、急遽女神様一行が正式なメンバーとして追加されて大所帯となってしまった。

 女神様一行は、いちおう文化交流代表団という名目だ。

 要するに旅行したいらしい。もう公私混同もいいところと思ったが、そもそも神様って公私分けてるの? 分けてないっぽいな。じゃ、いいのか。

 ついでに、この世界全体を神界向けのリゾートにしちゃったほうがいいのかも知れない。冗談だけど。


 あと、今回は俺の嫁全員が乗っている。

 信じられないかも知れないが、赤ん坊や乳母を含めてだ。今までの飛行船なら考えられないんだが、加速キャンセラーがそれを可能にした。気圧調整もある。これで、ニーナが寂しがることも無い。あ、俺も公私混同してたわ。てか、女神様含めて殆ど俺の関係者だった。やりたい放題だな俺。

 また、新型船ということもあり技術スタッフとしてランティスとスペルズも搭乗することになった。


 別大陸の国を訪問するので訪問先へのお土産を含め運び込む物資は多い。

 このため出発に時間がかかっている。代表団の主要メンバーは王族なので、当然従者もいるし荷物も一般人とは違うから尚更大変だ。


 船内に入ると、展望室にもライブ配信のスクリーンが表示されている。

 自分たちが乗っている飛行船の映像だが、外から見た映像を見るってのも面白いものだ。

 当然のように、窓から手を振ってカメラに映った自分をスクリーンで見ようとする奴が出る。でも、窓辺で手を振ってすぐに戻って見ても見えないからなクレオ。


  *  *  *


 荷物の積載も完了し予定通り飛行船はゆっくりと上昇した。いつも通りの発進である。ここまでは。


「それじゃ。新型船特有のエンジンの力を発揮してもらおう。画面に注目」


 俺は展望室にいる全員に注意を喚起してから、おもむろに操縦室に超加速開始の指示を出した。

 すると、ゆっくり上昇していた飛行船は、雲をかき消すようにフッと画面から消えた。


「な、なんじゃ、今のは?」リリー愕然。

「す、すっご~い。って、あら? この飛行船ですよね? あら?」アルテミスは怪訝な顔。

「新しい加速って外から見るとこんな感じなんだ~。転移みた~い!」


 ミルルの言葉に、周りの人達もやっぱりこの飛行船なんだと分かったらしい。確かに、窓の外の景色は飛ぶように流れているからだ。


「こういう飛び方してたんだ。中にいると何も感じないのに」


 ニーナの気持ちが良く分かる。


「どうだ、凄いだろう? これが本当の超加速だよ」俺は自慢してみた。


「なんか、見てたら怖いかも~」これはミルルだ。確かに。

「おお、なるほど。あのような飛び方をするために、この方式を編み出したのじゃな?」


 ヒュペリオン王が感心している。


「はい、そういう事です。普通じゃ耐えられませんからね」


「これは素晴らしいわ。でもアレ、気の弱い人には見せないほうがいいと思います」


 なるほど、セシルのいう通りだ。ミルルも怖いって言ったしね。要注意かも。


「これで、幼児や体の弱い人が乗っても問題ありません。やっと、誰でも乗れる乗り物になったと言えるでしょう」


「「「「「「おおおおお~っ」」」」」」


~ 巡航速度に達しました。現在、ほぼ音速で飛行しています。


 船内アナウンスで巡航速に達したことを知らせた。

 実際は加速が終わり一定の速度になったのだが、加速キャンセラーのおかげでアナウンスしないとその違いが分からないからだ。


 さすがに、クイズ大会の映像は消すことにした。


  *  *  *


 発進の興奮が収まった後は、皆思い思いに景色を楽しんだりお茶を飲んだりして寛いでいる。今までとはちょっと違う和んだ飛行船の風景だ。


 そんな中、ふとピステル・カセーム王が怪訝な顔でやって来た。


「なんだか、人数が多いようなのだが。貴殿の奥方はともかく、あの高貴な方たちはどなたでしょう? 舞踏会の時から気になってはいたんだが」


 そりゃ、気になるよね。てか、建国祭からずっと俺の国に居るのに、なんで聞かなかったの?


「ええと、追加になった文化交流代表団ですね。ああもう、ばらしちゃいましょう。あの方たちは、全員女神様です」


「……」


 さすがに、一瞬疑いの眼差しを向けられたが、思い返したのか改めて女神様御一行を見て次第に驚愕の表情に。


「ちなみに、あそこで仕切っているのが女神アリス様です」


 人差し指で指そうとしたが、思いとどまったような恰好で口を開けたまま俺を見るピステル。


「驚くのも無理はない。一人でも大騒ぎなのに、八人も居たらびっくりするよね」

「リュウジ、数の問題じゃなかろう」


 リリーが横から突っ込みを入れる。


「そうよ、なんでもっと早く言っとかないのよ」とニーナ。

「ニーナ、こんなこと予め言ったら、信用されないだろ? 頭おかしいって思われるだけなんだよ。こういうのは、目の前で言わないとだめなんだ」


「なるほどのぉ。勉強になるのぉ」とリリー。


 お前は、人を驚かすタイミングを計算してるだけだよな。


「兄様、はいですの」


 兄を心配したクレオがお茶を持って来て差し出した。


「う、うむ。ありがとう」


 ピステルは茶を受け取って一口飲んだ。


「おお、クレオは優しいな」


「ふう。リュウジ殿、いきなりは勘弁してくれよ」

「いや、そんなこと言ってもな。あ、そうそう。クレオだけど、女神様の使徒になったから」

「なに? 本当かクレオ?」

「はい、なの」


「リュ、リュウジ殿、だから先に言ってくれと」

「いや、急に決まってな。俺も同じようなもんなんだ。だから、今言ったんだよ。あ~、それとな」

「ま、まだあるのか?」


 ピステル、さすがに焦っている。


「うん。実は俺、神になっちゃってな~っ、あははは」


 それを聞いて、ピステルはさらに目を大きく見開く。っていうか、顔を引きつらせる。


「な、なんだって~っ? なっちゃってな~って、どういうこと? 」

「まぁ、普通驚くよなぁ、これは。あんまりないもんなぁ」

「いや、絶対ないだろ。なんで、なっちゃえるんだよ?」


 と思いっきり突っ込むピステル。


「それが良く分からんから説明できないんだよ。たぶん、女神様がこんなにいるし、もともと俺は使徒だったから、昇進しただけなんじゃないか?」


「し、使徒だったのか? いや、それも聞いてなかったが。指輪の事といい、ただの魔法使いではないとは思っていたんだ。そうか使徒だったのか。で、使徒って昇進するのか?」


「知らないけど、しちゃったんだよ」

「しちゃったのか。たまには、遠慮しといてくれよ。こっちの身が持たない」

「うん、次はそうしよう」

「次があるのか?」


「そうか、さすがにもうないな。第二神とか言ってたし」

「それって、行けるとこまで行ってるよな。俺、リュウジ殿と話してていいのか?」

「いや、今まで通りで頼む」

「ほんとうに?」

「うん、いい」


 ピステルには悪いが、これはもう俺達と付き合って行くには避けて通れない道なんだよ。


 何はともあれ、こうして無事南北大陸へ向けて発進した。


  *  *  *


 巡航速で飛んでいるので、昼時にはキリ山脈を眺めるあたりまで来ていた。

 眼下にはキリリス諸島が見える。俺達は優雅に景色を眺めながら、レストランで食事を取っていた。


「この加速を全く感じない空の旅というのは快適だな。しかも、全く揺れない」


 一緒に食事しているピステルが、食べるのやめて言った。


「ああ、そうだね。外周を真空膜が覆ってるから音もしないしね。でも、多少は揺れたり音も伝わるんだよ」


「真空なのに音が伝わるのか?」

「ああ、真空膜の厚みを一定にしようとするので外が揺れると合わせて中も揺れるんだ」


「ほ~。なるほど。そういうこともあるのか」

「まぁ、調整可能なんだけどね。全く聞こえないと、不便なこともあるじゃないか。操縦席の人間は外の音を聞いてるよ」

「ふむ。そうなのか」


 ピステルには、外の音が聞こえなくて困ることがあるとは思えないようだった。少なくとも、この飛行船は問題ないだろうと。


「む? 婿殿。ということは、七人の侍女隊の天馬一号の場合は外の音を聞いておるのか?」


 一緒にいるヒュペリオン王が突っ込んできた。さすが乗り物の事となると洞察力が違いますね。というか、それ以外食いつきませんね。


「そうです。ああいう操縦者しか居ないような乗り物は、外の音が聞こえないのは逆に致命的だったりするので基本、音は聞こえるようにしてます」

「おおっ。なるほどのぉ」


 これ、絶対乗らせろっていうよね? あれ、でも飛行艇が怖いとか言ってたからな~どうだろ? 見てたら、言おうか言うまいか迷っている様子。


「ただ、天馬一号は風防が小さいので、何かあった時のことを考えると自力で防御フィールドを張れる人でないと難しいですね」


「はぁ、そうじゃったか。そうじゃろうのう」


 俺の説明で、逆に諦めが付いたようだ。


「父上、飛行艇に慣れて待っておればいいのじゃ。リュウジがそのうち飛行艇にも真空膜フィールドを付けてくれるに違いないのじゃ」とリリーがフォローする。

「おお、そうじゃな。そうじゃとも。うん。待っておる」と王様。


 はい、そんな期待する目で見なくても、作る予定です。俺が、頷いて見せたら、安心したようだ。

 でも、神魔動車には付けませんよ?


 そういえば、最近リリーがカスタムモデルのおねだりをしなくなったが、もしかして狙いを変えたのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る