第77話 リュウジ魔王になる1

 まず俺は防御フィールを大きく展開し、嫁と侍女隊を含む仲間たちを覆った。執行官が何かしようとしていたからだ。


 次の瞬間、空気がふっと揺らいだ気がして一風変わった使徒達が執行官の前に現れた。ポセリナ達のような線の細い女性的な使徒ではなく、ムキムキマッチョの使徒たちが十名ほどだ。


「神界の捕縛隊です。使徒リュウジとその妻たちを拘束します。やれっ」


 執行官の合図で、捕縛隊と言われた使徒たちが前に出ようとする。俺は、防御フィールドを全開にした。


「「「「「「「「「「ぐわ~っ」」」」」」」」」」


 捕縛隊は防御フィールドに飛ばされて後宮の壁に打ち付けられた。ついでなので、反発フィールドも追加しておいたので激しく頭を打ちつけている。


「こ、これは、どういうこと? お前たち、何をやっているのです。早く拘束なさい」執行官は驚き、戸惑いながらも命令する。


「だ、ダメです。強力な防御フィールドを張っています」捕縛隊の隊長と思われる者が報告した。

「そんなバカな。神力は切っているハズです。行きなさい」訳が分からないと言う顔で焦りながら命令する。

「はっ」と言って、防御フィールドを無理やり排除しようとしてくるが、入れない。

「どうなっているのです? 仕方ありませんね。緊急実力行使を許可しましょう」執政官は何か制限を外すようなことを言った。


 ヤバイかも知れない。俺は今、魔法ドリンクで使徒レベルの筈だが、実際には侍女隊が使う時よりも強力になっている。これも、俺の特殊事情だろうか? 使徒十名を弾き飛ばしているのでスーパー使徒レベルくらいだ。だが、緊急実力行使と言うのがスーパー使徒レベルなら数で負けてしまう。俺はちょっと焦りを感じた。何かないか?


 ふと見たら、テーブルに酒があるじゃないか。なんでこんなところに酒があるのか知らないが天の助けだ。いや、天は今、助けてくれないけど。って、そんな細かいことはどうでもいい。

 俺は思わず栓を開けぐびぐびと飲み込んだ。すると、爆発的に魔力場が増大した。なんだこれ? 凄いなんてもんじゃない! もう、矢でも鉄砲でも持って来やがれ、べらんめぇ状態だ。


 防御フィールドに何とか抵抗して前に出て来ていた執行官と捕縛隊だが、さらに弾き飛ばされた。


「こ、こんな馬鹿な。緊急実力行使を使っていますか?」


 さすがの執行官も、ひどく困惑した顔だ。最初の澄ました顔とは大違いだな。こっちが本性か?


「やってます、執行官殿。しかし、これ以上は無理です。こやつ、魔王に違いありません」と捕縛隊。はい、魔王認定頂きました。神界公認魔王ドリンクってキャチコピーが使えるな!

「な、なんと、やはり魔王ですか」やはりって、なんだ?


「何言ってやがる、魔王のわきゃね~だろ。このすっとこどっこい。嫁を連れて行くってやつのほ~が魔王だ。女や子供を守ってるのが魔王のハズね~だろ! 魔王はお前たちだ。魔王で無けりゃ悪魔だ。この、と~へんぼく」すまんな、俺ちょっと酔ってるから。


「なんか、リュウジが意味不明なこと言いだしてるんだけど……」横でアリスが心配する。

「シ~、こういう時のししょ~はほっとくに限るの!」ニーナは見て見ぬふりに決めた模様。

「リュウジ! 行け! 行くのじゃ~っ」約一名に妙に受けてる。


「ぶ、無礼な。これ以上の抵抗は許しません。捕縛隊早く何とかなさい」執政官は言うが、酒を煽る度に、さらに俺のフィールドが強化されていった。


「ああああ。もう、無理だ」と、捕縛隊。

「これ以上、やるなら俺も本気出すぞ~っ。ひっく。どうなっても知らないからな!」


 ホントに俺は本気を出そうかと思った。思っただけで魔力場がブンッとうねりを上げて渦巻いている。このドリンク、ちょっと予想以上なんだけど。ピルーセ、特別なものを持って来てないよな?


「ええい。な、なんたるごと。い、いっだん引きまずよ」執行官、活舌がおかしい。が、捕縛隊を置いたまま先に消えてしまった。ついで、捕縛隊たちも泡食って消えていった。

 逃げ足の速い親分は嫌われるぞ。


「けっ、逃げ出しやがったか!」吐き出すように俺は言った。

「ふん、口ほどにも無ぇ奴らだなのだ」ウリス様も息まいている。しかも酒瓶持ってるし。この酒ってウリス様が持って来たのかよっ!

「だが、人数増やしてまた来そうだな」

「そうでしょうね」イリス様も心配そう。


 嫁達は使徒だが、俺の眷属だから神力は既に削られている。さらに身重なので身動きが取れない。女神様は神力はあるが攻撃手段を知らない。防御フィールドさえ上手く使えないのだ。アリスがちょっと練習したことあるくらいか。

 ここは俺が食い止めるしかない。


「でも、ここで待ってるだけでは、ちから比べにしかなりませんね」とイリス様。確かに、その通りなんだが。

「あのような使徒を動かせればいいんですが、私達にはいませんからね」イリス様は残念そうに言った。

「確かに、神界へ乗り込むしかないんだろうけど、ここを離れるわけにもいかない」

「そうね」アリスも悔しそうにしている。


 そんな俺達を見ていたミゼールが、ぐっと俺の前に出た。

「我等侍女隊が、奥方様を守ります。マスターは神界へ行ってください」


「いや、そういう訳にはいかん」俺がそう言うと、ミゼールは手に持った魔法ドリンクを俺に見せて笑った。


「これを使いますマスター。私達にお任せください」

「お前も、持ってたのか!」

「我だけではありません」すると、後ろにいた侍女隊全員も魔法ドリンクを掲げて見せて笑った。


「今日は、これから訓練の予定だったんです」とミゼール。なるほど、それでピルーセが持ってたのか。侍女隊は、俺ほど強力ではないが、しっかり訓練しているからな。防御フィールドを張ることくらいなら問題無い筈だ。

「分かった。じゃ、嫁達を頼む。なんとか一日守ってくれ!」

「はい。後宮は我ら侍女隊にお任せください」


「「「「「「お任せください」」」」」」


 さすがに、上級神が何人も顕現してきたらヤバいだろうし、本当は戦力を分散させるべきじゃないかも知れないが、どのみち後宮でパワー全開で戦う訳にはいかない。そこまで、酷くはならないだろう。


「リュウジ、侍女隊のみんなが体張って助けてくれるんだから、絶対なんとかして来てよ!」とニーナ。

「分かってる!」

「わたくしたちは、大丈夫ですわ」とセレーネ。

「うん、だいじょーぶだよ」とミルル。

「テイアさんも居るし大丈夫です」とセシル。

「はい、平気です」とアルテミス。

「わらわも、飲みたいのじゃ」絶対だめです!

「じゃ、後のことは侍女隊と女神様に任せた。俺は神界に殴り込んでくる」

「分かったわ」アリスが強く頷いてくれた。


 しかし、侍女隊は、いつの間にこんなにしっかりしたんだ? 全員で、魔法ドリンクを煽ると、魔力場が一気に広がった。さらに酒瓶を煽ると、嵐のように魔力場が渦巻いた。ん? 酒瓶?


「あ、でも、酒はまずくないか?」もう飲んでるけど。


「何を言っておるか。我らがいるのだ。問題ないのだ」とウリス様。次々と酒瓶を転移で取り出している。そんなにストックあるんだ。

「さぁ、じゃんじゃんやってくれ!」


 なんだろう、意味は分かるんだが、未成年が酒盛りしてるようにしか見えないんだけど。いや、別に、この世界では禁止されてないんだけどね? 大丈夫かよ。


「何を心配しとるのだ? どうせお前の嫁になるのだ、そしたら使徒になるのだから問題ないのだ」ウリス様、むちゃくちゃなこと言ってますけど? てか、どさくさに紛れて気になる預言までしてるし。


「そんなことより、お主は大丈夫なのか? ほれ、これを飲んで行け」そう言って、酒瓶を渡してくるウリス様。いや、もう俺、十分酔っぱらってるんだけど?

「これ以上はヤバくないかな?」

「行けるとこまで行けばいいのだ」とウリス様。


 まぁ、言われてみればそうだ。神界に殴り込みに行くのに、手加減してる場合じゃない!


「もう、こうなったら、破れかぶれだ」俺はウリス様から酒瓶を受け取って。ぐびぐびと煽った。


「じゃ、後は任せたっ!」


「はい。お任せください。もう、飲みまくります」とミゼール。


 なんか、ちょっと違う気もするが、もう気にしない。シビアな場面なのに宴会みたいになってるのは、気のせいに違いない。


 けど、神界に殴り込む俺って、これ完全に魔王じゃん。

 一抹の不安と共に、俺は、神界へと転移するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る